「その1」「その2」「その3」「その4」の続きです。しつこいですがその5です。突っ込みどころが多くてある意味面白い記事です。記事はこれです。記事には次のように書かれています。
「日本で行われたクロスオーバーデザインのRCT(介入群と対照群を途中で入れ替えて、それに合わせてアウトカムも逆転するか検証する方法。通常のRCTでは違う人を比較するのに対して、クロスオーバーデザインでは同じ人において白米を食べている状況と玄米を食べている状況を比較しているので、よい研究デザインだと考えられています)では玄米に変えると血糖値とインスリン分泌量が減るだけでなく、血管内皮の状態も改善すると報告されています。」
上の研究では2つの試験を行っていますが、これも非常に小さなサンプルで、研究1では11人の、研究2では27人です。私も小さなチェリー好きです。研究1では白米の食事を食べたときと玄米の食事を食べたときの急性効果を見ています。そしてメタボリックシンドロームの有無で分けています。(図は原文より)
○が玄米、●が白米を含む食事(450kcal中200kcalの玄米または白米)をしたときのものです。私はどう見てもメタボなしの場合は白米と玄米に差がなく、メタボありだと玄米の方が血糖値とインスリン値が120分後で高いように見えてしまいます。目の錯覚でしょうか?それとも誤植でしょうか?いずれにしてもメタボでは見事に玄米でも血糖値スパイクを認めています。
血管内皮機能評価としてFMD(血流依存性血管拡張反応)は確かにメタボの60分値で低下していますが、それ以外は玄米と白米で違いはありません。
2つ目の試験はクロスオーバーです8週間ずつ白米と玄米を食べました。でも日本人を対象にしているのでベースラインでは多くの人は白米を食べていると思います。
BR-WRグループは最初に玄米8週間、その後白米8週間です。WR-BRグループはその逆で最初に白米8週間、その後玄米8週間です。上の表の最初、と2番目の項目を見てみると、順番がどうであろうと、玄米を食べている時期と白米の時期で血糖値、インスリン分泌の推移は違いがないようです。
インスリン抵抗性のHOMA-IRを見ると、確かに玄米期間で低下を示しています。WR-BRグループの白米期間では大幅にHOMA-IRが増加してしまっています。玄米の良さより、白米の悪さが浮き彫りです。ただHbA1cを見ると、BR-WRグループでは変化なく、WR-BRグループでは玄米で逆に増加傾向です。
BR-WRグループでは、体重、BMI、腹囲は8週間の玄米期間の終わりまでに減少し、白米期間の終わりまでにベースライン値に戻りました。体重は玄米で平均1.7kg減です。しかしWR-BRグループでは、腹囲は玄米期間の終わりに低くなりましたが、体重やBMIの変化には有意差はありませんでした。
上の図はaが体重変化率、bが腹囲変化率、cが内臓脂肪変化率、dが皮下脂肪変化率です。変化率でみると、皮下脂肪以外、ほとんどが玄米期間で低下しています。しかし、WR-BRグループの内臓脂肪変化率において白米で15%もの増加傾向を認めることにより、玄米が良いのではなく、白米をたくさん食べることが有害であるとも考えられます。
図は示しませんが、FMD変化率ではBR-WRグループでは玄米期間に増加しましたが、WR-BRグループでは変化しませんでした。
白米と玄米の順番を変えると有意な差を認めない項目もあるので、何とも言えない結果です。確かに8週間という短期で玄米では体重が減少したり、内臓脂肪が減少したりしているようですが、糖質制限と体重変化について著者が長期では体重が戻ることを書いているように、玄米については短期の体重変化などしか触れていないのはフェアではありません。長期では何もわかりませんし、主張に一貫性がありません。それにベースラインではほとんどが白米を食べていると推測されるので、その4で書いたように、それはあくまで白米と比較したものであり、玄米が健康的であるということではありません。白米よりは少しだけマシという程度でしょう。糖質を摂らないようにすれば、もっと体重が減少し内臓脂肪も減少します。
他の日本人の玄米と白米の研究では、2 型糖尿病の人28 名を無作為に玄米または白米の食事に割り当て、8 週間後のデータも分析しています。(これはクロスオーバーの研究ではありませんが)(表は原文より改変)
玄米グループ | 白米グループ | |||||
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ベースライン | 8週後 | 変化 | ベースライン | 8週後 | 変化 | |
体重(kg) | 63.2±9.9 | 62.6±9.7 | -0.6(-1.3~0.1) | 66.3±14.0 | 66.0±14.2 | -0.3(-0.7~0.1) |
BMI | 24.2±3.5 | 24.0±3.4 | -0.2(-0.5~0.0) | 25.0±3.7 | 24.9±3.7 | -0.1(-0.3~0.0) |
体脂肪 (%) | 26.2±6.9 | 26.4±7.9 | 0.2(-2.0から2.4) | 28.6±9.2 | 28.3±9.4 | -0.4(-1.6~0.9) |
収縮期血圧 (mmHg) | 121.9±15.0 | 119.0±12.4 | -2.9(-9.7~3.8) | 124.9±15.9 | 120.1±12.5 | -4.8(-12.2~2.6) |
拡張期血圧 (mmHg) | 70.7±8.2 | 68.4±8.3 | -2.3(-5.8~1.2) | 69.1±9.7 | 69.0±7.8 | −0.1(−3.3~3.0) |
空腹時血糖 (mmol/L) | 6.79±1.02 | 6.35±0.86 | −0.44(−0.98〜0.10) | 7.04±1.30 | 6.98±1.54 | -0.06(-0.46〜0.34) |
