運動前の糖質摂取は脂肪をエネルギーにしにくくなる

運動の前に糖質を摂取することは、その後の運動中に脂肪の酸化(脂肪をエネルギーにすること)を減少させることがわかっています。最近では、この脂肪の酸化の減少が糖質摂取後、少なくとも4時間持続すると言われています。

運動するときに脂肪をエネルギーにするには、まず脂肪を分解しなければなりません。脂肪の分解はインスリンの増加によって敏感に反応し、抑制されます。脂肪の酸化速度は脂肪の分解速度を上回ることはできないので、脂肪の分解が抑制されれば、脂肪をエネルギーにしにくくなります。

インスリンが空腹時から10~30μU/mlというわずかな増加を示すような糖質摂取でも、運動中の脂肪分解を抑制することによって脂肪酸化を減少させるようです。この研究では絶食(FAST)のままの状態と、糖質の果糖(FRUCTOSE)、ブドウ糖(GLUCOSE)、ブドウ糖+脂質の注射(GLUCOSE+LIPID)を比較しています。今回はブドウ糖+脂質の注射については省略します。運動の1時間前に果糖またはブドウ糖を0.8g/体重kgを摂取しました。(図は原文より)

上の図は糖質摂取による血糖値の変動を表しています。当然絶食のままの状態では血糖値の変動はほとんどありません。糖質摂取から20分後には優位に血糖値は上昇し運動開始まで続いています。果糖はブドウ糖に比べて血糖値の上昇は緩やかでした。糖質摂取群では運動開始後に急速に血糖値は低下して、20分後にはベースラインを下回っています。ただ、絶食群とは有意差はありません。

上の図はインスリン濃度です。血糖値と同じように糖質摂取後で上昇しています。糖質摂取10分後にはすでに絶食群と差があり、運動開始20分後まで差が続きました。この運動開始20分後でもインスリンがやや高値を示しているために、血糖値がベースラインから低下していると考えられます。運動前の平均のインスリン濃度はブドウ糖で38.5μU/ml、果糖で8.2μU/mlでした。

脂肪酸化速度 
運動時間
20〜30分50〜60分
絶食6.1±0.26.8±0.4
フルクトース(果糖)4.2±0.55.3±0.6
グルコース(ブドウ糖)3.1±0.34.9±0.7

(表は原文より改変)

上の表は脂肪酸化速度です。運動を20~30分行った場合と、50~60分行った場合を表しています。絶食群と比べると糖質摂取群は脂肪酸化が低下していることがわかります。ブドウ糖摂取では果糖摂取よりもその低下が大きくなりました。

上の図はAが20~30分の運動、Bが50~60分の運動です。黒いバーが脂肪分解、白いバーが脂肪酸化を示しています。そうすると、絶食群では脂肪の分解が脂肪酸化を20%前後上回っていますが、糖質摂取群ではどちらも脂肪分解と脂肪酸化が同じ程度になっています。つまり、脂肪が分解した分がそのまま脂肪酸化に使われており、脂肪の酸化は脂肪分解量に依存していることがわかります。

上の図はAが血中のグルコースの出現率、Bがグルコースの消失率を表しています。運動前、ブドウ糖摂取群では平均のグルコースの出現率およびグルコースの消失率は、絶食群よりも2〜4倍高かかったのですが、果糖群では絶食群より20〜30%高くなりました。

運動中、ブドウ糖摂取群ではグルコースの出現率およびグルコースの消失率は、絶食群よりも2倍以上高く、果糖群と比べても50%高くなりました。果糖群のグルコースの出現率およびグルコースの消失率は絶食群よりも50〜60%高くなりました。

総炭水化物酸化、グルコース消失速度、および筋グリコーゲン酸化 
20〜30分の運動期間
総炭水化物酸化グルコース消失速度筋グリコーゲン酸化
絶食85±915±170±8
フルクトース105±821±284±9
グルコース117±630±387±8

