冠動脈造影は将来の心筋梗塞を予測しない

心臓の冠動脈はアテローム性動脈硬化症がだんだんと進展して、最終的に閉塞すると考えられています。

図は日本光電のホームページより

上の図はアテローム性動脈硬化症の進展の模式図ですが、内皮の傷害があり、LDLコレステロールが動脈壁に入り込み内膜に蓄積し、マクロファージによって泡沫細胞が増加してプラークを形成して、プラークがどんどん大きくなり隆起し、最終的には破裂してそこに血栓ができて動脈が閉塞する、というように考えられています。

しかし、ちょっと古い論文ではありますが、本当にこのような仮説が本当なのかと疑問を持たされるような研究があります。

急性心筋梗塞を起こす前および心筋梗塞後1ヶ月後までに冠動脈血管造影を受けた患者42人の血管造影を評価したものがあります。 29人の患者が新たに閉塞した冠動脈がありましたが、これらの29人の患者のうち25人は、最初の血管造影で50%を超える狭窄を伴う少なくとも1つの動脈に認めました。つまり4人は50%を超える狭窄はありませんでした。16人は単一の血管に50%を超える狭窄を認めていました。8人が2つの血管、1人が3つの血管に狭窄を認めていました。

しかしながら、29人中19人(66%)の患者において、その後閉塞した動脈は、最初の血管造影で50%未満の狭窄でしかなく、29人中28人(97%)において、狭窄は70%未満でした。29人の患者のうち26人(90%)の狭窄部位では、1mmを超える最小直径でした。つまり、血管造影的に重篤な冠動脈狭窄は、最初の血管造影ではその後の梗塞部位の動脈にまれにしか存在しなかったのです。

すべての患者において、最初の血管造影で、その後の閉塞部位の冠動脈壁に少なくともいくらかの不規則性が存在していました。 29人中10人(34%)のみが、最初の血管造影で最も重症の狭窄を含んでいた動脈の閉塞により梗塞が発生しました。

さらに、最初の冠動脈狭窄の重症度と、最初の血管造影から梗塞までの時間との間に相関関係は存在しなかったのです。しかも、最初の血管造影から心筋梗塞の発症までの間隔は、有意な冠動脈狭窄を伴わない患者(131日)の方が1本の血管狭窄を持っていた患者(1,029日)や2本の狭窄を持っていた患者(594日)より少なかったのです。

42人の内この29人以外の13人では、梗塞の原因となっている冠動脈の部位を明確に特定することができなかったので、梗塞を引き起こしたと推定される冠動脈閉塞部位を用いて分析した場合、29人と同じように、梗塞前の梗塞関連動脈における最も重度の狭窄は、13人中8人(62%)で50%未満、全13人で70%未満でした。

心筋梗塞では前兆を起こさずに発症することが半分近くあります。つまり、アテローム性動脈硬化症がだんだんと進展して狭窄が重症化して、そこに血栓が詰まるというよりは、狭窄が進んでもいない状態で、急に冠動脈が血栓で閉塞することの方が多いようです。全体の3分の2は以前の狭窄が軽度の冠動脈が詰まっており、42人中13人(30%)の梗塞の人では梗塞後にすでに冠動脈の閉塞が解除されており、血栓が無くなって、心筋梗塞の原因となる部位を明確には特定できない状態でした。

ただ、梗塞が起きた部位の冠動脈壁に不規則性が認められていたということは、その部位の内皮細胞に傷害が起きていることを示唆しています。そうであるならば、アテローム性動脈硬化症そのものが悪さをしているというよりは、グリコカリックスの減少により凝固系が亢進したり、血管内皮細胞が傷ついてその傷を修復するために血小板などが急速に集まって血栓を作ってしまったか、血管の内膜に入り込んでいる外膜からの栄養血管が破たんして、その部位に出血して、急激に血管壁が膨らんで最終的に内皮細胞を破って血栓が閉塞してしまったかどちらかだと思われます。(以前の記事「糖尿病とグリコカリックス」「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その3」など参照)

ただ、30%の人では心筋梗塞後冠動脈の閉塞が解除された後の冠動脈は原因部位が特定できないほどの狭窄しか認めませんでした。ということは、血管の内膜で出血して血管壁が膨らんで狭窄が急に強くなった後、血栓ができたというのは矛盾があります。そうであるならば、ただ単に血栓が血管内腔でできたか、内膜の出血が狭窄を強くしない前に、すぐに血管内皮を突き破って血栓ができた可能性の方が高いでしょう。

どちらにしても、LDLコレステロールの出番はありません。

そして、頻繁な冠動脈造影検査はあまり意味がないことにもなります。心筋梗塞を予測できないのですから。さらにステント留置の適応も検討が必要でしょう。もちろん心筋梗塞、不安定狭心症に適応がありますが、現在アメリカでは適応がない患者へのステント留置が問題になっています。つまり本来ステントを入れなくても良い患者に不安定狭心症としてステントを入れてしまうのです。(その論文はここ)(関連英文記事はここ

JAMA Internal Medicineに発表された論文で、3つの州の外来センターでは、不適切な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の使用を隠すために安定狭心症から不安定狭心症にアップコードしているというのです。PCIの割合は2010年から2014年に、ニューヨークでは0.6%から8.3%、ミシガンでは2.4%から6.5%、フロリダでは2.4%から3.8パーセント%にそれぞれ上昇しています。特にニューヨークでは14倍近くになっています。しかし、患者は心臓の問題なので医師に治療が必要だと言われれば躊躇なく承諾するでしょう。

恐らく日本でも一部の医療機関では行われているでしょう。異常にステント留置件数の多い医療機関に対しては注意が必要でしょう。腕が良いから患者が集まっているのか、必要がないステントをたくさん入れているか?一般の人にはなかなかわかりませんが。

「Can Coronary Angiography Predict the Site of a Subsequent Myocardial Infarction in Patients With Mild-to-Moderate Coronary Artery Disease?」

「冠動脈造影は軽度から中等度の冠動脈疾患患者におけるその後の心筋梗塞の部位を予測できるか?」(原文はここ