糖質を口に含むだけで脳はだまされる

ちょっと古い記事ですが、フルマラソンに糖質が必要かどうかを考える際に、非常に面白いデータがあるのでご紹介します。私は以前の投稿

「フルマラソンに糖質は不要か?」 で脳をだますのに糖質が必要だと書きました。それを支持するデータです。

こうやって記事を読むと本当に脳とのだましあいで、どっちが勝つかでパフォーマンスが決まると思ってしまいます。

脳は自分であって自分ではない不思議な臓器なんですね。脳をコントロールして今年も自己ベスト更新を目指しましょう。

 

スポーツ飲料:「口に含むだけで」効果がある理由

スポーツ飲料はスポーツ選手のパフォーマンスを向上させるが、実際には飲みこまず、口に含んですすぐだけでも効果があることが実験でわかった。その理由は。

2011.7.27 WED WIRED

ゲータレードはスポーツ飲料の草分けで、世界シェアも1位。1965年に、フロリダ大学のアメリカン・フットボール・チーム『フロリダ・ゲーターズ』(Florida Gators)のために、同大学の医学・生理学者ロバート・ケード博士によって開発された。大量の糖分を含んでおり、日常生活においてこうした飲料を飲料水代わりに多量に摂取すると、急性の糖尿病に陥る危険性もある。

筆者は、スポーツ飲料『ゲータレード』(Gatorade)が好きとはいえない。味もおいしくないと思うし、ネオンのような色も気にいらないし、ボトルの飲み口が大きすぎるのでシャツにこぼしやすい。電解質が必要だというのなら、別の形で摂りたいと思う。

しかし、こうしたスポーツ飲料は、実際にパフォーマンスを向上させるらしい。そして興味深いことに、飲みこまず、口に含むだけでも、パフォーマンスが向上するようなのだ。

英バーミンガム大学の研究チームが2009年に行った優れた実験を紹介しよう。実験では、経験を積んだ自転車競技選手8名に、実験室で一連のタイム・トライアルを行わせた。

実験の条件はふたつあり、一方の条件では、選手は[タイム・トライアル中に何度か]糖分を含んだスポーツ飲料で口をすすぎ、10秒後に吐き出した。もう一方の条件では、人工甘味料を使ったダイエット飲料で口をすすいだ。いずれの飲料も味はほぼ同じだったが、うち一方のみがカロリーを含んでいた。

その結果、本物の糖で口をすすいだ選手のほうが、サッカリンで口をすすいだ選手に比べて、タイム・トライアルのパフォーマンスは有意に優れていた。この差は最終トライアルにおいて特に顕著にみられ、カロリーを含む飲料で口をすすいだトライアルにおいて発揮されたパフォーマンスのレベルは、終始一貫してサッカリンのそれを3~7%上回っていた。

追加して行われたいくつかの実験によると、飲料を実際に飲むより、口をすすいだだけのほうがパフォーマンスが上がるということもわかった。エネルギーを体内に注入するより、エネルギーを味わうほうが効果的だったのだ。[スポーツ中に大量の糖分を摂取すると、インシュリンが大量消費され、肝心な際にエネルギー生産が行われない現象が発生する。このため運動の最中に急激かつ大量に甘いスポーツドリンクを飲むことは逆効果とされている]

糖分入り飲料での口すすぎがもたらした奇妙な効果のメカニズムを解明するため、実験を行った神経科学者チームは次に、選手たちを脳スキャナーにかけた状態で、本物の糖分またはサッカリンを含む飲料を口に含ませた。すると、選手たち自身はふたつの飲料をはっきり区別することができなかったにもかかわらず、脳の報酬にかかわる領域(側坐核や眼窩前頭皮質など)は、本物の糖分を含む飲料を口に含んだときのほうが、活動量がはるかに増大していることがわかった。

研究チームによるとこれは、人間の口腔内に備わっている炭水化物受容体が、食物の味覚とは無関係に、ただちに反応するためだという。炭水化物の存在をほんのわずかでも感知すると、これらの受容体はただちにその感覚を脳に伝達し、これからカロリーを含んだおいしいものが口に入ってくると予告する。つまり、実際に飲み込まなくても、糖分を感じるだけで、われわれは幸せになるのだ。

この実験結果からふたつのことが言える。ひとつは、スポーツ飲料は金のムダということだ。もしパフォーマンスを上げたいならば、おいしい味のする飲料で口をすすげばいいのだ。サイクリストたちのパフォーマンスを向上させたのは、脳の報酬系の活性化なのだから。

もうひとつは、努力と苦痛についてだ。一般にわれわれは、多大な努力は多大な苦痛を伴うものと考える。だからこそわれわれは、最も努力しているアスリートを、最も真剣に取り組んでいるアスリートとみなす。しかし、サイクリストたちによる実験結果は、(糖分を含む飲料で口をすすいだ結果として、)一瞬ではあるが快感を得られたために、彼らの持久力が向上したことを示している。快感が苦痛を消し去り、選手の脚に溜まった乳酸[疲労物質]の燃焼を助けたわけだ。

快感のレベルが努力のレベルをどのように調節しているのかは不明だが、研究チームはこれに関して、「身体の疲労」は「快感の消滅」として捉えられるという「中枢制御モデル」(Central Governor Model)の概念を支持している。つまり、脳の報酬系の活動が低下すると、われわれはもうそれ以上、努力を続けられない状態にあると気づくということだ。そうなると、身体活動を楽しむ代わりに、あらゆる苦痛が意識されるようになり、われわれはギブアップしてしまう。

だから筆者としては、今度バスケットボールやジョギングをするときは、青いゲータレードは飲まないで、おいしいアイスクリームで口をすすぐことにしよう。

3 thoughts on “糖質を口に含むだけで脳はだまされる

  1. いつも質問ばかり申し訳ありません^^;

    マラソンもしくは長距離ランニング中の経口補水液として、おすすめのぬちまーす、それから(やっぱり糖質は出来るだけ避けたいので)エリスリトールやステビアのような天然甘味料を利用したらどうなんでしょう?脳を騙せませんかね?

    自分で確認したいんですが、違いが分かるほどまだ走れません(笑)

    1. ねけさん、走っている間に糖質をとっても、恐らくはほとんどインスリンは出ません。
      多少は問題ないと思います。他の甘味料でどの程度脳を騙せるかはよくわかりませんが、
      マラソンはメンタルが非常に重要なスポーツなので、
      騙せると思い込むことも必要ではないかと思います。

  2. なるほど。
    騙す騙されるというどちらかというと生理的反応の理屈よりも、騙せると信じられるかどうかというメンタル的側面の方が重要、かも知れないという説は納得出来ます。

    単純にそこまで自分を追い詰められていないので実感が出来ていないだけですが、いずれ先生が仰っていたことを体感できればと願っています。
    ありがとうございました。

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