マラソン後の筋肉の痙攣

世界陸上の男子マラソン、スタート時に気温27度、湿度76%ってエリートランナーがマラソンする環境じゃありません。東京オリンピックもそうでしたが、選手がかわいそうだし、無理すれば、その後の選手生命にも影響する可能性もあるかもしれません。オリンピックであれば冬のオリンピックの競技にすべきでしょう。

さて、8月の終わりの日曜日の北海道マラソンも夏のマラソンで、マラソンとしては過酷な環境で行われます。でも、今年は今回の世界陸上ほどではありません。今年の北海道マラソン、6年ぶりに夏のマラソンでサブ4を達成することができました。しかし、いつも夏のマラソンは酷い運動誘発性筋痙攣、運動関連筋痙攣(EAMC)に悩まされます。レース後半から脚が攣りはじめ、ゴール後にしばらく歩いて、荷物を取りに行ったりする間に、ふくらはぎのこむら返りが起こり、時には両脚同時に起こります。

上の動画(画質が悪くて申し訳ありません)は5年ほど前に、フルマラソンレース後のふくらはぎの痙攣です。筋肉の一つ一つの細胞が収縮していいのか、弛緩してい良いのか混乱して、勝手に動きまくっているような感じです。

レース中にも痙攣が起き始めますが、ほとんどはそのまま走り続けます。そのうち痙攣が落ち着きます。また痙攣は襲ってきますが、立ち止まってしまうと、もっと大きな痙攣になるのではないかと恐れているからです。

今回の北海道マラソンの後の運動誘発性筋痙攣は過去一酷いもので、本当に悶絶するほどの痙攣の連続でした。両脚痙攣を起こし、歩けなくなって悶絶し、大会の係りの方が「大丈夫ですか?」と声をかけてきましたが、両脚が攣って動けないだけです、と介助を断りました。数分もすると少し痙攣がおさまり、それでまた歩き始めますが、数歩歩くとすぐに再度痙攣が始まりました。その繰り返しで、荷物を取って、着替えをしようとするまでにも10分くらい経っていたと思います。そして、最難関がシューズを脱ぐことです。脱ごうとすると痙攣し、おさまるのを待ち、再度トライ、すぐに痙攣、の連続。両脚脱ぐのにも5分以上かかっていたと思います。さらに、大腿の筋肉も攣ったり、腹筋も攣ったりで、もうどうしていいのやら…周りのランナーは私ほど痙攣に困っている人はいませんでした。

そして、着替えも痙攣、おさまる、痙攣、おさまる、の連続で、結局ゴール後30分近く痙攣と戦っていました。その後、迎えに来てくれた車に乗る時も、また痙攣。座るまでに数分、座ったと思ったら、また痙攣。とにかく出発してもらい、その間も悶絶し、しばらく口もきけないほどでした。段々、痙攣がおさまってきて、何とか家にはたどり着きました。

レース後に毎回、芍薬甘草湯をすぐに飲むのですが、全く効果なし。今回はマグネシウムも飲んでみましたが、効果なし。ゴール後500mlの水を飲みましたが効果なし。もうお手上げ状態です。春の涼しい時期のマラソンでは、痙攣は起きるのですが、そこまで酷くならないことが多いです。また、ウルトラマラソンではゴール後の痙攣は起きません。不思議です。

脱水、塩分不足?それも原因の一つでしょうけど、私は「神経筋制御異常」仮説も信じています。

筋肉の痙攣はごく一般的な現象であり、広く研究されているにもかかわらず、痙攣について全容を解明できていません。夏の暑い中で練習中や練習後に痙攣を起こしたことは全くありません。まあ、恐らく脱水、塩分不足、筋肉の極度の疲労、などから興奮性インパルスと抑制性インパルスのアンバランスを助長し、これが局所的な筋肉の痙攣を引き起こすのでしょう。ストレッチをすると痙攣がおさまる経験をした人も多いでしょう。ストレッチで一方向に強制的に筋肉を伸ばすことで、抑制性インパルスが増加し、リセットされるのかもしれません。

マラソン選⼿またはトライアスロン選手において⾎清電解質異常と運動関連筋痙攣の間に関係がないことが⽰されています。しかし、血中濃度では測れない、体内の塩分やマグネシウム不足が起きている可能性は十分にあります。やはり、一番の解決法に近いのは、レース中に塩分を摂取することかもしれません。毎回、3g程度の塩を持ってレースを行っていますが、塩を摂る余裕がなく、いつもレース中には摂らずに終わっています。レース後はどうかというと、もうレースも終わったから、という感じになってしまい、今更塩分はすぐには必要ないと思ってしまっています。それがダメなのかもしれません。次回はレース中、レース後に塩を大量に摂ってみようと思います。

