マラソンを走ると免疫力が低下するというのはウソかもしれない

お恥ずかしながら、これまでマラソンのような非常に長時間の過酷な運動は免疫力を下げると言われてきたことを鵜呑みにしていました。実際に初めてウルトラマラソンを走った後に風邪をひいてしまったことも、「免疫力低下」が起きたと思い込んでいました。

しかし、マラソンのような持久力が必要な長時間の運動は免疫力を下げるのでしょうか?

今回発表された研究では、その運動による免疫抑制の神話がウソだということをあばこうとしています。

これまでの1980年代の研究ではマラソンレースなどの後に、レース後数日から数週間で感染症の症状があるかどうかを尋ねることによる調査をして、持久力のスポーツが免疫システムを抑制して感染リスクを高めるという結論を出していたようです。それがあまりにも広く信じられてきました。私も信じていました。

しかし、免疫学や運動生理学から、それがウソだということが示唆されます。

まずは、非常に多くの人が参加するイベントに出席することは、人々の大量集まるために豊富な感染性病原体が存在していて、それを獲得するリスクを増加させる可能性があるのです。移動もイベント前の交通機関は非常に混雑します。さらに、マラソンレースなどに参加することは、温度変化、睡眠不足、疲労、不十分な食事、脱水、心理的ストレスなど、免疫機能に影響することが知られているいろいろな多くの要因が関与しているはずです。つまり激しい運動による免疫低下よりも他の要因が大きいと考えられるのです。

運動中では、血中のいくつかの免疫細胞の数は、感染に対処するナチュラルキラー細胞のように10倍くらいに増加する可能性があるそうです。運動後、それらの血中のいくつかの免疫細胞は減少してしまいます。運動開始前よりも低いレベルに落ちることがあり、これは数時間続くことがあります。以前はこの運動後の免疫細胞の減少が免疫抑制と解釈していました。しかし、これが免疫細胞が実際には失われたり抑制されたりしたことを意味するのではなく、むしろ肺のように感染する可能性がより高い身体の部位に移動するということのようです。つまり、血中濃度が低下する=その物質や細胞が少なくなる、ということではないのです。再分布され、血中から必要な場所に移動しただけなのです。最前線に集中的に配置しただけなのです。

また、マラソンなどの後に唾液中のIgAという免疫グロブリンが低下することも知られています。しかし、この唾液中のIgAの減少は、実際は唾液量の減少であり、IgAの減少ではないと考えられるというのです。そして唾液中のIgAの研究では口腔内の衛生状態が評価されていないという欠陥があります。歯周病や虫歯などでもIgAは変動するでしょうし、特にランナーは頻繁に糖質たっぷりのスポーツドリンクを飲むことで、口腔の衛生状態が悪化している可能性があります。それはプロのサッカー選手やオリンピックレベルのアスリートに非常に多くの口腔の問題を抱えている人がいることからも推測できます。

さらに、唾液中のIgAの量の1日の中での変動や心理的ストレスの影響での変動など様々な要因の影響を受けます。

また、あるウルトラランナーを調査した研究では一般の人よりもランナーの方が年間の病気の日数が少ないという結果が出ています。

現在の疫学研究の証拠によれば、身体活動が多い生活習慣を行うことは、感染による病気および非感染性の病気(癌など)の発生率が低下するとされています。

恐らくはマラソンなどの持久力を必要とするスポーツの後に免疫力が低下するというのは、実際には「ウソ」であると考えられます。

この研究で特に印象に残ったのは、免疫細胞が血中から必要な場所に移動し、そこの集まるため血中の数が減少するというメカニズムです。我々は、簡単に血液を採取できるので、血液を分析して様々な判断をしようとしています。しかし、血液は様々なものを運ぶ川や道路のようなものであり、その中に存在しないものは体の中に存在しないのではありません。例えば道路では車などで肉が運ばれていますが、その肉の量が地球上に存在する肉の量ではありません。どこかに届けられたら、道路上には存在しなくなりますが、地球上から消えたわけではなく、どこかのお店に運ばれただけです。

例えば、ビタミンCを摂取した後、数時間で血中濃度が低下することが知られています。そして、水溶性ビタミンは必要ない分は尿として捨てられるとも言われています。しかし、全部捨てられたから血中濃度が低下したのではなく、必要な場所に届けられて、血液の中から減っただけで、数時間しか体内に存在しないわけではありません。必要な場所に届けられてしかも余っていれば捨てられるかもしれませんが、様々な臓器や細胞の中にはビタミンCがしっかり満たされているかもしれません。人によっては数時間で血中濃度が下がることにより、数時間ごとにビタミンCの摂取を勧める方もいますが、疑わしいです。もし本当に数時間で体内から消えているのであれば、それは人間に必要がない物質であるか、体に異常にがありその物質を大量に消費してしまっているかです。

いずれにしても医学や健康については本当に神話が多く、十分検証されていないものもあるので、ずっと昔から言われてきたことだからと信じてしまうことは危険かもしれません。

 

「Debunking the Myth of Exercise-Induced Immune Suppression: Redefining the Impact of Exercise on Immunological Health Across the Lifespan」

「運動誘発性免疫抑制の神話のウソをあばく:寿命の間に免疫学的健康に及ぼす運動の影響を再定義する」(原文はここ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です