赤血球の形状の変化と病気 その2

前回の「その1」では、健康な赤血球と糖尿病の赤血球ではその形状が明らかに違っていることを書きました。通常凝固系が活性化されると、トロンビンというものが生じます。このトロンビンがフィブリノーゲンをフィブリンにして、血液が凝固するのです。血液凝固の結果、生じたフィブリンはいつまでも留まっているわけにはいきません。フィブリンの塊、つまり血栓が血管内に留まっていると、血液が十分に流れなくなり、酸素や栄養物を組織や細胞に運ぶことができなくなってしまいます。そうすると組織や細胞が壊死してしまいます。これが心臓で起きれば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞です。だから、血栓が十分に形成された後は、この血栓を溶解する線溶系のタンパク分解酵素が働き、フィブリンを切断して、血栓を溶かしてしまうのです。

通常であれば、このような凝固と線溶という機能が働き、血管が詰まることはありません。しかし、高血糖によりこの凝固系に変化が起こります。そして、それは高血糖だけでなく、自由な危険な鉄(NTBI)によっても起こるのです。(図は原文より)

上の図のAは健康な赤血球、Bはトロンビンを添加した健康な赤血球、Cは鉄を添加した健康な赤血球、Dは鉄とトロンビンを添加した健康な赤血球です。

凝固をもたらすトロンビンを添加した場合(B)と添加しない場合(A)の健康な赤血球では赤血球は円盤状を保っています。トロンビンを添加すると、フィブリンの繊維状のネットが赤血球の周囲に形成されますが、赤血球の形状は変化していません。Cのように健康な赤血球に鉄を添加すると、赤血球の形状は変化します。何か尖ったような突起が出ているような形に変わり、円盤状ではなくなっています。そしてDのようにトロンビンの添加により、赤血球の形状はさらに変化し、フィブリン繊維の中で変形しています。鉄がある場合とない場合ではフィブリン繊維の中での赤血球の形状は全く異なっているのです。

上の図のAはブドウ糖を添加した健康な赤血球です。Bはブドウ糖とトロンビンを添加した健康な赤血球です。Cはブドウ糖を添加した健康な赤血球を高倍率で見ています。Dは健康な赤血球を高倍率で見たものです。

ブドウ糖を添加すると、赤血球の形状変化は円盤状に見えますが、若干細長くなっているようです。そして、Cにもあるように何かブツブツとした突起のようなものがいくつも認められます。Dの健康な赤血球には認められないものです。ブドウ糖とトロンビンを添加すると、フィブリン繊維の中でさらに変形しやすくなっているようです。

上の図のAは糖尿病の赤血球、Bは糖尿病の赤血球にトロンビンを添加したもの、Cは過剰な鉄が蓄積するヘモクロマトーシスの赤血球、Dはヘモクロマトーシスの赤血球にトロンビンを添加したものです。

糖尿病では、赤血球の形状に明らかに変化が認められ、トロンビン添加すると、フィブリン繊維により容易に変形しています。これはヘモクロマトーシスでも認められました

つまり、高血糖で起きている赤血球の形状の変化は、鉄の存在によっても容易に起きると考えられるのです。

糖尿病では凝固系が亢進して、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓性の合併症を起こしやすくなります。高血糖になると上の図のようにフィブリン繊維に形状が変化した赤血球が捉えられてしまい、それが血栓の塊を大きくする可能性があります。

糖尿病ではフィブリノーゲンの合成自体が増加しています。そのメカニズムはまだはっきりしていないと思います。高血糖やインスリン抵抗性、炎症などが原因かもしれません。フィブリノーゲンの糖化も関係していると考えています。

そして、そこに鉄が加わるとさらに状況は悪くなると考えられます。それについては次回以降に。

「The adaptability of red blood cells」

「赤血球の順応性」(原文はここ

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