太った人と痩せた人の高糖質低脂肪の食事をした後の代謝の違い

太った人とやせた人では同じ食事をしても代謝が違うようです。人間のホルモン分泌や代謝のシグナルは炭水化物(糖質)を摂取すると、その炭水化物を利用するためにエネルギーにする(酸化する)、貯蔵することを優先して調整されています。そのために脂質やタンパク質の代謝に影響を与えます。

糖質を摂取すると脂質の酸化が抑制され、余った糖質は脂肪に変換され貯蔵されます。つまり、糖質は脂肪をため込む方向へ代謝を向かわせることになります。つまりそれによって肥満となるわけです。体内でのそれぞれの栄養素の酸化や脂質の合成は、やせた人と太った人ではどのように違うのでしょうか?

やせた男性と過体重の男性の研究で、17.5時間の絶食後、高炭水化物低脂質の食事を摂取させて、代謝の違いを見たものがあります。数は少ないですが、BMIが25未満のやせた男性6人(平均のBMI=20.8)と27を上回る過体重の男性7人(平均のBMI=30.8)を比較しました。炭水化物55%、タンパク質15%、脂肪30%の食事を3日間、体重を維持するように設計されたエネルギー量を摂取しました。その後17.5時間の絶食をして、その後に実験用の食事を提供しました。実験用の食事は食事は、炭水化物として80%(ショ糖53%、ラクトース27%)、タンパク質17%、脂質3%です。(図は原文より)

 

上の図は上から順に血糖、インスリン、中性脂肪、遊離脂肪酸の値を表しています。横軸は時間で、▲のところで実験用の食事を摂取しています。実線がやせた人で、点線が太った人のグラフです。そうすると、当然高炭水化物の食事なので、やせた人も太った人も血糖値やインスリン値は上昇し、脂肪酸は低下しています。やせた人と比較すると、絶食時の血糖値は太った人の方が高く、食後はやせた人とは違いはありませんでした。しかし、インスリンは絶食時も太った人の方が有意に高く、食後はかなりの差が出ています。

中性脂肪は絶食時にも太った人の方が高いのですが、食後もやせた人よりも有意に高いままです。やせた人の中性脂肪値はほとんど変化していません。

脂肪酸は絶食時には違いは認めませんが、食後は太った人の方が高くなりました。

 

上の図は非タンパク質呼吸商というもので、どのような栄養素が酸化されてエネルギーになったかを測定するものです。脂肪のみが酸化されるとその値は約0.7になり,炭水化物のみが酸化されると1.0になります。酸素消費量、二酸化炭素産生量、尿素窒素排泄量などから、どのような栄養素がどれだけエネルギーになったかがわかります。単純に見て、太っている人の方が食後ほとんど1に近いことがわかります。やせた人も上昇していますが、太った人と比較すると低めであることがわかります。

 

上の図は肝臓での脂肪酸合成を表しています。脂肪酸合成は絶食時からやせた人よりも太った人で多く、食後の増加はどちらの群でも起こっていますが、やせた人では120分後ではすでに低下しています。しかし、太った人ではその後も増加したままです。上の図の下のグラフの黒いバーが太った人で白いバーがやせた人です。左側が絶食時、右側が食後です。脂肪酸合成量にかなりの違いがあることがわかります。

実際のエネルギー消費量や栄養素の酸化、脂肪酸合成の測定値は下の表のようです。(表は原文より改変)

 

 

変数やせ(n = 6)過体重(n = 7)
空腹時
安静時エネルギー消費(kJ・kg FFM(除脂肪体重) -1・7.5時間-1) 34.5±0.5 32.6±1.2
炭水化物酸化(mg・kg FFM -1 ・7.5時間 -1) 720.4±110.1837.9±141.0 
脂質酸化(mg・kg FFM -1 ・7.5時間 -1425.9±39.5312.0±63.0
タンパク質の酸化(mg・kg FFM -1 ・7.5時間 -1278.2±44.1311.1±64.7
食後
エネルギー消費(kJ・kg FFM -1・ 4時間 -124.9±0.329.8±1.2
食事誘発性熱産生(DIT)(%)3.56±0.86.65±1.2
炭水化物の酸化(mg・kg FFM -1 ・4時間-1850.8±55.9 826.9±76.6 
脂質酸化(mg・kg FFM -1・4時間-1169.8±56.630.8±25.2
タンパク質酸化(mg・kg FFM -1 ・4時間-1337.5±42.6472.3±54.2 
食後の脂質生成(g / 4時間)-11.05±1.93-2.87±2.7 

面白いことに、空腹時のエネルギー消費は除脂肪体重当たりで考えると、やせた人の方が多いのです。そして、脂質をエネルギー源として使う量が太った人よりも多く、逆に太った人は炭水化物やタンパク質をエネルギー源として多く使っていることがわかります。

食後では太っている人の方がエネルギー消費量は増加し、食事誘発性熱産生が高くなります。炭水化物の酸化はどちらもかなり増加していますが、太っている人の方が脂質の酸化の低下が極端に大きくなっています。つまり、脂肪燃焼が起きにくくなっているのです。そのかわり、タンパク質の酸化量は非常に増加しています。

脂質生成(脂肪酸合成)はやせた人で非常に低下しています。太った人の低下はあまり大きくありません。

つまり、同じ高炭水化物低脂肪の食事を摂っても、太った人では脂質の酸化は低下し、その分炭水化物とタンパク質の酸化が増加し、さらに脂肪酸合成も多くなるのです。肝臓での脂肪酸合成の増加はVLDLの産生量の増加となり、VLDLは中性脂肪をいっぱい詰め込んで血中を流れるのです。太った人が糖質を摂ると、脂肪が燃焼せず、どんどん脂肪量が増えてしまいます。やせた人とは代謝の仕方が変化してしまっているのです。太っている人はより太りやすくなってしまっています。

ですから、やせるためには糖質量を減らすしかありません。

 

 

「Postprandial de novo lipogenesis and metabolic changes induced by a high-carbohydrate, low-fat meal in lean and overweight men」

「やせた男性と過体重の男性において、高炭水化物低脂肪の食事によって食後の脂質生成と代謝の変化が誘導される」(原文はここ

2 thoughts on “太った人と痩せた人の高糖質低脂肪の食事をした後の代謝の違い

    1. よしださん、コメントありがとうございます。

      どちらとも言えると私は思っているのですが。
      だから悪循環になると。

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