血液中のミトコンドリア

先日の記事「ドクターシミズのウルトラランナーへの道 2020春への準備」で、高地トレーニングを開始したことを書きました。最初にそのスタジオのインストラクターの方が色々と高地トレーニングについて説明してくれたのですが、高地トレーニングのメリットとして、ミトコンドリアとエリスロポエチンを増やすということを言っていました。

エリスロポエチンは赤血球産生を促進するホルモンで、低酸素に応答して産生され、造血細胞に働いて赤血球産生を刺激します。

ミトコンドリアはご存じのように細胞内に存在し、電子伝達系でエネルギーのATPを作り出す工場のようなものです。ミトコンドリアが真核細胞に共生したことで、現在のような生物が誕生できたと考えられています。

高地トレーニングで、エリスロポエチンとミトコンドリアが活性化し増えれば、酸素を運ぶ赤血球が増加しエネルギーも増加する、ということです。

ここまでは良かったのですが、トレーニング中は水を十分に補給してください、と言われました。汗がたくさん出るから、というのではなく、高地トレーニングで血中のミトコンドリアが増えて血液がドロドロになる、というような主旨の説明をされたのです。

その時私は「?」と思いました。血中にミトコンドリア?しかもそんな急に増加する?私のその時の認識では、ミトコンドリアは細胞内に存在するものであり、細胞が壊れて、機能していないミトコンドリアが血中に出ることはあっても、正常なミトコンドリアが血中にあるとは思っていませんでした。だから、正直「何を言っているんだか?」と思っていました。

ミトコンドリアのセルフリーDNA (cfDNA)または無細胞DNAという、細胞死によって細胞から放出された遊離DNAは誰にでも存在し、特に最近は炎症や細胞死が起こるとcfDNAが増加するので、糖尿病、急性心筋梗塞、がんなどのマーカーと考えられています。しかし最近、健康な人の血中のミトコンドリアのDNAのコピー数が核のDNAの50,000倍も存在していることが報告されました。(その論文はここ

こんなにも多くのミトコンドリアのDNAが健康な人にも存在しているというのは、なぜでしょうか?

今回の研究は私には非常に難しいのですが、非常に興味があります。

健康な人の血液を調べてみると、無傷で機能がある(呼吸能力、つまりエネルギーを作り出せる)ミトコンドリアが存在していたのです。我々の体では血液の流れに乗ってミトコンドリア漂っているのです。血中のミトコンドリアの役割はよくわかっていませんが、重要な生物学的および生理学的役割を持っていると考えた方が妥当かもしれません。

ミトコンドリアは細胞の一部の器官となったと考えられていますが、実際はそうではなく、ミトコンドリアとして単独で役割を果たしているのかもしれません。ミトコンドリアまたはミトコンドリア成分の細胞外空間、血中への放出は強力な炎症誘発性反応を引き起こす可能性があると考えられています。

さらに、ミトコンドリアは一つの細胞に留まっているだけでなく、細胞間で水平に移動することができることが明らかとなっています。(その論文はここ)機能障害になったミトコンドリアを持つ細胞に、正常なミトコンドリアが移動して救済すると考えられています。もしかしたら、ミトコンドリアは常に血中を漂いながら、問題がある細胞、損傷した細胞を見つけると、その細胞の中に入って行って何とかその細胞が回復できるように助けているのかもしれません。

血中のミトコンドリアは細胞間コミュニケーション、免疫、炎症など様々なことに関与しているのでしょう。

高地トレーニングのインストラクターの方は、もうすでにこのような知識を持っていて、低酸素のトレーニングを行うと、いくつかの細胞は苦しくなってしまい、それを助けるために血中のミトコンドリアが増加してその苦しい細胞を助けるのである、ということを言いたかったのかもしれません。

私はまだまだ知らないことが多いですね。インストラクターの方、申し訳ありませんでした。恐れ入りました。

 

「Blood contains circulating cell-free respiratory competent mitochondria」

「血液には、循環する無細胞で呼吸能力のあるミトコンドリアが含まれている」(原文はここ

2 thoughts on “血液中のミトコンドリア

  1. 管理栄養士の方々以上に、トレーナーと称する方々も、受け入れがたい理論でアドバイスしてくださる印象があります。

    自分で再検証後実践する必要があると考えています。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      頭から否定せずに、どうしてこのようなことを言っているのか、ということを考えると、今回のような非常に興味深い気付きがあるかもしれません。

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