統計は非常に有用なものですが、それは使い方次第です。数字と言うのは非常に錯覚を起こしやすく、上手く使えば人を騙すことも可能です。
今回の研究は関節リウマチ患者にスタチン(アトルバスタチン40㎎)を使用した場合とプラセボを比較しました。さてその差は?
患者さんは50歳以上またはリウマチの持続期間が10年以上の成人3,002で、平均年齢は61歳、追跡期間の中央値は2.51歳でした。それをスタチン群とプラセボ群の2つにランダムに分けました。主要評価項目は、心血管疾患の死亡、心筋梗塞、脳卒中、一過性虚血発作、または動脈血行再建術でした。 (図は原文より)
上の図は、心血管イベントを起こさずに経過した期間を示しています。二つのグラフはほとんど重なっており、私には違いがわかりません。
スタチン群の24人の患者(1.6%)は、プラセボ群の36人(2.4%)が心血管系のイベントを起こしました。ハザード比(HR)0.66です。95%CIは0.39−1.11、p=0.115であり、統計的には有意差なしです。 ベースラインの差異、コンプライアンス、およびこの研究以外のスタチンの使用について調整した後、HRは0.60でした(95%CI 0.32-1.15、p = 0.127)。 大げさに表現すればスタチンで40%心血管イベントが低下したことになります。しかし、実際には2.4%と1.6%の違いなので、2.4-1.6=0.8%の違いしかありません。
NNT(治療必要数)は121です。120人はスタチンの恩恵を受けないのです。
上の図は心血管イベントの累積発生率です。3年目以降大きく違いがあるようにも見えますが、どんどん追跡してい人数が大きく減少しているので、精度の問題もあります。
LDLコレステロール値はスタチンでベースライン3.2mmol/L(約124mg/dL)→2.21mmol/L(約86mg/dL)に低下。プラセボではベースライン3.2mmol/L(約124mg/dL)→2.98mmol/L(約115mg/dL)に低下。どうしてプラセボでも下がるの?まあわずかなので、誤差やそのときの食事などの様々な要因で多少は変化しうるのでしょう。プラセボと比較してスタチンでは0.77mmol/L(約30mg/dL)多く低下しました。
LDLコレステロールの1mmol/L(約38.7mg/dL)減少あたりの推定心血管イベントのリスク減少は42%だそうです。大げさに見せますね。
総死亡率および原因別死亡率(冠動脈疾患での死亡、その他の血管性死亡および非血管性死亡)は2つの群間で差がありませんでした(スタチン群で25人(1.7%)、プラセボ群で27人(1.8%))。有害事象も差がありませんでした。
このように、非常にわずかの差しかありませんし、有意差もないのに、無理矢理LDLコレステロール値の減少とリスクの減少を大きく見せようとしています。そして、結論では、
「アトルバスタチン40mg /日は安全であり、関節リウマチ患者ではプラセボよりもLDLコレステロールの有意な減少をもたらした。40%(調整済み)心血管イベントのリスクの減少は、他の集団におけるスタチンの効果に関するthe Cholesterol Treatment Trialists’ Collaborationのメタアナリシスと一致している。 」
と訳の分からない結論を述べています。結局はスタチンは何の利益ももたらさないと結論すべきだと思います。しかし40%を強調することにより、騙そうとしている意図がうかがえます。この40%だけが独り歩きを始める可能性があるので注意が必要でしょう。
以前の記事「スタチンは誇大広告で成り立っている?」で書いたように、スタチンはこのような統計のトリックを使わないと、有効性があるように見せられないのかもしれません。
さらに、スタチンと関節リウマチの関係はもっと怪しいものがあります。それは次回の記事で。
「Trial of atorvastatin for the primary prevention of cardiovascular events in patients with rheumatoid arthritis (TRACE RA): A multicenter, randomized, placebo controlled trial」
「関節リウマチ患者における心血管イベントの一次予防のためのアトルバスタチンの試験(TRACE RA):多施設共同無作為化プラセボ対照試験」(原文はここ)