上の表は20~30分の運動中の総炭水化物酸化、グルコース消失速度、および筋グリコーゲン酸化を表しています。

絶食群と比べると果糖群もブドウ糖群もどの項目も上回っています。筋肉のグリコーゲンも糖質摂取群の方が多く使われているのがわかります。

上の図は20〜30分間の運動中の筋肉グリコーゲン(黒)、血糖(白)および脂肪(グレー)のエネルギー消費率を表しています。絶食群では筋肉グリコーゲン47%、血糖9%、脂肪44%でした。ブドウ糖摂取群では脂肪からのエネルギーはかなり低下し、22%と絶食群の半分でした。その分血糖および筋肉グリコーゲンはそれぞれ20%および58%に増加しました。

果糖群では脂肪30%、血糖14%とブドウ糖群よりは脂肪の酸化割合は多くなりましたが、筋肉グリコーゲンは56%とブドウ糖群と同程度です。

50~60分の運動では筋肉のグリコーゲンのエネルギーはどの群も差が無くなりました。

このように運動前の糖質摂取は運動中の脂肪の酸化を低下させます。逆に言えば空腹のまま運動した方が効率的に脂肪をエネルギーに変えることができます。運動前の糖質摂取は8時間の間、全脂肪酸化を約30%低下させるという報告もあります。0.8g/kgという量(50kgの体重で40g)の糖質でもかなり脂肪をエネルギーにしにくくなります。運動前の過剰な糖質摂取により、インスリンが分泌されると、運動を始めてすぐの時間帯に血糖値がかなり低下する場合もあります。持久系の運動では脂肪の酸化が低下することによりパフォーマンスの低下の可能性も考えられます。ハーフタイムや途中にしばらく運動を休止するスポーツの場合、その時間帯にスポーツドリンクなどで大量の糖質を摂ってしまうと、その度にインスリンが分泌され、血糖値が大きく乱れる可能性もあります。

持久力を必要とする運動の場合、糖質を摂らない、または糖質を摂るタイミングを十分考えて摂るようにしなければなりません。カーボローディングは有効でしょうか?

「Lipolytic suppression following carbohydrate ingestion limits fat oxidation during exercise」

「炭水化物摂取後の脂肪分解抑制は、運動中の脂肪酸化を制限する」(原文はここ

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コメント

  1. ねけ より:

    ということは、たとえばマラソンやその練習を考えたとき、食後4-8時間以上あとにというのが、こと脂肪燃焼に関しては効率的と言うことでしょうか。

    10~30μU/mlというとほんとに極々わずかな糖質の摂取でも分泌されてしまうインスリン量ですよね?スーパー糖質制限なら大丈夫、という訳にもいかなさそうです。

    ではむしろ一食抜いてとか、あるいは可能な限りに脂質やタンパク質のみの摂取でレースやロング走に望むというのが良いのかな。
    運動している人にとっては練習時間などいろいろ変更が必要かも知れません。
    そのような視点から、自分でも試してみたいと思います。

    • Dr.Shimizu より:

      ねけさん、コメントありがとうございます。

      今回の研究では液体の糖質を40g摂取して、このようなインスリン量です。スーパー糖質制限であればまずは問題ないとは思います。
      脂肪燃焼には空腹時が最も良いと思います。
      もちろん私はレース前もロング走前も糖質はほとんど摂取しません。

  2. namomono より:

    初めてコメント致します。
    過去の記事にも書かれていたように、たんぱく質の摂取は血糖値は上げなくてもインスリンはある程度分泌されるのですよね?
    インスリンが問題だとする今回の記事と合わせると、運動前には糖質だけでなくたんぱく質もあまり摂るべきではないのではないかとも思えます。何も摂らない場合や脂肪”だけ”摂る場合で差が出るのかどうか、といったことも気になります。
    そのあたりの見解はいかがでしょうか。

    • Dr.Shimizu より:

      namomonoさん、コメントありがとうございます。

      実際には、以前の記事のグラフにもあるようにタンパク質を摂って分泌されるインスリンは糖質よりもかなり少ないです。
      50gのタンパク質でインスリンはピークで10増加するかどうかです。
      そして、純粋なプロテインを飲む以外では、肉や卵など通常はタンパク質と脂質を同時に摂取することになります。
      その場合のインスリンがどうなるかは手元にデータは持っていませんのでわかりませんが、恐らくプロテインを飲むよりもインスリンの
      分泌は少ないのではないかと思っています。もちろん脂肪だけ摂った時にはインスリンは出ません。まあ、運動前に油を飲むことはありませんが。
      糖質を摂らなければ運動前の食事はあまり気を使わなくても良いのではないでしょうか?