空腹時インスリン (pmol/L) | 35.4±37.2 | 35.0±45.7 | -0.39 (-7.44 ~ 6.66) | 38.2±20.2 | 41.6±28.1 | 3.42(-8.06~14.89) |
HbA1c(%) | 6.7±0.6 | 6.5±0.4 | -0.2(-0.5~0.0) | 6.8±0.6 | 6.7±0.6 | -0.1(-0.3~0.1) |
グリコアルブミン (%) | 17.0±2.5 | 16.7±2.1 | -0.4(-1.2~0.5) | 18.0±2.8 | 18.2±2.7 | 0.2(-0.6~1.0) |
HOMA-IR | 1.92±2.42 | 1.83±3.02 | -0.08(-0.61~0.44) | 2.02±1.24 | 2.09±1.34 | 0.07(-0.47〜0.61) |
HOMA-β | 35.6±29.2 | 38.8±33.7 | 3.2(-6.4~12.8) | 41.7±30.3 | 56.3±68.8 | 14.6(-13.8~43) |
総コレステロール (mmol/L) | 5.10±0.96 | 4.89±0.81 | −0.21(−0.51〜0.09) | 4.88±0.85 | 4.90±0.78 | 0.01(-0.24~0.27) |
HDLコレステロール(mmol/L) | 1.65±0.42 | 1.54±0.35 | -0.11(-0.19~-0.04) | 1.41±0.29 | 1.40±0.31 | -0.01(-0.12~0.10) |
LDLコレステロール(mmol/L) | 3.05±0.63 | 2.91±0.67 | −0.14(−0.40〜0.13) | 2.98±0.65 | 2.98±0.62 | -0.01(-0.23~0.21) |
中性脂肪 (mmol/L) | 465±155 | 514±161 | 48.9(-18.0~115.7) | 562±523 | 597±650 | 35.6(-49.3~120.4) |
高感度CRP(μg/L) | 0.09±0.12 | 0.05±0.05 | -0.04(-0.09~0.01) | 0.04±0.03 | 0.05±0.06 | 0.01(-0.01~0.03) |
tPAI-1(ng / mL) | 17.6±13.6 | 15.5±10.5 | -2.1(-7.2~3.1) | 16.3±7.2 | 16.2±6.0 | -0.1(-2.5~2.4) |
アディポネクチン (ng/mL) | 8.2±4.6 | 7.7±4.3 | -0.5(-1.2~0.2) | 7.9±4.6 | 8.1±5.0 | 0.2(-0.2~0.7) |
尿 8-イソプロスタン (pg/mg·cre) | 152.3±67.3 | 161.2±45.2 | 8.9(-26.8~44.5) | 150.9±67.8 | 158.9±68.5 | 8.0(-18.9~34.9) |
上の表はベースラインと8週間後の様々な検査項目の変化です。見てわかるように、体重、血糖値、インスリン値、HOMA-IRなどを含めて、ほとんど変化していません。一番下の酸化ストレスマーカーである尿8-イソプロスタンはどちらのグループも増加傾向にあるようにも見えます。
上の図はベースラインと8週間後の急性変化です。 250kcal(およそ150gぐらいでしょうか?)の量の玄米または白米を摂取した時の血糖値とインスリンの推移です。白が白米、黒が玄米です。血糖値もインスリン値も白米の方が高くなっていました。しかし、玄米でも血糖値スパイクは十分に起きており、60分値のピークは12mmol/L(216mg/dL)前後です。とても健康的とは呼べないレベルです。
先ほどの研究と同様に内皮機能は玄米の方が改善していました。これも白米と比較して改善するだけです。
玄米を食べても当然、糖尿病を改善することは無理でしょう。
「まずは1日のうち1食だけ玄米にしてみる」
と提案していますが、1食だけで本当に「長期的には、糖尿病、脳梗塞、大腸がんなどのリスクが下がります」という根拠があるのでしょうか?1日1食玄米にしたところで、ほとんど何も変化しないと思います。そのようにして健康的な食事を摂っているつもりになっていると、長期的には糖質制限と比較して様々な疾患のリスクが増加してしまうと私は思います。玄米を推奨する人は、自分で血糖値などを測定して確認をしていない人だと思います。玄米を食べた後の血糖値スパイクを見たら、怖くて食べられません。
アジア以外の国では玄米は恐らく食べないので、次回は全粒穀物と血糖値などについて見てみましょう。
糖質過剰症候群
「Effects of the brown rice diet on visceral obesity and endothelial function: the BRAVO study」
「内臓肥満と内皮機能に対する玄米食の影響:BRAVO 研究」(原文はここ)
「Fiber-rich diet with brown rice improves endothelial function in type 2 diabetes mellitus: A randomized controlled trial」
「玄米を含む食物繊維が豊富な食事は 2 型糖尿病の内皮機能を改善する: 無作為化比較試験」(原文はここ)
このような研究をする方、またエビデンスと称して信じる方々、
糖尿病合併症や認知症になることが怖くないのでしょうか?
そんなはずはないので、正確な情報への探求心が欠けているとしか思えません。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
どんな形であってもお米を食べたい人はそのわずかな有益性を探したいのでしょう。