「その1」の続きです。
今回は糖質制限を行うと不健康になるのか?を見ていきます。その1と同様のネットの記事からのものです。(記事はここ)
その1で示した図から、この記事では「炭水化物の摂取量は多すぎても少なすぎても不健康になってしまうということを意味している。」と書いています。まあ死亡率と不健康が同じかどうかはよくわかりませんが。そして前回でも解説した、Lancetのいい加減な研究をさらに詳しく見ていますが、元のデータの質が低いので、それを詳しく見てもデータの質は低いままでしょう。
動物性のタンパク質・脂質の摂取量が多い人は、糖質制限で全死亡率、心筋梗塞などによる死亡率、糖尿病の発症リスクが高く、逆に植物性のタンパク質・脂質の摂取量が多い人は、逆に糖質制限で全死亡率、心筋梗塞などによる死亡率、糖尿病の発症リスクは低いという結果であった、と書いています。動物性=悪、植物性=善というお決まりパターンです。さらにこの研究では、低炭水化物食スコアという糖質制限では全く使い物にならないスコアを使っています。低炭水化物食スコアは本当の糖質制限には対応できません。
そして次のように書いています。
「糖質制限ダイエットをしている人の中には、肉などのたんぱく質の摂取量を増やすことで満腹感を得ている人も多いが、肉は食べすぎると大腸がんのリスクを増やしてしまうなど健康に悪影響がある。」
糖質制限は肉の摂取量が多い。肉の摂取量が多いと大腸がんのリスクが増加。だから糖質制限は大腸がんのリスクが増加する、というA=B、B=CだとA=Cという数学的な考えになってしまっています。恐らく最初の糖質制限は肉の摂取量が多いというのは間違ってはいないでしょう。もちろん、糖質制限のタンパク質の増加を、大豆や魚などで増やしている人もいるかもしれませんが、多くは肉で増やしているのではないかと思います。
問題は次の「肉の摂取量が多いと大腸がんのリスクが増加」という仮説です。以前の記事「結腸がん患者における未加工の赤肉とがん再発および死亡のリスク」でも書いたように、食事アンケートでしかデータが取れない食事に関する研究では、全く真逆の結果となる研究が両方とも存在します。
彼は2021年のネットの記事を取り上げたときも同じように赤肉は大腸がんリスクを増加させることを書いていました。その時も私は反論の記事「結構久しぶりの糖質制限否定の記事だけど その2 肉と大腸がん」を書きました。
WHOのがんの専門の組織であるIRACが分析し、その評価に使用した文献は800以上で、その中から赤肉と大腸がんの関係は14件のコホート研究が選ばれました。14件中7件で赤肉の高消費量対低消費量で差があり、大腸がんに関連しているという結果になりました。15件のケース・対照研究で7件が高消費量対低消費量で大腸がんに関連ありという結果です。つまり合わせると、29件の研究で大腸がんと関連があるというのは14件とおおよそ半分ですが半分以下です。5分5分です。
肉が大腸がんのリスクを上げるとすれば、肉を食べないベジタリアンはさぞかし大腸がんが少ないのでは?と思うのは当然でしょう。以前の記事「肉が大腸がんのリスクを増加させるなら、ベジタリアンは?」で示した研究では、ベジタリアンはベジタリアンではない人よりも大腸がんリスクが何と49%も高く、肉食の人と比べてベジタリアンはなんと39%リスクが高いという結果でした。赤肉ががんのリスクを上げると考えるならば、当然ベジタリアンの方がリスクが低くなるはずですが、結果は逆になってしまいました。
そして糖質はがんのエサ、ということを考えれば、「糖質制限は肉の摂取量が多い。肉の摂取量が多いと大腸がんのリスクが増加。だから糖質制限は大腸がんのリスクが増加する」という単純な話ではないことは容易にわかるでしょう。糖質過剰症候群の代表である糖尿病や肥満は大腸がんと関連しています。以前の日本糖尿病学会の報告では、糖尿病はあると、大腸がんのリスクは1.3~1.4倍です。イギリスの最近の論文(論文はここ)では、2型糖尿病の人の大腸がん死亡率は、一般集団に比べて2.4倍高くなっています。
肥満も大腸がんのリスクが1.36倍になるという研究が最近出ていました。(ここ参照)
大腸がんのリスクを増加させるのは肉ではなく糖質でしょう。彼が出しているエビデンスのように質の低い食事アンケートでデータで良ければ、砂糖入りドリンクや砂糖摂取量、果糖摂取量が多くなるほど大腸がんのリスクが上がるという研究は多数あります。(例えばこことここ参照)動物で良ければ、果糖摂取が大腸がんを促進するメカニズムもいくつか示されています。(ここ参照)
そして、このネット記事には、彼のお決まりの「茶色い炭水化物」推しが書かれています。糖質制限をすると、なぜかこの人は「不溶性の食物繊維が豊富に含まれる「茶色い炭水化物」の摂取量が減る」ということになっていますが、確かに炭水化物は減りますが、不溶性の食物繊維は他の食材にもいっぱい含まれているので、別に問題にはならないはずです。しかし、彼は「茶色い炭水化物」が大好きなようです。彼の頭の中では糖質制限=食物繊維摂取量激減、となっているように感じます。
玄米や全粒粉のような「茶色い炭水化物」は、確かに白米よりは玄米の方がやや血糖値の上昇は少ないですが、健康的とはほど遠い血糖値スパイクを示します。(「フリースタイルリブレを使った人体実験 その21 玄米を食べてみた」参照)インスリン分泌についても調理の状態、ちょっとだけ精米してしまった玄米など条件によって異なる可能性がありますし、個人差も大きいでしょう。(「玄米と白米での血糖値、インスリン分泌を比較すると?」参照)
「白い炭水化物を茶色い炭水化物に置き換えることで、健康に良い効果があるだけでなく、ダイエットになることも研究結果から分かっている。」
と書かれていますが、以前の記事「結構久しぶりの糖質制限否定の記事だけど その4 茶色い炭水化物「玄米」」「その5 日本人の玄米と白米の研究」で書いたように、白米よりはほんの少しマシなだけで、大した効果が期待できません。そして、その後に彼自身が糖質制限の長期的効果について触れていますが、玄米の長期的効果は彼は示していません。糖質制限の長期的効果に疑問を呈するのであれば、ご自身の推奨する食事に関しても長期的効果を示すべきでしょう。
江部先生はもちろんですが、私も夏井先生も、そして多くの糖質制限をしている人も不健康になっているでしょうか?10年以上糖質制限をしても健康そのものの人がほとんどだと思います。
「Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis」
「食事中の炭水化物摂取と死亡率:前向きコホート研究とメタ分析」(原文はここ)