漢方の世界では「瘀血」(おけつ)という状態があり、様々な症状に関係していると考えられています。瘀血は漢方で言うところの「血」(けつ)の流通に障害、停滞を来した病態です。西洋医学で言えば「微小循環障害」だと思います。
例えば、皮膚に糸ミミズが這ったような血管を認めることがありますが、「細絡」といって瘀血の所見です。
この細絡、私は「グリコカリックス」の減少が原因ではないかと現在考えています。急に「グリコカリックス」という言葉が出てきましたが、以前の記事「高血糖は血管内皮細胞の機能不全を起こし、血管の拡張を妨げる」の最後で予告した「毛」です。お菓子みたいな名前ですがお菓子ではありません。写真を見ると毛のように見えますが、実際は毛ではありません。健康な血管では内腔にびっちりとこの毛、グリコカリックスが生えています。(写真はこの文献より)
グリコカリックスは別に特別な物質ではなく、私たちの口の中の細菌の主に虫歯の原因ともなるミュータンス菌は、口の中に残る糖質を使ってグリコカリックスを作り出し、それによってバイオフィルムという抗生物質などから身を守るためのバリアを形成します。
血管の内腔のグリコカリックスの存在はかなり前からわかってはいましたが、数年前から麻酔の世界でも話題になっています。そして、様々な疾患、病態にも大きく関連していると考えられています。血管にとってもグリコカリックスは一種のバリアです。
グリコカリックスが様々な要因で減少すると、血液の循環に問題が起きてきます。(図は原文より)
上の図のAは健康な状態、Bは何らかの病態のある不健康な状態です。点線が2本ひいてありますが、左側が動脈、真ん中が毛細血管、右側が静脈と考えてください。血流は動脈から流れてきて、毛細血管を通り、静脈へと流れていきます。
Aの健常な状態ではグリコカリックスも正常です。グリコカリックスは血管壁に厚い層作っています。そうすると赤血球(図の赤い点)がグリコカリックスの層へと入っていくのを防ぎ、赤血球が圧縮されたような形になり、そのことでスムーズに赤血球が流れていきます。Bの不健康な状態では、グリコカリックスが減少した状態が長期間続くと、機能しない毛細血管が増加したり、赤血球が内腔の血管壁(内皮)に近いグリコカリックスに深く浸透してしまいます。そのことが血流を遅くさせ、非効率的な血流不良をもたらします。
まさに瘀血の状態です。細絡はグリコカリックスが減少して、血管壁に非常に近いところに赤血球が存在しゆっくりと滞って流れることで、この毛細血管の血流の不良や途絶などが目に見えている状態なのではないかと考えられます。
また、グリコカリックスの減少は血管の透過性を増加させるので、浮腫を起こしやすくします。さらに血管内皮の機能不全ももたらして一酸化窒素(NO)が減少し、以前の記事「高血糖は血管内皮細胞の機能不全を起こし、血管の拡張を妨げる」の内容にあった血管の拡張が妨げられるのです。
瘀血がグリコカリックスの減少であるならば、漢方薬はこのグリコカリックスを保護する作用があるのかもしれません。漢方薬には瘀血を改善するものがたくさんあります。私にとっては非常に興味深い仮説です。
「Deeper penetration of erythrocytes into the endothelial glycocalyx is associated with impaired microvascular perfusion」
「赤血球の内皮グリコカリックスへのより深い浸透は、微小血管灌流障害に関連する」(原文はここ)
スーパー糖質制限をして2年半が経過している者です。40歳頃から下肢静脈瘤が発症していまして、何度も手術やレーザー治療をしておりますが、その甲斐もなく再発しております。治療費も馬鹿にならないので今は弾性靴下で対応しています。
下肢静脈瘤もグリコカリックスが影響していますか?基本的には弁不全なのですが。
先生のお考えはいかがですか?
どうかよろしくお願いいたします。
ジェームズ中野さん、コメントありがとうございます。
恐らくは弁不全がメインだと考えられます。
それ以上は現在のところわかりません。