LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その3

内膜の構造は、たった一層の細胞と、その下にあるほとんど細胞の存在しない組織でできているわけではなく、何十層にもなる細胞が重なっていることを前回の記事「その1」で書きました。そして、脂肪は最初に内膜の浅い層に蓄積するわけではなく、深い層に蓄積していきます。

内膜というのは全く血管がありません。栄養や酸素はもちろん必要ですから、どこからか栄養と酸素をもらわなければなりません。人間の角膜にも血管がありません。角膜に栄養や酸素を届けるのは涙です。血管の内皮ではすぐ近くに血液が十分に流れているので、そこから酸素や栄養が拡散してくると考えられます。つまり、内皮用の血管ではなく、その内皮が形作る血管の内腔の血液から栄養や酸素がしみ込んでくるようなものです。

そうすると、しみ込んできた栄養や酸素は内膜が薄いときは問題は起こりませんが、内膜が厚くなると段々と深い層には十分な栄養や酸素が行きわたりにくくなります。組織は栄養や酸素がなければ死んでしまうので、どこからか供給しないとなりません。

先ほどの角膜では、コンタクトレンズを長時間、長期間付け続けると、酸素や栄養が不足してきて、角膜に周りから血管が進入してきます。血管新生というものが起こるのです。

それと同じことが動脈の内膜でも起こります。

(DIT(びまん性内膜肥厚)、pre-PIT(前病理学的内膜肥厚)、PIT(病理学的内膜肥厚))

外膜に栄養を与える栄養血管が、ぶ厚くなって酸素欠乏になっている内膜の方へ、どんどん血管を伸ばしてきます。(血管新生)そこから脂質が出てきて蓄積を始めていくという考えです。こう考えると内膜の深い層に最初に脂肪が蓄積することを説明できます。

 

しかし、血管新生が起こることはこの内膜の増殖により、内膜が厚くなり、酸素や栄養が届きにくくなるために説明できますが、そもそも内膜がどうして年齢とともに厚くなっていくのでしょうか?

内膜は様々な刺激により厚くなりやすい組織であるようです。なぜ厚くなりやすい組織なのかはわかりません。川崎病では血管炎を起こし、子供でも心筋梗塞を起こす可能性があります。冠動脈の狭窄にステントを入れた後に内腔が再狭窄を起こすことがあります。以前の金属のみで作られたステントでの治療を受けた患者さんの約30~40%が、ステント治療の後に再び冠動脈の狭窄が起きていたそうです。これは内膜が増殖して起こります。現在のステントは薬剤が溶け出るようになっていて、この再狭窄を防止するようになっています。また、カテーテル検査や治療で、カテーテルそのもので血管が傷ついて、その後内膜が増殖する場合もあります。

つまり、炎症であっても機械的な刺激であっても、内膜を増殖させるのです。機械的な刺激は医療行為でしかありませんから、通常は炎症が一番多いのかもしれません。いずれにしても、「その1」で示したように、生まれたときは非常に薄かった内膜は、様々な刺激を受け、年々増殖して厚くなっていきます。

ただ、この内膜の増殖は自然の流れ、つまり成長過程で誰にでもどんな場合でも起こることなのでしょうか?それはわかりません。しかし、私はこの内膜の肥厚が自然の成長ではない、と思っています。ある程度の加齢により起こる変化としては、この肥厚は理解できますが、赤ちゃんからの成長過程で、どんどんぶ厚くなるのです。加齢によるものであれば、ある程度成人してから起こり始めても不思議ではありません。

内膜が肥厚して血管の内腔が狭くなることは決して利益にはなりません。もちろん血管の壁がぶ厚くなれば、その分、丈夫になるとは思いますが、非常に重要な血管の壁が不完全な状態で果たして生まれてくるのでしょうか?大人になるまでに内膜の細胞はほぼ毎年1層ずつ増えていきますが、子供であっても血圧は上昇しますから、薄い内膜で不十分であれば、子供のときに血管が破れてしまうリスクが高くなります。実際には違います。また、栄養や酸素が行き渡らないぐらい内膜が厚くなることがあらかじめ遺伝子にプログラミングされているとは考えにくいです。栄養や酸素が行き渡らなくなることは、明らかに不具合です。

