ウイルス検査陰性は感染していない証拠ではない

新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、ウイルスに感染しているかどうかを判断するための検査で、PCR検査が用いられています。

先日、クルーズ船で医療に従事した医療関係者に対して、「バイ菌扱い」されているという記事がありました。(この記事参照)災害派遣医療チーム(DMAT)の方は懸命に医療活動をしたと思いますが、そもそもDMATが出る状況だったのか?感染症に対して訓練を受けていないDMATが活動して良かったのか?という疑問があります。アメリカのCDCも恐らく、前例がないので適当に日本に任せたのでしょうね。あとから批判して、後出しじゃんけんですね。(この記事参照)

クルーズ船のDMATの活動について、ある記事では「マニュアルはなく、試行錯誤の連続だった」と書かれています。つまり、誰もやったことのない未知のミッションだったのです。記事の中では「中でも乗員が置かれた環境は厳しく、「迷宮のように入り組んだ船内3階の窓もなく狭い部屋に2人一組で入室していた」。ほとんどが外国人で「同室の乗員に熱が出て不安になる人もいた」という。」と書かれています。こんな状況の乗員が食事などを配ったりしていたのです。

さらに、「船内では活動のための安全・危険ゾーンの区別が一応あるものの十分ではなく、「感染する可能性はあると思った」とも語った。」としています。「医療班に感染症専門医は1人しかおらず、発言力も弱くリーダーシップを発揮できていなかった」と書かれています。そのような中で感染している可能性がある医療関係者が自分の病院に戻る場合、PCR検査は行われていません。ある記事ではその理由について、「医療関係者は感染を予防する技術を習熟し、十分に対策しているから」とありますが、本当に感染を専門にやっている人ならともかく、通常の医師や看護師の知識や技術なんて、専門家にしてみればいい加減なものだと思います。実際にグリーンゾーンにいるはずの厚労省職員やしっかり感染対策をしていると思われているDMATの看護師の感染が確認されているのに、検査をしなかったのです。

クルーズ船のDMATの仕事をした後、その方たちが職場に戻る際に例えば14日間どこかホテルなどで隔離されているのであれば、一応問題ないと思いますが、そのまますぐに自宅に戻り、働き始めたのなら、それはこのような状況下では問題のある行動です。「バイ菌」という言葉がちょっと医療従事者の使う言葉ではありませんが、ある意味予想できる反応です。下船後14日経過していたのでしょうか?(本当は14日で良いのかどうかはわかりませんが)

DMATで一生懸命働いたこと自体は非常に素晴らしいです。しかし、ゾーニングがしっかりされていない状況下にいたのはわかっているのですから、その後の行動がどうであったかは問題でしょう。検査結果があれば一応の陰性を証明できるので、DMATは検査するべきだったのでしょうか?しかし、PCR検査は絶対ではありません。

クルーズ船の乗客は、下船の際にPCR検査陰性の人が下船できたのですが、多くの人は検査から数日後に下船しているので、その間に感染していないとは言えません。

それよりもPCR検査の限界があると思います。例えばある記事では7回目の検査で初めて陽性が出たことを書いています。(その記事はここ

その記事の中で紹介されている論文では、167人の患者のうち5人が、明らかな胸部のCT画像検査で肺炎像が認められながら、PCRで陰性と判定されていたのです。(この5人は後日再検査で陽性の判定が出ています。)約3%です。明らかな患者ですらこれくらいの割合ですから、軽症の人であればもっと偽陰性を示す可能性は高くなるのではないでしょうか?

つまり、1度の検査で陰性の判定ではダメだということになります。本当に感染していない場合もあるでしょうが、ちょうどその検査をする場所にウイルスがいないと陰性になりますし、検査をする人のやり方の問題もあるかもしれません。

実際に下船後、アメリカ、オーストラリア、香港など各国で下船前の陰性の人何人も、帰国後陽性となっています。

PCR検査は、現実には100%完全な検査ではありません。100%完全の検査は存在しません。ある程度のエラーが起こります。正しい結果として真陽性(「感染あり」で陽性)、真陰性(「感染なし」で陰性)は問題ありませんが、偽陰性(「感染あり」なのに陰性)、偽陽性(「感染なし」なのに陽性)は問題となります。

感染合計
ありなし
検査陽性a(真陽性)b(偽陽性)a+b
陰性c(偽陰性)d(真陰性)c+d
合計a+cb+da+b+c+d

2月19日の国立感染症研究所の報告では、合計2,404検体が検査され、延べ542検体が陽性(22.5%)であった、としています。それをもとに計算してみましょう。

新型ウイルスの遺伝子の安定性や検査技術の精度管理に不確実性があるため、感度95%、特異度99.9%と仮定してみましょう。感度は真陽性率であり、特異度は真陰性率です。

感染合計
ありなし
検査陽性791(真陽性)3(偽陽性)794
陰性42(偽陰性)2,864(真陰性)2,906
合計8332,8673,700

乗員乗客3,700名として、この全員にPCR検査をした場合、有病率22.5%と仮定すると、3,700人のうち有病率22.5%で、実際にウイルス感染している人は833人です。実際にはウイルスに感染していない人は3,700人- 833人=2,867人です。