それ以外の要因を見てみましょう。

ある研究(ここ参照)では、運動関連筋痙攣の過去の病歴、レース初期段階でのより速いランニングペース、レース前の筋肉損傷(クレアチニンキナーゼ:CKの増加)が危険因子として挙げられています。過去に運動関連筋痙攣なった人は再度なりやすい、というのは私には当てはまり過ぎです。レースの序盤はいつも予定よりも速く走ってしまいがちなので、これも当てはまりますが、レース後の痙攣防止のために序盤にペースを落とすことも躊躇しますね。CKのレース前の増加はありません。テーパリングして、数日ノーランでレースに挑みますから。さらにストレッチに関しては、運動前にストレッチングを行ったランナーのうち、運動関連筋痙攣群とコントロール群の間には有意差が認められ、運動関連筋痙攣群では92.9%が運動前にストレッチングを行ったのに対し、コントロール群では54.6%でした。有意差は認められませんでしたが、運動関連筋痙攣群の70.0%運動関連筋痙攣が柔軟性トレーニングプログラムに参加していたのに対し、コントロール群ではわずか48.3%でした。また、運動関連筋痙攣群は9.8分/週、コントロール群が1.1分/週で、運動関連筋痙攣群の方がより長いストレッチングを行う傾向が認められました。これは私には当てはまりません。全くストレッチをする意義がわからないのでしません。また、レース前に準備体操も全くせずにいきなり走り始めます。

ある研究では、マラソンによる筋痙攣を経験したランナーとそうでないランナーにおいて、脱水症状についての変数、血中の電解質、そして筋損傷の血中マーカー、レース中のペース戦略、トレーニング関連の変数などを比較しています。

合計98人(男性83人、女性15人)、年齢30~45歳(平均年齢38.72歳)、マラソンのベストタイムが男性で3~4時間、女性で3時間30分~4時間30分のランナーが対象で、最終サンプルは84人でした。レース中またはレース直後に運動関連筋痙攣を発症したランナーは合計20人(24%)でした。発症率に男女差は認められませんでした。

運動関連筋痙攣が起きた人と起きなかった人で、水分補給状態変数(レース前およびレース後の尿糖および体重の変化)および血中ナトリウムおよびカリウムに有意差は認められませんでした。

運動関連筋痙攣が起きた人と起きなかった人での、有意な違いがあったのは、レース直後のCKおよび24時間後のCKで、運動関連筋痙攣を経験したランナーの方が経験しなかったランナーよりも有意に高くなりました。同様に、LDH値もレース直後および24時間後で運動関連筋痙攣が起きた人の方が高くなりました。

レース後の値とは異なり、レース前のCKとLDHは、運動関連筋痙攣が起きた人と起きなかった人との間で有意差はありませんでした。最後のトレーニングからレースまでの時間数も、マラソン前の過去3か月間に負傷したランナーの割合も、トレーニング関連および経験関連の変数である過去のマラソン出場回数、ランニング年数、週間トレーニング日数、時間、ランニング量(キロメートル)は差はありませんでした。しかし、定期的に筋力トレーニングを行ったランナーの割合の差は、運動関連筋痙攣を経験した人と経験しなかった人との間で統計的に有意に近く、痙攣を起こさない人の方が筋トレを行っている傾向がありました。

つまり、もしかしたら、マラソン中に運動関連筋痙攣を起こしたランナーは、フィットネスレベルに比べて筋肉に過度の強度要求を課していたということなのかもしれません。自分の持っている力以上に頑張ってしまったとも言えます。筋力トレーニングはマラソンにおいても運動関連筋痙攣に対する保護効果を発揮する可能性があると考えられます。

来年に向けて、筋トレを練習に導入しようかな。痙攣防止に、他にも良い対策があれば教えてください。

それにしても、夜中に寝ているときに突然に起きるこむら返りの本当の原因は何なのでしょうか?筋肉は疲労もしていないし、大した脱水なども起きていません。人間の体は不思議です。

「Cause of exercise associated muscle cramps (EAMC)–altered neuromuscular control, dehydration or electrolyte depletion?」

「運動関連筋けいれん(EAMC)の原因は、神経筋制御の変化、脱水、または電解質枯渇でしょうか?」(原文はここ

「Muscle Cramping in the Marathon: Dehydration and Electrolyte Depletion vs. Muscle Damage」

「マラソン中の筋肉のけいれん:脱水と電解質の枯渇 vs. 筋肉の損傷」(原文はここ

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