最近は血液を固まりにくくする抗凝固薬を飲んでいる人が多いですね。以前はワーファリンしかなかったのですが、現在はリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、アピキサバン(商品名エリキュース)、ダビガトラン(商品名プラザキサ)、エドキサバン(商品名リクシアナ)と種類が豊富です。肺や深部静脈の血栓塞栓症の治療、再発抑制だけでなく、心房細動による脳梗塞の予防にも使うために、使用者が激増しているのでしょう。そして心房細動であれば、ずっと抗凝固薬を飲み続けさせられます。
血液を固まりにくくする薬なので、当然出血のリスクがあります。そして、通常よく使われる鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も特に胃の出血をもたらすことがあります。そのためNSAIDsの処方では、よく胃薬が併用されます。さらに、この抗凝固薬を使用している人はNSAIDsを使うような疾患、例えば腰痛や関節痛などを伴うことも珍しくないでしょう。
このような抗凝固薬とNSAIDsの併用は非常に危険なレシピです。出血のリスクが大きく増大します。皮膚の打撲で「あおたん」(北海道の方言かな?標準語では「青あざ」?)や歯茎からの出血程度ならまだいいのですが、時には命にかかわります。
今回の研究では、抗凝固薬とNSAIDsの併用による出血のリスクを分析しています。経口抗凝固薬の投与を開始した51,794人の静脈血栓塞栓症患者が対象です。女性が48%、年齢の中央値は69歳、65%は恐らく悪性腫瘍や妊娠/出産、外傷/骨折、または手術に関連して静脈血栓塞栓症を誘発し、9.9% が活動性がん、9.9% が心房細動または粗動でした。中央値0.6年の追跡期間中に、1,897 件 (3.7%) の出血イベントと 4,396 件 (8.5%) の死亡が観察されました。(図は原文より)
上の図は抗凝固薬を投与されている患者におけるNSAIDsの使用と非使用に関連する出血リスクを示しています。100人年あたりのあらゆる出血のイベント率は、NSAIDを使用していない期間では3.5、NSAIDsを使用している期間では6.3で、NSAIDs使用に関連する出血リスクは2.09倍です。非使用と比較すると、1年間のNSAIDs使用における1000人の患者あたりの追加出血イベント数は28でした。 NSAIDsを使用した場合と非使用の場合とで、1年間に1回の追加出血イベントを引き起こすために必要な数は36でした。つまり、抗凝固薬使用者36人にNSAIDsを併用すれば、1人は出血イベントを起こしてしまうのです。
非使用と比較した場合、イブプロフェン使用時の出血リスクは1.79倍、ジクロフェナク3.30倍、ナプロキセンは4.10倍でした。NSAIDs使用に関連する出血リスクはワーファリン以外の抗凝固薬使用患者では2.27倍、ワーファリン使用患者では1.79倍でした。
上の図は非使用と比較したNSAIDs使用に関連する部位別の出血リスクです。消化管出血は2.24倍、頭蓋内出血で3.22倍、胸部および呼吸器出血で1.36倍(これは有意差なし)、尿路出血で1.57倍(これも有意差なし)、出血による貧血は2.99倍でした。ワーファリン以外の抗凝固薬だけで見るとNSAIDs使用で、消化管出血は2.07倍、頭蓋内出血で3.76倍、胸部および呼吸器出血で1.93倍(これは有意差なし)、尿路出血で2.05倍、出血による貧血は3.17倍でした。
ほとんどの人が長期に抗凝固薬を飲み続けるので、その間にNSAIDsを使う機会は何度もあるかもしれませんので、累積リスクはもっと高いでしょう。
安全策、解決法は抗凝固薬とNSAIDsを併用しないことです。根本的な解決はそれではありません。
本当であれば、血栓症や心房細動がどうして起きるのかの根本原因を予防および治療し、このような薬が必要のないようにすべきです。そもそも体の中で血栓ができるなんてあまりにも異常です。何かが間違っているから本来固まるわけがない状態なのに血液が固まるのです。一番の原因はもちろん糖質過剰摂取でしょう(最近では新型コロナワクチンも血栓を増加させています)。ApoC-Ⅲの増加やグリコカリックスの激減を招いてしまうのでしょう。(「糖質過剰摂取は血栓が詰まりやすい」「血栓症と高血糖および糖尿病 その1」「血栓症と高血糖および糖尿病 その2」「糖尿病とグリコカリックス」「糖尿病での塩分制限は血栓をもたらすかもしれない」など参照)
しかし、多くの医師は消化管出血を避けるためにはPPI(プロトンポンプ阻害薬)を併用し、リスクを低下させようとするでしょう。これらに抗凝固薬に対するPPIを使用しての上部消化管出血防止への効果は、1年間の治療必要数 (NNTY) で、788(年齢75〜84歳)、668(年齢≥85歳)、374(抗血小板薬併用)でした。(ここ参照)つまり、ほとんどの人には恩恵はありません。
さらにPPIでは頭蓋内や他の部位の出血は防げません。そして、PPIとNSAIDsの併用は別の問題もあります。それについては次回以降で。
「Bleeding risk using non-steroidal anti-inflammatory drugs with anticoagulants after venous thromboembolism: a nationwide Danish study」
「静脈血栓塞栓症後の抗凝固薬と非ステロイド性抗炎症薬の併用による出血リスク:デンマーク全国調査」(原文はここ)