テレビなどでは糖質を思いっきり否定することは難しいので、かなりお茶を濁すような表現をしています。それでも昔に比べれば糖質は良くないというスタンスが感じられるようにはなりました。
テレビ番組などでよく言われている、食べる順であったり、脂質と糖質を同時に摂取すると、糖質の吸収が緩やかになり血糖値の上昇が抑えられる、という話は本当でしょうか?食べる順に関しては以前の記事「食べる順で確かに血糖値の上昇は抑えられるかもしれないが…」で書きました。ただし、その以前の記事の研究は2型糖尿病の方を対象にしたものです。
脂質と糖質同時摂取はどうでしょうか?(図は原文より)
上の図は平均29歳の健康な男性を対象にした研究です。ポテト50gだけ(ピンク)を食べたときと、ポテト50gとバター50gを食べたとき(黄色)の血糖値、インスリン値の増減量です。棒グラフは4時間の曲線下面積を表してします。黒の線は何も食べない場合です。左が血糖値、右がインスリン値です。
そうすると、血糖値のピークは食後30分であり、1時間後にはすでにベースラインに戻っています。すごいですね。その後ポテトバター群ではベースラインを飛び越え、マイナスになっています。結果として4時間の曲線下面積はポテトバター群ではマイナスです。ポテトだけよりも大きな差ができました。
しかし、インスリンのグラフを見ると、ちょっと疑問を感じます。こちらも30分にピークがあります。しかも、ポテトバターでは血糖値の上昇がかなり抑えられているのに、インスリンの分泌はポテトだけよりは少ないながらも、かなりの分泌を示しています。本当に吸収が緩やかになり血糖値の上昇が抑えられたのでしょうか?そうであれば、血糖値のピークが少し遅くなっても良いはずですし、インスリンのピークも遅くなっていいはずです。
私には、ポテトバター群の状態は、吸収は少し緩やかになっているけれども、その吸収量に見合わないインスリンが分泌され、結果として血糖値の上昇は抑えられ、さらに、インスリンが分泌され過ぎてその後血糖値ははベースラインよりも低下してしまった、と見えます。
そして、インスリンの曲線下面積を見てみると、ポテトだけよりもポテトバターの方が上回っているのです。吸収が緩やかになった分、ダラダラとインスリンが分泌されてしまっているのかもしれません。
上の図は2型糖尿病の人で、同じようにポテトだけとポテトバターを食べたときの血糖値、インスリン値を表したものです。先ほどの健康な若者と違い、かなり血糖値スパイクが大きくなっています。先ほどの若者の血糖値のピークは30分でしたが、ポテトだけの場合1時間後がピークで、ポテトバター群では2時間がピークでス。もしかしたら1時間半を測定していたら、そこがピークになっていた可能性はあります。いずれにせよ、ポテトバター群ではピークが遅くなっています。つまり、吸収が緩やかになっているかのようには見えます。しかし、ピークの血糖値はポテトバターで確かに少し低くはなっていますが、十分に大きな血糖値スパイクです。血糖値は200前後でしょう。
そしてどちらの群も5時間後の血糖値はベースラインよりもはるかに低下し、ベースラインよりも20ぐらい低い血糖値を示しています。低血糖症状を示しているかもしれません。
血糖値の曲線下面積を見てみるとポテトだけとポテトバターに違いはありません。ポテト群の方がマイナスが大きいのもあるでしょう。
そして、インスリンの方を見てみましょう。ピークは血糖値のときと同じようにポテトだけでは1時間後であり、ポテトバターでは2時間後です。さらにポテトバターの方がインスリンの分泌量がものすごく多くなっています。血糖値のピークが少し抑えられていたのは、インスリンがいっぱい分泌されていたからなのかもしれません。ただ、血糖値とインスリンのピークは遅くなっているのですから、確かに吸収は緩やかになっている可能性は高いのかもしれません。糖質の吸収が緩やかになって、血糖値が抑えられているのであれば、ここまでインスリンが出なくても良いのではないでしょうか?