  3. dark_macer より:

    はじめまして、よろしくおねがいします。

    ロードバイクに乗っています。週1の休みに150k~200km、平日20~40km位走ります。
    通常の食事は低糖質高タンパクで
    休みの前日、もしくは前々日は体を休めカーボローディングします。
    休日当日も朝食は糖質をメインに補給します。
    ですので、今回の記事は少し考えさせられる内容でした。

    2日休んでグリコーゲンを蓄えた状態だとやはり坂などいつもよりも楽に登れてしまいます。自転車の場合ギアがあるので、ランニングよりも好調不調がわかりやすいです。
    また、自転車の場合マラソンと違いダッシュが頻繁に絡んできます。
    私の場合空腹時にトレーニングするとLSD(ロング・スロー・ディスタンス)であれば問題ないのですが、インターバルトレーニングを多用するとハンガーノックに近い状態になることがあります。
    LSDに戻すとまた回復するのですが、やはり空腹時のライドは怖いものがあります。

    ですが、糖質代謝より脂質代謝を重視するとライドは私の目標に近いので、今回の記事を参考により糖質制限を試してしていこうかなと思います。
    ありがとうございました。

    • Dr.Shimizu より:

      dark_macerさん、コメントありがとうございます。

      ケトン食の研究ではオフロードサイクリストのものがあります。
      確かに中等度の強度まではケトン食の方が良いのですが、最高強度ではケトン食が負けてしまいます。
      運動時に脂質をエネルギーにするか糖質をエネルギーにするかは、自分の最高強度に対して、どれぐらいの運動であるか?
      によって変わります。心拍数を参考にすればいいと思いますが。
      普段糖質制限をしていて、カーボローディングもしていなければ、85%ぐらいの強度まではガンガン脂質をエネルギーにできると思います。
      よろしければ試してみてください。

      ちなみにツールドフランス3度優勝のクリスフロム選手も確か糖質制限(ケトン食かも)です。

  4. dark_macer より:

    返信ありがとうございます。
    なるほど、高強度下では流石に、糖質代謝・脂肪代謝の2つのエネルギー代謝の片方を極端に制限した状態であれば、片方の代謝が上がってもなかなか追いつかないと言う事ですね。
    ただし、適正な食事で脂肪代謝の効率が上がる体質を作ってしまえば、85%強度を目安に脂肪代謝でも補えると…

    代謝の質で言えば脂肪代謝のほうが質が高いと聞いたことがあります。
    また、運動パフォーマンスを上げるために、健康を害するのも本末転倒の感がありますしね。

    なにより、週1回位のカーボローディングだと、その後の食事に気をつけないと太ってしまうという欠点もあります。

    本格的に取り組む価値ありですね。

    • pon より:

      いつも楽しみにしております。横やり質問大変申し訳ありません。
      失礼をお許しください。
      「なにより、週1回位のカーボローディングだと、その後の食事に気をつけないと太ってしまうという欠点もあります。」とは、どのような意味でしょうか・・・
      糖質制限をしていると、糖質代謝が悪くなるということなのでしょうか・・・

    • Dr.Shimizu より:

      dark_macerさん

      是非挑戦してみてください

  5. dark_macer より:

    pon さん

    「なにより、週1回位のカーボローディングだと、その後の食事に気をつけないと太ってしまうという欠点もあります。」とは
    私の場合です。
    休日に長距離を走るので、燃料切れが怖く、前日は体を休め、炭水化物(主にグルコース)の割合を全体の70~80%に増やします。
    長距離走るのでその分エネルギー変換されて、多少多めにローディングしても問題ないだろうと思っていたんですが、実際カーボローディングした週としない週では確実に、体重が違ってきます。
    ローディングの調整が悪いのかもしれませんが、カーボ・ローディングした方が確実に増えます