LDLコレステロール値が高いだけではアテローム性動脈硬化は起こらない その1

LDLコレステロールはいまだに「悪玉」と呼ばれ続けています。しかし、単にLDLコレステロール値が高いだけでは問題にはなりません。よく目にするのが、血管の中のLDLが内皮細胞をすり抜けて内膜に至り、そこで酸化してマクロファージに取り込まれて泡沫細胞になってプラークになるという図です。本当でしょうか?いくら小さなLDL(sdLDL)になっても内皮細胞をすり抜けるほどの隙間があるとは思えません。

LDLは血管内にあるものの中で、大きさとしては比較的大きな粒子です。測定法で違いがあるのでしょうが、大きなLDLは26.0~28.5nmで、小さな危険なsdLDLで22.0~23.2nm程度です。大した違いはありません。sdLDLが大きなLDLの10分の1とか100分の1の大きさになるのであれば、内皮細胞の間をすり抜けるのも少しは考えられるかもしれませんが、この程度の違いでは難しいと考えるのが普通でしょう。血管内のイオンや水分子、アルブミンなどはLDLよりもかなり小さいので、LDLが隙間をすり抜けられるのなら、水やイオン、アルブミンもダダ漏れです。大きな血管の壁がそんなざるのようになっていては、血液が保てません。血液の中の物質が壁をすり抜けるかどうかは制御されています。

問題を起こさない善玉のLDLはLDL受容体により取り込まれます。マクロファージもLDL濃度が高くても善玉LDLであれば、LDLを取り込むこともなく泡沫細胞にはならないと言われいます。家族性高コレステロール血症(FH)ではLDL受容体の異常であり、FHだからと言って非常にLDLが多くても必ずしもアテローム性動脈硬化症になるわけではありません。

では、なぜsdLDLがアテローム性動脈硬化症を発生させるのでしょうか?そこにはLDL受容体とは別の受容体、LOX-1が関係していると考えられています。LOX-1は酸化LDLを動脈壁に取り込むのに重要な役割を果たします。LOX-1は血管の内皮細胞だけでなく、マクロファージ、血小板、線維芽細胞、血管平滑筋細胞などにも存在ます。(図は原文より)

上の図はLOX-1がアテローム性動脈硬化症を起こす中心的な役割を担っていることを示したものです。難しいので詳細は省略します。酸化LDLなどによりLOX-1が活性化されると、内皮機能障害、単球接着、酸化ストレスの増加、泡沫細胞形成、血管平滑筋増殖、および血小板活性化などが起こります。これらの一連のことは、炎症誘発性であり、血栓形成促進状態になり、プラーク形成およびその進行をもたらします。

sdLDLは通常の善玉LDLよりも長く血管内に存在し、酸化を受けやすいLDLです。だからsdLDLはアテローム性動脈硬化症を発生に関係していると考えられているのです。

糖質過剰摂取では中性脂肪が増加し、HDLコレステロールが減少します。そして炎症も起こしやすくなるので、sdLDLは発生しやすく、酸化されやすい状態になります。つまり、アテローム性動脈硬化症をは糖質過剰症候群なのです。

スタチンの好きな専門医がLDLコレステロール値ばかりを気にしていますが、どんなLDLが増加しているかが本当は最も重要なことです。しかし、それを見て見ないふりをしなければ、スタチンをバンバン処方することはできません。

拙著「糖質過剰症候群」や以前の記事「LDLコレステロール値は役に立たない」で示したように、十分に低いLDLコレステロール値であっても冠動脈疾患になる人はいっぱいいます。sdLDLがいっぱいあり、酸化LDLになり、LOX-1に取り込まれれば血管が詰まります。糖質制限で中性脂肪/HDL比=1.3以下を目指しましょう。

次回以降ではもう少しLOX-1について詳しく見ていこうと思います。

 

「LOX-1 in Atherosclerosis and Myocardial Ischemia: Biology, Genetics, and Modulation」

「アテローム性動脈硬化症および心筋虚血におけるLOX-1:生物学、遺伝学、および変調」(原文はここ

 

 

4 thoughts on “LDLコレステロール値が高いだけではアテローム性動脈硬化は起こらない その1

  1. 「十分に低いLDLコレステロール値であっても冠動脈疾患になる人はいっぱいいます」
    との事。結局スタチン処方の目的は、医療側の経済的潤いだけになってしまいます。

    世の中にはとても有効な薬もある筈、なのに、こういう事実が余りにも多い気がして、
    服薬拒否症(これはこれで問題ありそうですが、でもそのほうが確率的に健康維持できそう)になりそうです。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      できる限り薬は飲みたくないという人もいれば、わざわざ薬を求める人もいます。人それぞれです。
      ただ、薬のほとんどは対症療法であり、根本的な解決になっていないことを知らない人も大勢います。

  2. コレステロールへの誤解もそうですが、脂質を目の敵にするバラエティ番組が目立ちます。NHKの人気番組「有吉のカネオくん」という番組の話です。

    「糖質制限」に対して、かたくなに目をつぶり耳をふさぎ続ける医師や栄養士の類ならしかたないのですが、「美ボディ」の名のもとに、引き締まった美しい筋肉質体形をめざして、自らもエクササイズを実践しているようなトレーナーの人たちが、「脂質を除いたタンパク質」を推奨、公言しているんです。

    あれって、どういうつもりなんでしょうね(笑)糖質をきちんとコントロールしたうえでの脂質の摂取は肥満にけっしてならない。「けっして」、これは経験的な事実なのに。少なくとも僕はそうですよ

    1. やまもとさん、コメントありがとうございます。

      どういうつもりかはわかりませんが、プロテインを推奨したいのでしょうかね?
      所詮、数々のおかしな健康情報を流しているNHKですからね。
      でも、意外と信じる人も多いのでしょうから、問題ですね。

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