思春期前の子供の糖質過剰摂取は空腹感を増す

グレリンやペプチドYY(PYY)は食欲に関連し、中枢神経系との相互作用を介して空腹感と満腹感に影響を与える、腸によって生成される重要なホルモンです。グレリンは、胃の酸分泌細胞によって主に産生される食欲刺激ホルモンです。大人では、グレリンの血中濃度は、絶食中に上昇した後、食事をすると減少します。(「空腹感はエネルギーが足りないとかお腹が空っぽの合図ではなく、脳の罠?」参照)

PYYは小腸及び結腸によって主に分泌される食欲抑制ホルモンです。大人では血中PYYは食後増加し、1〜2時間にピークとなります。

では、子供ではどうでしょうか?7歳から11歳までの32人の健康な子供たち(正常の体重の子供と過体重の子供)は、通常の食事(糖質制限食ではない食事)によってグレリンとPYYがどうなるのかを調べました。0800時に400kcalの朝食、1200時に600kcalの昼食が与えられました。それぞれのPFCバランスは、炭水化物60%、脂肪30%、タンパク質10%です。(図は原文より)

上の図は食欲です。正常体重(三角形と実線)、過体重(四角と破線)の子供ではほぼ同じような食欲の推移を示しています。つまり、食後1時間後に最も食欲が低下し、その後すぐに反発し、朝食後では2時間後に、昼食後では3時間後にベースラインまで戻っています。

上の図はグレリンの推移です。大人と異なり、正常体重では食事前後の変動がほとんど認められません。食後に低下しないのです。さらに1600時はベースラインよりも低下しています。食欲とは関連していません。過体重では食事とは全く関連せずほとんど動きがありません。

上の図はPYYです。正常体重では食後1時間後にピークを迎えていますが、過体重では朝食後にはピークがなく、ほとんど変動していません。昼食後にはどちらの群も1時間後にピークになっています。

どうやら普通の食事では子供の場合、大人とグレリンの分泌が異なるようです。

上のものとは別の研究で、7歳から11歳までの32人の健康な子供たちに3種類の食事を食べさせた後のグレリンとPYYの変動を測定しました。前の研究とは違い、3大栄養素のバランスを変えています。3種類の食事はPFCバランスが異なり、エネルギー量はほとんど同じです。高糖質食(430 kcal、88%炭水化物、2%タンパク質、10%脂肪)、高タンパク質食(440 kcal、炭水化物36%、44%タンパク質、20%の脂肪)、高脂質食(417 kcal、炭水化物17%、タンパク質2%、脂肪81%)です。(図は原文より)

上の図は高糖質食でのそれぞれベースラインからの変化の推移を示しています。Aはグレリン、Bは空腹感、CはPYY、Dは満腹感です。正常体重(三角形と実線)、過体重(四角と破線)は先ほどと同じです。そうすると、グレリンは食後1時間後に最も低下し、その後反発しています。過体重では食後3時間でベースラインに戻り、4時間後にはベースラインよりも増加しています。Bの空腹感も過体重では2時間後にベースラインに戻り、3時間後にはベースラインを上回っています。正常体重ではグレリンの戻りも空腹感の戻りも遅くなっています。PYYは過体重では緩やかに1時間後にピークを迎えていますが、その後はベースラインよりも減少しています。正常体重では30分後にピークになり、4時間後にベースラインに戻っています。曲線下面積では大きな違いがあります。さらにDの満腹感はどちらの群も30分後にピークですが、過体重ではすぐに低下し、1時間後にはほぼベースラインです。その後はベースラインを下回っています。

朝食で、おにぎりだけとか、ホットケーキにハチミツやシロップをたくさんかけて、飲み物はオレンジジュースなどのメニューだと、この食事に近いかもしれません。

いずれにしてもこのような高糖質食ではすぐにお腹が減ってしまいます。

上の図は高タンパク食です。高糖質食と違い、グレリンはどんどん低下し、4時間後でもベースラインを下回っています。正常体重の方がその低下の度合いは大きくなっています。そして、空腹感はどちらも30分後に最も低下して4時間後にベースラインに戻っています。PYYはグレリンと逆の変化を示し、時間とともに増加しています。4時間後でもベースラインよりもかなり高い状態です。満腹感は30分後にピークになっていますが、4時間後にベースラインです。

つまり、過体重の子供でもしっかりとタンパク質を摂取すればすぐにお腹が減らないと考えられます。

上の図は高脂質食です。空腹感や満腹感は高タンパク食と同様の推移を示しています。グレリンは正常体重では高タンパク食と同様に、低下したままですが、過体重では3時間後に増加しています。PYYは過体重では大きな変動を示さず、正常体重では1~2時間後にピークとなりましたが、4時間後でもまだ増加した状態です。高脂質食は高タンパク食と高糖質食の間のような食事に見えます。

グレリン、空腹感、PYY、満腹感の曲線下面積の比較

 高糖質高タンパク質高脂質
正常体重 
 グレリン(%)−36±13−61±10−42±8
 空腹(mm)−63±17 −137±27−71±27 
 PYY(%)96±30130±35163±36
 満腹(mm)73±23122±2697±31
過体重   
 グレリン(%)−8±10−28±7−8±10
 空腹(mm)−22±22−158±42−63±30 
 PYY(%)−20±27181±3453±31 
 満腹(mm)−24±41170±4465±36

高タンパク食以外はどの食事も極端で、なかなか自然と作り出すことはできません。進化の過程では高タンパク、高脂質、低糖質食だったと考えられます。炭水化物が36%もある高たんぱく食でさえ、しっかりとタンパク質を食べれば、短時間で空腹感を感じることはありません。

ただ、最初の研究と2つ目の研究ではグレリンの変化に大きな違いがあります。だから、単純にグレリンやPYYだけで食欲を語ることは難しいとは思います。しかし、高糖質食で確実に空腹感は食後の早い時間で訪れ、満腹感は過体重の子供では早い時間で無くなってしまいます。

子供が太ってしまい、食べても食べても満足しないのは、おそらく糖質過剰摂取が原因だと思われます。そして、肥満の子供はお腹が減れば、また糖質を過剰摂取してしまいます。しっかりとタンパク質と脂質を摂り、糖質をしっかりと制限すれば食欲は落ち着くでしょう。

朝から、砂糖まみれのシリアル、シロップまみれのパンケーキ、菓子パン、ほとんど具のないおにぎりでは、当然すぐにお腹が減るでしょう。

食欲満点の子供を見て健康的だと喜んでいる時代ではありません。肥満の子供のその底なしの食欲は糖質過剰摂取により起きている可能性が高いと思います。人間本来の食事をすれば過剰な食欲はなくなるでしょう。

子供の食育は親の責任です。以前の記事「3歳児でも1日10杯の不必要な砂糖を摂取している」でも書いたように、より小さな子供でも不必要な糖質を摂取しています。その糖質過剰摂取により、食欲や代謝に関連するホルモンを乱していると考えられます。そして、そのことがその後の肥満や疾患など糖質過剰症候群に繋がっていくのです。

「Meal‐related Changes in Ghrelin, Peptide YY, and Appetite in Normal Weight and Overweight Children」

「正常体重および過体重の子供のグレリン、PYY、および食欲の食事関連の変化」(原文はここ

「Effects of meals high in carbohydrate, protein, and fat on ghrelin and peptide YY secretion in prepubertal children」

「思春期前の子供のグレリンとペプチドYYの分泌に対する炭水化物、タンパク質、脂肪の多い食事の影響」(原文はここ

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