アテローム性動脈硬化症は生まれた頃から始まっている その1

アテローム性動脈硬化症は、一体いつ頃から始まっているのでしょう?

アテローム性動脈硬化症は生活習慣病、成人病から来るので、成人してから、中年以降に起こる病気という認識の方もいるかもしれません。もちろん実際に症状が現れるのは中年以降のことが多いのは事実だと思いますが、どうやらもっともっと前から病気が出現し、進行しているようです。

以前の記事「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その1」で書いたように、動脈の内膜は年輪のように年々肥厚してきます。そして、小さな子供の動脈からも動脈の壁の中に脂肪の蓄積を認める脂肪線条があることがわかっています。

今回の研究では、10代~30代の比較的若い年齢の人の動脈でどれほどのアテロームが認められるかを分析しています。(図は原文より)

 

 

上の図は上から順に胸部大動脈、腹部大動脈、右冠動脈であり、右側が脂肪線条の出現率、左側が隆起病変の出現率です。(茶色い色が濃いほど割合が高くなります。)胸部大動脈を見ると、なぜか半分(背中側)だけが茶色に染まっています。腹部大動脈にはそのようなことは認めません。しかし、隆起病変の出現率は胸部ではほとんどないのですが、腹部では明らかに高くなっています。

右冠動脈を見ると、脂肪線条は30~34歳ではもう真茶色に染まっています。しかも、隆起病変もかなりの割合です。

実際の病変部の範囲は表面のどれくらいを占めているのでしょうか?

上の図は病変の占有率を示していますが、胸部大動脈では20%前後であり、10代でも15%前後となっています。腹部大動脈では10代の頃より20%前後を示し、年齢とともにどんどん進行しているのがわかります。そして、性差や人種差はありますが、女性では25歳を超えると40%前後になっています。

それに対して、右冠動脈の病変は10代ではほんの数%に過ぎません。しかし、30~34歳では10%を越えてきています。

上の図は病変が少しでもあるか無いか、表面の5%以上あるのはどれぐらいの割合かを示しています。少しでも脂肪線条の病変が認められるのは胸部と腹部の大動脈ではほぼ100%です!5%以上もほぼ90%~100%です!

右冠動脈では少しでも脂肪線条の病変が認められるのは60%~80%といったところです。それにしても非常に高い割合です。5%以上となると10%~50%程度です。

隆起病変では、少しでも隆起が認められるのは胸部では10代で数%でしかありませんが、30~34歳になると20%前後まで増加してしまいます。しかし腹部となるともっと割合が高く、年齢とともにどんどん増加し、少しでも隆起が認められるのは30~34歳で60%前後、5%以上となっても、40%前後です。

脂肪線条では大動脈と比べて割合が少なかった右冠動脈ですが、隆起病変では状況が異なります。少しでも隆起病変が認められるのは、男性15~19歳では23~24%にもなります。女性では6.8~17.9%です。そして5%以上の割合は数%になっています。病変は年齢とともに割合は増加し、少しでも隆起病変が認められるの30~34歳の男性では50%前後、女性では30%以上となり、表面の5%以上の割合は男性で20%以上、女性で10%以上になっています。

 

 

そして、数%には石灰化も認めています。30~34歳では腹部大動脈に関しては石灰化が10%以上にもなっているのです。

そうすると、我々人間は非常に早い段階から、動脈に脂肪を蓄積し始めていることになります。内膜の肥厚も生まれてからすぐに始まると考えらますし、わずかな脂肪の蓄積は10歳前からあるとすると、このような変化は当たり前のことなのでしょうか?

つまり、人間の成長の中でこのような現象は成長の一部で誰にでも起こることであり、避けられないことなのでしょうか?そうであるとすると、進化の中でこのことが有利に働いていた可能性はありますが、多くは症状が中年期以降に出現するとなると、進化では淘汰はされません。

私は、このような現象のいくつかは自然の成長の一部であり、残りのいくつかはミスマッチによる過剰な現象ではないかと思います。

ある程度、内膜の細胞が増えて肥厚し、そこに脂肪がある程度は蓄積し、線維化を起こし、血管として強固なものとしているのですが、そのメカニズムを持っているがために、ミスマッチによりこれまでの進化の中で蓄積してきた以上の脂肪が動脈の壁の中に過剰に溜まってしまい、処理しきれない異常なほどの脂肪が蓄積し、それをがんばって過剰に処理することが進化以上の線維化などをもたらし、どんどん血管の内腔が狭くなってしまうのではないかと思います。

つまり、進化の中での食事と現代の食事の違いが、動脈のメカニズムに対してミスマッチを起こしているので、このミスマッチを解消すれば、症状を起こさない範囲での変化しか起きないのではないかと思うのです。

このミスマッチの原因は当然、糖質過剰摂取です。

小さな子供の頃から、現代では糖質を過剰摂取しています。病変はこの小さな子供の内から少しずつ進行し、40年~50年~60年して症状を表すほど成長します。自分の体の処理能力はどれぐらいかは誰も知りません。しかし、現代の食事の糖質量は確実に狩猟採集の時代よりも大幅に増加しています。

生まれたときから少しでも糖質を避ける努力をすることが、成人してからの血管を守ってくれると思います。最初の図で10代後半から20代でも茶色く染まっているのを思い出してください。今のあなたの血管にはかなりの脂肪が溜まっているかもしれません。

 

 

「Prevalence and Extent of Atherosclerosis in Adolescents and Young Adults」

「若年成人および青年のアテローム性動脈硬化症の有病率および範囲」(原文はここ

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