感度95%と仮定した検査なので、833人の95%=791人が陽性と判定されます。42人が偽陰性です。

特異度99.9%と仮定しているので、2,867人の99.9%=2,864人が陰性と判定されます。3人が偽陽性です。

この時期に感染もしていないのに陽性と判定(偽陽性)されることは非常に難しい状況に置かれる可能性があります。周囲が感染者扱いしますし、その苦境は家族にも及ぶかもしれません。

そして、42人の偽陰性が問題になります。これほど感染力が強いウイルスを持った人が42人も社会に出てしまいます。陰性の証明を受けたと思い、本人は大手を振って下船している人もいるでしょう。下船後に厚労省は慌てて、外出しないように乗客に連絡していたようです。

実際にはPCR検査を何度か行って初めて陽性が出ることを考えると、感度はもっと低い可能性があります。感度が80%だとすると、偽陰性は167人にもなってしまいます。

また、PCR検査はウイルスのDNAを大幅に増加させて検査するものです。ウイルスの感染性があるかどうかは別の問題ではないでしょうか?つまり、もうすでにその人の免疫によって感染力を失ったウイルスがそこにあった場合、DNAが残っていればPCRで陽性になってしまう危険性があるのです。感染力が無ければ隔離も必要ありません。

もしも国民全員にPCR検査を行ってしまえば、非常に多くの偽陽性が出てきてしまい、その人とその家族の生活を奪ってしまう可能性があります。一人につき3回程度行うのであれば、良いのかもしれませんが、そんなことは不可能でしょう。偽陽性者への社会的差別に対する懸念に配慮して、集団の検査を行わない方が良いと思います。

早く簡易検査キットの開発を、と言っている人もいますが、簡易検査は当然PCR検査よりも劣ると考える方が妥当でしょう。ちょっと前2012年の研究ではありますが、インフルエンザの迅速診断検査の精度を検討した研究を対象としたメタ分析で、市販されている迅速診断検査全体の特異度は98.2%、感度は62.3%と報告されています。(その論文はここ)現在ではもっと感度が良くなっているとは思いますが。それを今回のクルーズ船に当てはめてしまえば300人以上の偽陰性が出てしまいます。

検査さえ行えば良いと思っている人もいるかもしれませんが、非常に難しい問題があることをちゃんと理解しなければなりません。

つまり、「あなたは絶対に感染していません。」という証明は不可能です。

では、どうする?できることは手洗いぐらいでしょう。あとはちょっとでも自分が感染したかな?と思ったら自宅にいて外出を控え、外出するのであればその人は必ずマスクをちゃんと正しくつける。でも、実際問題働いていればそんなわけにはいきません。多少の症状であれば通常は働きに行きます。それを休むことができるような、報酬のことも含めた制度が必要でしょう。でも難しい。医師や看護師が風邪気味の状態で働いていることも珍しくありません。人手不足の職場ではどうすればいいかわかりません。

さらに、ちょっとした風邪症状であれば病院へ行くことよりも、自宅で休むことの方が賢明かもしれません。病院は症状がある人が大勢います。もし自分が感染していない場合、逆に病院で感染する危険性も高くなってしまいます。先日あるクリニックを取材していたニュースで、38度以上の熱を出した患者さんが診察室に入った際、そこの看護師は患者さんのマスクを診察のために顎までずらしていました。その手は患者さんの座っている椅子の背もたれを触り、患者さんの肩を触っていました。そこで映像が途切れましたが、椅子の背もたれは恐らく患者さんごとに消毒されるわけではないでしょう。看護師さんの手も、1回1回消毒しているかな…?

現在電話で映像を見ることができる時代になったのですから、これを機に遠隔診療をもっと広げる必要があると思います。別に病院まで行く必要がない場合も多いと思います。

ウイルスによる風邪を治す薬は存在しません。当然、コロナウイルスの治療薬もありません。熱を下げることが良いことかは疑問です。(「ウイルス感染症で解熱剤の安易な使用はやめた方が良い」参照)咳がある場合、咳を止めることが良いことかは疑問です。人間にとって必要であるから咳を出しているのだと思います。免疫が頑張っているのを自分自身で見守るしかないのです。

私自身、ウイルスが手についたら恐らくすぐに体内に入ってしまうだろうと思っています。それは、意外と自分の目元、鼻、口元を触っているからです。癖のようなもので、無意識です。だからと言って、神経質に手洗いはできません。

先日、スーパーへ買い物に行きましたが、その時に従業員の方が買い物かごを一生懸命拭いていました。恐らく消毒でしょう。しかし、そのかごを乗せるカートの持ち手は何もされていませんでした。また、私はパンは買いませんが、パン屋さんの売り場では何にも覆われていない剥き出しのパンがいくつも陳列されて並べていました。しゃべりながら買い物をする人も大勢いますし、トレーやトングは消毒されているかどうかは疑問ですね。

そう考えると、ホテルなどのバイキングは今どうなっているのでしょうか?トングでお皿に盛りつけることはそのままの状態でしょうか?そうであれば結構リスクありますね。

正直、どうしようもありません。私自身はいつ感染しても仕方がないと思っています。コントロールなんて無理です。感染したらしたです。

医療は重症化しそうな人、重症化した人に適切な治療が行われるように限りある医療資源を使うだけでしょう。

 

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