非常に不思議です。その答えは別のところにあるのかもしれません。それについては次回の記事で書きたいと思います。
ポテトバター群のインスリンのグラフでさらに気になるのは5時間経ってもベースラインに戻らないことです。血糖値は4時間後にベースラインに戻っているのに、5時間後でもまだインスリンが追加分泌されているのです。このような状況が糖尿病には頻繁に起きていて、高血糖と低血糖を繰り返している可能性があります。糖質と脂質を同時摂取したことで、何か代謝が混乱しているようにも見えます。
いずれにしても、糖質と脂質の同時摂取は確かに血糖値の上昇を少し抑えてくれる可能性はあります。しかし、その分、インスリンは非常に多く分泌されてしまっています。そして、長時間インスリンが分泌され続けます。インスリン分泌はタンパク質と野菜を先に食べたときと同じ傾向です。そうなれば、糖質と一緒に摂取した脂質は脂肪として溜まっていきます。さらに体重が増加するのは間違いない!
このような状態が起きるのを知っているならば、当然、糖質と脂質の同時摂取はお勧めできません。
「Control of blood glucose in type 2 diabetes without weight loss by modification of diet composition」
「食事組成の変更による減量なしの2型糖尿病における血糖の制御」(原文はここ)
本記事の「糖質+脂質」に対するインスリン分泌傾向については最近個人的な興味の対象でした。
本研究で今ひとつ理解できないのは、健康な被験者の血糖値動向です。
先生も疑問を呈していらっしゃいますが、「脂質摂取によってピーク値が抑えられるなら、その後は糖質単体の場合よりも高値がダラダラ続く」と理解しているからです。実際、血糖値に関しては経験上もそういう傾向だと認識しています。
しかし本研究ではピーク値が低いだけで無く遅くシフトもしていませんし、なおかつ曲線下面積も明らかに少ない。はて、どういう解釈が成り立つのでしょうか。
インスリンを見ても追加分泌が遅れていない上に最大値も糖質単体より少なく、さらに曲線下面積も大した違いは無いと。はて?健康な若い男性では糖質+脂質は糖質単体よりも好ましい摂取法である可能性があるということでしょうか。
糖尿人データの方はさもありなんという感じですけど。
まあ仮にそうであったとしてもやっぱり糖質は基本摂りませんけどね(笑)
次回記事が楽しみです。
※ウチにはまだ新刊到着してません。こちらもとっても楽しみにしてます。
ねけさん、拙著のご購入ありがとうございます。
糖質+脂質に関しては、健康な若い人であれば、血糖値スパイクを抑制するのには良いのかもしれませんが、
インスリン分泌が糖質だけの場合と同じまたはそれよりも多い場合があると思われます。
そうすると脂肪蓄積方向になると思われます。
血糖値のピークの抑制は吸収の遅れだけでは説明できず、インスリン分泌も大きく関与している可能性が高いと思われます。
しかし、実際の食事ではタンパク質も摂りますし、野菜も摂る場合もあり、こんな単純な研究で全てがわかるわけではありません。
糖質を制限することが最も重要だと思います。
先生こんばんは
炭水化物+脂質は揚げ物のイメージがあるので小粒子LDLのリスクで考えてましたが、
インスリン分泌過剰になる可能性があるとは驚きです。
そうなるとインスリン分解酵素がアミロイドベータを分解する余裕がなくなりアルツハイマー性認知症につながりかねないのかも。
難消化デキストリン入りドリンクで血糖値スパイク予防なんてのもありますが、なんか怪しくなってきましたね。
知識貧乏さん、コメントありがとうございます。
まだ、糖質+脂質でどうしてインスリン分泌が糖質だけよりも増加してしまうのかは
完全にはわかっていません。しかし、次回の記事で一つの考えを書きたいと思っています。
難消化デキストリンは食物繊維ですので、恐らく少し吸収は緩やかになる可能性がありますが、あまり大きな期待はできないでしょう。