HDLコレステロールは高ければ良いってもんじゃない? その4

通常はHDLコレステロール値が高い方が心血管系疾患のリスクが低いと考えられています。

HDLには様々な機能があります。内皮機能改善作用、抗酸化作用、抗炎症作用、コレステロール逆転送(輸送)作用などがあります。これら機能により、HDLは抗動脈硬化作用を示すと考えられます。

HDLに備わっているこれらの機能のうち、もっとも大切なのは、動脈硬化が起きている部位(プラーク)に存在するマクロファージなどの細胞からコレステロールを引き抜いて、コレステロールを逆転送し、肝臓に運んで胆汁より便に排泄する働きです。

しかし、いくらHDLが多くてもHDLの質、機能が悪く、このコレステロール逆転送作用が低下していればどうしようもないわけです。

そのHDLの機能に影響を与えるひとつがアポリポタンパク質のapoCⅢです。これは以前の記事「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その5」にも登場したものです。より小さい、より密度の高いLDL粒子は、1粒子あたりより多くの量のapoCⅢを持っていて、ビグリカンとの結合能も高く、アテローム性動脈硬化を起こしやすいと考えられます。

apoCⅢを含むHDLにも問題があります。apoCⅢはHDL以外に中性脂肪が豊富なカイロミクロンやVLDL、LDLにも存在します。HDLに含まれるapoCⅢの割合が高いと冠動脈疾患のリスクが高くなります。

 

上の図は(図は原文より)HDLに含まれるapoCⅢの割合の図です。左の黒いバーが冠動脈疾患の群、右のグレーのバーが非冠動脈疾患の群です。明らかに冠動脈疾患の群の方がHDLに含まれるapoCⅢの割合が高くなっています。この研究ではスタチンを使っているかどうか、糖尿病かどうか、喫煙者かどうかというのは関連が認められませんでした。

上の図はコレステロールを引き抜く能力を示していますが、明らかに非冠動脈疾患の群で引き抜き能は高くなっています。

HDLに含まれるapoCⅢの割合が高くなるほど、コレステロール引き抜き能は低くなっています。ただ、ものすごく違うかというとそうでもありません。この違いが動脈硬化に大きな違いを生むのかは私にはわかりません。

また、apoCⅢは中性脂肪が多いと増加するので、中性脂肪値が高いと冠動脈疾患のリスクが高くなるのも納得できます。

別の研究では冠動脈疾患の患者におけるスタチンによる治療前後での脂質に対する影響を調べたところ、HDLコレステロール値は1.05mmol/L(40.6mg/dl)から1.21(46.8mg/dl)に増加し、LDLコレステロール値は2.84mmol/L(109.8mg/dl)から2.19(84.7mg/dl)に減少したのですが、HDLに含まれるapoCⅢは逆に24.26(ug/mgHDL)から29.35に増加してしまいました。これは普通に考えるならば、スタチンによって増加したHDLコレステロールは機能不全のapoCⅢを豊富に含んだHDLが増えただけです。

つまり、いくらHDLコレステロール値が増加しても、機能不全のHDLが増えたならば、意味がないわけです。やはりそこで考えなければならないのは中性脂肪値でしょう。中性脂肪値が非常に高い状態でのHDL増加は質の悪いHDL増加だと考える方が妥当だと思います。

糖質制限をして、中性脂肪は100以下を目指しましょう。

 

「ApoCIII enrichment in HDL impairs HDL-mediated cholesterol efflux capacity」

「HDLに豊富に含まれるapoCⅢは、HDLによるコレステロール引き抜き能力を損なう」(原文はここ

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