基礎代謝量というのは、様々な計算式がありますが、ハリス・ベネディクトの式というものでは、次のような計算式になります。
男性:66.47+13.75×体重(kg)+5.0×身長(cm)-6.76×年齢
女性:665.1+9.56×体重(kg)+1.85×身長(cm)-4.68×年齢
つまり、年齢と共に少しずつ低下し、体重が増加すれば基礎代謝も増加し、体重が減れば、基礎代謝も低下します。
通常の生活を送っている状態で、体の状態の変化も少なければ、このような式で推測した基礎代謝量で問題はないのかもしれません。
しかし、どんな場合も基礎代謝量はほぼ一定のままなのでしょうか?
1日のエネルギー消費量はこの基礎代謝が約60%、食事誘発性熱産生(DIT)が約10%、身体活動量が約30%と考えられています。
カロリー制限はこの基礎代謝量が一定であるという仮説で成り立っています。つまり、エネルギー摂取量とエネルギー消費量が釣り合っていれば体重の変化はなく、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を下回ることにより、体重が減少するというものです。本当でしょうか?
人間のエネルギーを家計で考えてみましょう。仕事の収入がエネルギー摂取量、支出がエネルギー消費量です。収入が支出と釣り合っていれば良いのですが、収入が減ったらどうなるでしょうか?エネルギーと同じに考えて、2000万円の年収があったとしましょう。カロリー制限同様、収入が500万円減少した場合、最初は貯金を切り崩していくかもしれません。このとき貯金は減っていきます。体で言えば体脂肪が減っていきますので、痩せていきます。
しかし、支出がそのままでは赤字であり、貯金も底をつきます。そうならないためには支出を見直します。お小遣いは減り、食費を削り、趣味にかけるお金を減らし、光熱費を減らします。そうして500万円の減収を何とか釣り合うようにします。
人間の体も同様です。摂取エネルギーが減れば、エネルギー消費量が減っていきます。食べる量が減れば、食事誘発性熱産生は減り、活動量が減ります。しかし、日常生活をしていれば、極端な活動量減少が起きるわけではありません。そうすると、一番大きな割合の基礎代謝量を減らすしかありません。
基礎代謝の中には食事による熱産生ではなく、通常の体温を保つ熱産生があります。体を作る様々な反応も熱を生み出しエネルギーを必要とします。体の様々な代謝にもエネルギーが必要です。絶え間なく働いている脳や心臓はもちろん大量のエネルギーを必要とします。
このような基礎代謝を低下させなければ、消費エネルギーは減りません。つまり、人間としての重要な働きが低下してしまうのです。摂食障害のような極端なエネルギー摂取量の低下は命に関わります。そこまでは行かなくても、カロリー制限では、元気や活力が低下し、傷の治りが悪くなり、肌や髪の毛などの質は低下し、心臓や脳の働きまで弱める可能性があります。
つまり、基礎代謝量は一定ではないのです。自分の状態に見合ったエネルギーを摂取していない場合には、基礎代謝量を下げるしかないのです。
さらに、減量のためにカロリー制限にプラスして運動を行うことも推奨されることがありますが、今述べてきたように、生きるための機能を低下しなければならないのに、その上運動したら、さらに基礎代謝に使えるエネルギーは低下し、基礎代謝量を減らさなければなりません。長距離ランナーが食事の制限をして、練習をいっぱいすれば、疲労骨折、その他のケガ、精神の不調、生理の停止などが起きても不思議ではありません。
十分な体脂肪を蓄えているので、エネルギー摂取量が減っても、脂肪をエネルギーにすれば良いと思うかもしれません。確かにある程度はそうなるでしょう。しかし、カロリー制限は基本的に糖質過剰摂取です。糖質を摂るので、インスリン分泌が起きます。インスリンは脂肪の分解を抑制し、脂肪蓄積を促進します。
そうすると、十分な脂肪分解が起きず、エネルギー不足に陥り、基礎代謝を低下させることになってしまうと考えられます。摂取エネルギーの低下量に見合ったように、消費エネルギーを減少させてしまうのです。だから、思うように減量が進まず、飢餓感だけ増加します。(「カロリー制限では何年たっても空腹感が収まらない?」参照)
一番上の式で考えると、カロリー制限で10%(ここでは6kgとします)体重減少した場合の基礎代謝の減少は男性で80kcal程度、女性で60kcal程度です。しかし、実験上での24時間のエネルギー消費量を測定するとその低下は400~500kcalもあるのです。つまり、体重減少分以上の大きなエネルギー消費量の低下を招くのです。そうすると、人間は活動性を低下させなければなりませんし、当然基礎代謝も下げなければなりません。
いずれにしても、カロリー制限は非常に体に負担になるということでしょう。基礎代謝は決して一定ではありません。
「Long-term persistence of adaptive thermogenesis in subjects who
have maintained a reduced body weight」
「体重減少を維持している被験者における適応熱産生の長期持続」(原文はここ)