動脈硬化のアテロームのコレステロールは、本当にLDLコレステロールによってもたらされているのでしょうか?
これまでの仮説では、血管の内腔よりLDLが血管壁を通り、血管壁の中でマクロファージに取り込まれ、その後泡沫細胞となり、アテロームを形成すると考えられてきました。
しかし、実際のアテロームの中のコレステロールを分析すると、意外なことがわかっています。
泡沫細胞のコレステロールというのは主にエステル化コレステロールというものです。しかし、早期のアテロームを分析すると、遊離コレステロールというコレステロールの含量が著しく高く、コレステロール全体の平均で63%であることが明らかになったのです。つまり、アテロームに含まれるコレステロールはすべて泡沫細胞のみに由来するとは考えにくく、40%弱は確かに泡沫細胞のコレステロールかもしれませんが、60%以上は他にコレステロールを運ぶ運び屋がいると考えられるのです。(図は原文より)
上の図は病変部位の全てのコレステロールに対する遊離コレステロールの割合を示しています。脂肪線条の段階でも40%程度が遊離コレステロールです。そして早期のちょっとした隆起病変(図の真ん中)では60%程度が遊離コレステロールが占めています。
では、誰が遊離コレステロールを運んできたのでしょうか?
冠状動脈の原因で突然死亡した患者において、進行したアテローム性動脈硬化のプラークを調べてみるとそこには赤血球膜を含み、赤血球がプラークの増殖に積極的に寄与し得ることを示唆していました。赤血球膜中の遊離コレステロールの含有量は赤血球の総重量の約40%にもなることが示されています。
赤血球は、LDLと相互作用し、コレステロールを獲得し、HDLと作用して、コレステロールを失うと考えられています。この赤血球のコレステロールは赤血球の安定性を維持するために重要なものと考えられています。
コレステロールのプールされている量 | ||
mg/体重kg | g(体重が50kgの人の場合) | |
肝臓 | 27.0 | 1.35 |
赤血球 | 37.0 | 1.85 |
リポタンパク質 | 20.3 | 1.02 |
末梢の組織 | 133.7 | 6.69 |
(上の表はこの文献より改変)
上の表はコレステロールがどこにプールされているかを示しています。赤血球にあるコレステロールはLDLなどのリポタンパク質のコレステロールよりもかなり多いことがわかります。
アテロームには赤血球が存在し、その赤血球が運んでいる遊離コレステロールが大量にあります。自然に考えればアテロームにコレステロールを運んでいる運び屋はLDLなどのリポタンパク質だけではなく、赤血球が大きくかかわっていると考えられるのです。
そうであるとすると、ますます血管の内腔から血管壁を通ってコレステロールが運ばれてアテロームを形成するという仮説は信じられなくなります。
小さなLDLの大きさは25nm程度です。VLDLとなればその倍の50nmより大きいものもあります。一方で赤血球の大きさは7~8μmです。7μmは7000nmです。つまり、赤血球というのは小さなLDLの300倍前後の大きさなのです。そんな大きなものが通るような穴が血管の壁に開いていたら大変なことになってしまうでしょう。血管壁としての役割を果たしていません。
アテロームを形成するときにLDLなどのリポタンパク質は血管の内腔から、赤血球は別の場所からという別々の経路がある可能性は否定はできませんが、同じ経路をたどってコレステロールが運ばれると考えた方が自然な気がします。
「Development of the lipid-rich core in human atherosclerosis」
「ヒトアテローム性動脈硬化症における脂質豊富なコアの開発」(原文はここ)