以前の記事「2型糖尿病は慢性疾患ではない!医療が慢性にしているだけ」で、糖尿病を慢性化させているのは医療であり、食事を改善することにより逆転が可能であると考えられることを書きました。その際に取り上げたLancetの論文は、非常に厳しいカロリー制限を行い、体重がかなり減少した人では、多くの人が始めて1年後の時点で寛解状態になったというものでした。ベースラインで100㎏前後の人が15㎏減量できた場合に、1年後には86%寛解していたのです。ただ、実際に15㎏以上減量できた人は24%にすぎません。全体での寛解の割合は約46%でした。
しかし、あくまで寛解であり、糖尿病が治ったわけではありません。この試験の寛解の定義は、すべての抗糖尿病薬を少なくとも2か月使用しない状態で、HbA1cが6.5%未満です。2か月続けば寛解と言っていて、「治癒」とは全く違います。
それにしても意外と寛解になった人は多い印象がありますが、では実際にどのような食事だったのでしょうか?
個々の人で期間は異なりますが、3〜5か月間の非常に厳しいカロリー制限食(825〜853 kcal/日:炭水化物59%、脂肪13%、タンパク質26%、繊維2%)です。100㎏の人の通常の摂取エネルギーは3,000kcal程度でしょうから、その約28%しか摂取できない状態で3~5か月過ごすのです。普通の日本人で考えたら1日約500kcal程度です。拷問です。
続いて、2〜8週間の再導入食(約50%の炭水化物、35%の総脂肪、15%のタンパク質)で少しずつ摂取エネルギーを増加させていくのでしょうが、どこまでエネルギー量を増やしたかは書かれていません。栄養士または看護師と毎月30分指導を受けます。体重のリバウンドが2kgを超える場合、その参加者は2〜4週間の部分食事交換の「レスキュープラン」を提供され、4kgを超える場合は、オルリスタットという肥満治療薬(日本では未承認、脂質の吸収を抑える薬)が処方され、食事の交換と食事の再導入が行われて、かなり強制的に体重がリバウンドしないようにコントロールされます。毎日の身体活動を増やすためのアドバイスも受けました。
その試験の2年後までの結果が今回出ました。よくもまあ、こんな食事で2年間も我慢できたなあ、と感心してしまいます。(図は原文より)
上の図のAの横軸の左がコントロール群、右がカロリー制限群の1年後と2年後です。縦軸は15㎏以上体重が減少した人の割合です。1年後では24%いたのに、2年後では半分以上に人が15㎏減を維持できず、11%程度になってしまっています。
Bは寛解の人の割合です。カロリー制限で1年後には45.6%いた寛解の割合は、2年後では35.6%に減少しました。
上の図は横軸がベースラインからの体重減少量、縦軸が寛解になった人の割合です。1年後では15㎏以上減少した人の86%が寛解していたのに、2年後では70%まで低下しています。
上の図は実際の体重の推移です。赤い線が脱落せずに頑張った人、破線はコントロール、薄い点線は脱落した人です。脱落するとすぐに元の体重に戻っているのがわかります。つまり、当たり前ですが食事を戻せば体重は戻るのです。そして、食事を戻さずに頑張っていても、じわじわと体重が増加してくるのがわかります。
上の図はベースラインからの体重の変化量です。青の□は寛解が一度も得られなかった人、青の△は1年後では寛解したけど、2年後では寛解ではなかった人、赤の◯は1年後では寛解にならなかったけど、2年後には寛解になった人、赤の●は1年後も2年後も寛解だった人です。そうすると10㎏程度の体重減少でも寛解が得られる人は結構な割合で存在すると考えられます。その上のグラフと併せて考えると、5~10㎏程度の減少だと30%程度ですが、10㎏以上減少すると60~70%も寛解すると考えられます。
しかし、これらは本当に体重減少で起きていることなのでしょうか?これだけの食事管理をして、やっとこの割合ですが、最初の825〜853 kcal/日の食事の糖質(炭水化物)の量は120g程度です。つまり、糖質制限食でもあるのです。糖質制限+カロリー制限という非常につらい食事なのです。ほとんど飢餓状態です。その後の食事の糖質量は不明ですが、恐らく大量の糖質は摂取していないでしょう。さらに非常に低脂質食です。タンパク質も非常に少ないでしょう。このような食事を続けていたら、髪が抜けたり、お肌や爪が悪くなったり、気分が落ち込んだり、不安感が増加したり様々な問題が出現する可能性が高いと思われます。
体重減少は結果でしかありません。その体重減少を得るためにここまで摂取エネルギーを減らす必要はありません。逆に糖質制限食は摂取エネルギー量を減らさずに、体重減少が起きます。そして、進行していない2型糖尿病であれば、この研究の定義の寛解はすぐに得られます。
この研究は脂質制限とカロリー制限をメインで考えてしまっています。脂質が体の脂肪になると思っているのでしょう。しかし、体に蓄積する脂肪は糖質摂取でインスリンが分泌されることにより起きることです。脂質は悪者ではありません。
この研究に参加した人は今後どのような食事をするのでしょうか?このままこの食事を続けられるとは思えません。そして、食事が元に戻れば、体も元に戻り、さらに元の体重以上になるでしょう。そして、糖尿病も元に戻ってしまうでしょう。この食事で寛解のままでいるのは至難の業だと思います。
しかし、食事を変えれば糖尿病の寛解が得られることは確かです。その変更する食事は程度の差こそはあれ、糖質制限食以外は現在のところ考えられません。糖質過剰摂取のままでは糖尿病の寛解は難しいでしょう。カロリー制限食では一生続けるのは無理でしょう。
「Durability of a primary care-led weight-management intervention for remission of type 2 diabetes: 2-year results of the DiRECT open-label, cluster-randomised trial」
「2型糖尿病の寛解に対するプライマリケア主導の体重管理介入の耐久性:DiRECT非盲検クラスター無作為化試験の2年間の結果」(原文はここ)
「すべての抗糖尿病薬を少なくとも2か月使用しない状態で、HbA1cが6.5%未満です。2か月続けば寛解」
それなら私も寛解です。少なくとも6月からは微量のスーグラ(12.5mg)も断薬、HbA1c5.8%です。しかし、糖質制限を続けている限りはと言う条件付きです。糖質制限はある意味、糖尿病の治療食であり、それを続けているのは治療中と解釈すれば寛解とは言いがたいと思うのですが、いかがでしょうか。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
糖質制限食を治療食と考えるのであれば、それは治療中と解釈もできますが、
糖尿病でない私や他の方も行っている、通常の食事の一つであることを考えると、治療食と考えなくてもいいのではないでしょうか?
「治療中」「寛解」「治癒」などの言葉の問題は別に重要ではありません。
「糖尿病はグルカゴンの反乱だった -インスリン発見後、なぜ未だに糖尿病は克服できないのか」稙田太郎 (著)
先生はもうお読みになられましたか?私にとっては目から鱗でした。
まーさん、コメントありがとうございます。
この本はまだ手に入れていません。ただ、「高タンパク質摂取による有害性は? その1」ですでに書いたように、
グルカゴンは非常に重要だと思っています。しかし、インスリンの重要性や糖質制限の有効性が低下したとは思っていません。
インスリンもグルカゴンもそのほかの代謝もまだまだ分からないことばかりですね。