私の考えでは、この年齢とともに内膜が増殖するのは、糖質過剰摂取による影響ではないかと思っています。

3 thoughts on “LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その3

  1. はじめまして
    管理栄養士の中川と申します。いつもブログを拝見しています。
    動脈硬化の原因について、真島先生の仮説を清水先生はご存知でしょうか。
    真島消火器クリニックのHPの「動脈硬化の未来塾(11)」に、脂肪滴が流体力学的な作用で動脈の内皮細胞間隙にはまり込み、正常血圧で後押しされて血管壁内に順次後ろから押されるように沈着していく・・・など、真島先生の仮説が分かりやすく書かれています。http://majimaclinic22.webmedipr.jp/kanzenyobou/column2/11.html
    動脈硬化から引き起こされる病気は、動脈硬化というよりプラークが原因で、マクロファージはプラークをせっせと除去しょうとしているのに厄介者と誤解されている、食事をマクロファージが喜ぶ食事に変えてプラークを減らすことが心筋梗塞や脳梗塞の予防になるとおっしゃっています。
    真島先生の仮説は、素人の私の腑に落ちました。ただ、できるだけ油は控える食事ということで、必須脂肪酸は体でつくられないから食事から摂らなければいけないと習ったけれど、それはいいのかしらと疑問に思っています。先生は、真島先生の仮説をどう思われますか。研究熱心な清水先生はどう思われるのか伺いたくなり、思い切ってコメント書き込ませていただきました。スミマセン、不適切なコメントだったら遠慮なく削除してください。よろしくお願いいたします。

    1. 中川さん、コメントありがとうございます。
      私の今回の仮説も、出発点は同じです。動脈硬化の“Response to Retention”説です。
      しかし、それでも疑問点はすべて解消できません。
      LDLコレステロールが最初の段階で関係していないことは同意しますが、微粒子の脂肪滴が・・・というのは、何でしょう?
      中性脂肪が単独で流れているのでしょうか?
      食事から血管内に入った脂肪滴が血管内をそのままの形で流れているという証拠は?
      水に溶けない脂肪滴はどのようにして血管内を流れるのでしょうか?親水性、疎水性は関係しないのでしょうか?
      普通は吸収された脂肪はカイロミクロンに乗って運ばれますが、そうではない脂肪が存在するのなら、それは何でしょうか?
      中鎖脂肪酸のことでしょうか?中鎖脂肪酸は直接血管内(門脈)に入り肝臓に運ばれます。

      >脂肪滴が流体力学的な作用で動脈の内皮細胞間隙にはまり込み、正常血圧で後押しされて血管壁内に順次後ろから押されるように沈着していく

      脂肪滴が内皮細胞間隙にはまり込み血圧で押される、というのであれば、もっと小さな水分子は簡単にその隙間を通り抜けます。
      ただ単に流体力学的な作用であれば、この脂肪滴よりも小さな物質はどんどん、内皮細胞を通り抜けてしまいます。
      そうしたら大変なこと(解離性の動脈瘤など)になります。内皮細胞は網目のように隙間だらけではないでしょう。

      また、細い動脈でも同じような現象が起きているとするなら、当然細い動脈から閉塞していきます。
      そうしたら、頭の動脈は詰まり麻痺になったり目が見えなくなったり、手の血管だって詰まってしまい、手が腐りますし、
      心筋梗塞が起きる前に大変な状態になってしまいます。

      何らかの証拠があれば検討できますが、この先生だけの個人的な考えなので、私のブログ同様好きなことを言えば良いのではないでしょうか?

      面白い説ですが、所詮仮説です。
      私が言っていることも所詮仮説です。そして、これまで言われていたメカニズムも所詮仮説です。

      仮説は想像力を駆り立てるので面白いですが、なかなか矛盾の内容に説明することは難しいです。
      これまでの仮説は矛盾があるので、今回のような記事を書かせていただいています。
      何かのお役に立てば幸いです。

  2. 先生、色々詳しく書いてくださりありがとうございます。
    先生の指摘を読ませていただき、確かに・・・と思いました。
    色々読ませていただいて、視野を広く持ちたいと思います。
    ありがとうございました。

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