子宮内膜症は慢性の婦人科疾患であり、生殖年齢の女性の10~15%に影響を与えているようです。子宮内膜組織が子宮の外で増殖し、慢性の骨盤痛や不妊症を引き起こします。正確な病理学的メカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、恐らくは代謝障害がメインでしょう。もっと言えば、糖質過剰症候群でしょう。
子宮内膜症と糖質過剰摂取との関連性を見てみましょう。
まずはインスリン抵抗性の指標であるTyGインデックスとの関連性の研究です。対象は1,590人の女性(平均年齢39.2歳、BMI29.18)で、そのうち135 人 (8.5%) の女性が子宮内膜症と診断されました。
TyG インデックス | OR(95%信頼区間) |
---|---|
モデル3 | |
連続値 (7.049–11.951) | 1.62 (1.18–2.22) |
四分位カテゴリ | |
Q1 (7.049–8.061) | 1 |
Q2 (8.063–8.452) | 1.26 (0.71–2.23) |
Q3 (8.453–8.865) | 1.31 (0.74–2.32) |
Q4 (8.866–11.951) | 2.04 (1.15–3.62) |
上の表のように、最もTyGインデックスが高いグループでは、最も低いグループと比較して子宮内膜症の可能性が2.04倍でした。
上の図は、TyGインデックスによる子宮内膜症の可能性の図です。TyGインデックス8.455を境界として、それ以上の値だと子宮内膜症のリスクが高くなるようです。
上の図は、さまざまな集団におけるTyGインデックスと子宮内膜症の可能性との関連性です。出産経験、糖尿病、喫煙状況、飲酒状況、経口避妊薬の使用状況ごとに分けています。ただ、細分化すると、どうしてもnが少なくなってしまうので、あまり当てにならないかもしれません。
最もTyGインデックスが高い場合、最も低い場合と比較して子宮内膜症の可能性は、出産経験のあるグループでは2.18倍、糖尿病のないグループでは2.12倍、現在喫煙しているグループでは3.93倍、現在飲酒しているグループでは2.54倍、経口避妊薬を使用しているグループでは1.91倍でした。
いずれにしても、インスリン抵抗性が高いと子宮内膜症のリスクが高くなります。
もう一つの研究を見てみましょう。今度はメタボリックシンドロームとの関連です。2389人が対象で、177人が子宮内膜症でした。子宮内膜症のある人は子宮内膜症のない人よりもメタボリックシンドロームの可能性が1.55倍が高くなりました。メタボの因子で見ると、子宮内膜症は腹囲、収縮期血圧、拡張期血圧、および中性脂肪と関連していることがわかりました。潜在的交絡因子を調整した後では、子宮内膜症と中性脂肪の間に統計的有意性がありました。
中性脂肪の増加は糖質過剰摂取、特に果糖の過剰摂取で起こります。
インスリン抵抗性もメタボも糖質過剰症候群であり、糖質過剰摂取が原因です。糖質過剰摂取によるインスリン抵抗性は、高インスリン血症とインスリン様成長因子-1 (IGF-1) が増加し、子宮外での子宮内膜組織の成長と増殖を促進する可能性があります。また、慢性の全身性炎症も起こすのでそれが子宮内膜症に関連している可能性もあるでしょう。さらに、高インスリン血症はアンドロゲンの産生を促進し、エストロゲンとプロゲステロンのホルモン不均衡につながり、異所性子宮内膜病変の形成と成長をさらに促進する可能性があります。
もう少し難しい話をすると、6-ホスホフルクトース-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ3(PFKFB3)という酵素が関係している可能性が高いと思われます。PFKFB3は解糖の重要な酵素であり、がんの発生において重要な調節的役割を果たし(ここ参照)、様々ながんにおいてPFKFB3は過剰発現しています。そして、子宮内膜症の組織でもPFKFB3が過剰発現していることが研究で確認されています。(ここ参照)PFKFB3は、子宮内膜症細胞の増殖と成長を促進し、一方で、PFKFB3は子宮内膜症細胞における解糖を促進します。さらに、PFKFB3は子宮内膜症細胞の移動と浸潤を促進します。
そして、高血糖および高インスリンはPFKFB3の遺伝子発現レベルを増加します。(こことこことここ参照)PFKFB3はがんと子宮内膜症の両方に大きく関連しているというのは、子宮内膜症が卵巣がんをはじめいくつかの女性のがんと関連があることを考えれば、納得できますね。
子宮内膜症の予防には若いころからの糖質制限が必要でしょう。
「Association between triglyceride-glucose index and risk of endometriosis in US population: results from the national health and nutrition examination survey (1999-2006)」
「米国人口におけるトリグリセリド-グルコース指数と子宮内膜症リスクの関連性:全国健康栄養調査(1999-2006)の結果」(原文はここ)
「Association between endometriosis and metabolic syndrome: a cross-sectional study based on the National Health and Nutrition Examination Survey data」
「子宮内膜症とメタボリックシンドロームの関連性:国民健康栄養調査データに基づく横断的研究」(原文はここ)