現在、心不全の人には塩分制限が推奨されています。しかし、心不全に塩分制限が必要なのでしょうか?利益はあるのでしょうか?エビデンスはあるのでしょうか?
これまでの研究を調べてみると、心不全を治療するために塩分摂取量を減らすことを評価したランダム化比較試験で分析できる研究は9件しかなく、しかもどの研究も対象が100人に満たないものばかりでした。
塩分制限が死亡率または心疾患を減少させたことを示すデータはありませんでした。
塩分制限により、心不全のNYHA(New York Heart Association)分類というのもがありますが、2つの外来患者の研究ではNYHAのクラス分類が改善したとしていましたが、その他の研究では違いを認めなかったとしています。
心不全に対する塩分制限の利益は十分なエビデンスが存在していません。もちろん、塩分制限の効果がないことを示すものでもありません。だから、心不全に塩分制限を推奨することはできません。
「Reduced Salt Intake for Heart Failure: A Systematic Review」
「心不全のための減少された塩分摂取量:系統的レビュー」(原文はここ)
しかし、上の研究でのシステマティックレビューでは採用されなかった研究で、明らかに塩分制限が有害であることを示した研究もあります。(図は原文より)
上の図はBNP値です。1日量として低ナトリウム80mmol=1.84gで塩分だと4.67gの食事、と通常量ナトリウム120mmol=2.76gで塩分だと7.01gの食事で比較しています。BNPの基準値は18.4pg/mL未満とされ、心不全の診断の指標とされています。
40pg/mL以上~100pg/mL未満であれば要観察ですが、通常量ナトリウム食で180日後では200pg/mL以上~500pg/mL未満であり、心不全の可能性があるため、専門医による治療が必要な範囲です。
低ナトリウム食群では90日後でも180日後でも500pg/mL以上となっており、重症な心不全の可能性がきわめて高く、入院加療の必要性が示唆される範囲となります。つまり、低ナトリウム食は明らかに心不全を悪化させてしまったのです。
上の図は左がレニン活性、右がアルドステロン値です。低ナトリウム食では明らかに180日後レニン活性とアルドステロン値が増加し、通常量ナトリウム食ではやや減少しています。レニンアンギオテンシンアルドステロン系は血管を収縮させたり、ナトリウムの再吸収を増加させたりすることで、心不全悪化させます。
上の図は再入院率です。低ナトリウム食の方が明らかに再入院が多いことがわかります。
上の図は再入院と死亡率を合わせたものです。これまた低ナトリウム食では再入院と死亡率が高いことがわかります。
つまり、決して心不全にとって塩分制限は良いことではないということです。
最近の江部先生のブログでは、糖質制限食に関しての記述で
塩分に関しては、スーパー糖質制限食の場合は、制限の必要はありません。
「スーパー糖質制限+塩分制限」だと、塩分不足で身体がだるかったり、集中力が低下することがあるので注意が必要です。
と書かれています。
以前から述べていた塩分制限不要論(「糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合」「塩分を制限することによる血圧の低下は、たった1!」など参照)を認めていただいた形になりうれしく思っています。
糖質制限をしているなら塩分制限は必要ないでしょう。塩分制限が健康に利益をもたらすという十分なエビデンスはありません。
「Normal-sodium diet compared with low-sodium diet in compensated congestive heart failure: is sodium an old enemy or a new friend?」
「代償性鬱血性心不全における低ナトリウム食と比較した通常ナトリウム食:ナトリウムは古い敵なのか新しい友人なのか?」(原文はここ)