LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その11 赤血球のコレステロールと血中のコレステロール値とは関連しているか?

以前の記事「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その10 赤血球そして鉄」ではプラーク内にかなり赤血球が存在していることを書きました。

赤血球がコレステロールの第2の運び屋(第1かもしれませんが)だとすると、赤血球の膜のコレステロール量は血中のコレステロール量を反映し、やはりコレステロール値を低下させなければならないのでは?という考えが出てきます。

ではどうでしょう?

心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群の人120人を分析しました。比較したのは慢性に経過している安定した冠動脈疾患の人です。

そうすると、総コレステロール、中性脂肪およびLDLコレステロール値は、2つのグループ間で有意に異なりませんでした。しかし、安定した冠動脈疾患群ではHDLコレステロール値が高く、急性冠症候群群ではCRP値が有意に高くなりました。(図は原文より)

 

上の図は左が安定した冠動脈疾患群、右が急性冠症候群群で赤血球膜のコレステロール量を表しています。そうすると、明らかに急性冠症候群群では赤血球膜コレステロール量が多いことがわかります。

多変量解析をしてみると、冠動脈疾患群のリスクは次のようになりました。

表の一番上のCEMは赤血球膜コレステロールを表しています。次がCRP、次がHDLコレステロール、次がβブロッカーという薬剤、次がアスピリンという薬剤です。CEMは112.1μg/mgを境界としてそれ以上の場合とそれ以下の場合でどれくらい急性冠症候群になるかのリスクを表しています。CRPは3mg /L(日本の単位では0.3mg/dL)を境界としています。HDLコレステロールは1.1mmol /L(日本の単位では約42.5mg/dL)を境界としています。

そうすると、HDLコレステロールも薬剤も負の関連でしたが、赤血球膜コレステロールだけは独立して急性冠症候群のリスクを高くしていました。しかもその数値は25倍以上です。

さらに、血中のコレステロール値と赤血球膜コレステロールの関連を調べました。総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪どれも赤血球膜コレステロールとは関連が認められませんでした。

スタチンの影響を排除するために、スタチンを飲んでいない人だけで分析したところ、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールと赤血球膜コレステロールとは関連が認められませんでした。さらに赤血球膜コレステロールとBMIとも関連が認められません。

総コレステロール値が高い人でも、低い人でも赤血球膜コレステロールが高くなっている人が急性冠症候群と関連していました。

スタチンの使用は赤血球膜コレステロールを有意に低下させていました。しかし、スタチンを使った人であっても、スタチンを使っていない人であっても、赤血球膜コレステロールが高くなっている人が急性冠症候群と大きく関連していました。そうするとスタチンが赤血球膜コレステロール量を低下させるのはコレステロールを低下させることによるものではなく、別のメカニズムがありそうです。

さらに、赤血球膜コレステロール量が血管造影における複雑な冠状動脈病変の存在、冠動脈疾患の急速な進行および有害な予後の予測因子と関連していました。

つまり、心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群を起こす危険な冠動脈疾患は、血中のコレステロールとはあまり関連せず、赤血球が大きく関連しているのではと考えられます。動脈の内膜に侵入してきた新生血管からの赤血球が大量になること、つまりは出血です。血中のコレステロールが血管壁を通過してコレステロールが溜まるのではなく、危険なものは急性の内膜での出血が起きて、急激に血管が狭くなったり閉塞する状態だと考えます。

赤血球は自分でコレステロールを合成するわけではないので、リポタンパク質からコレステロールを受け取るはずです。赤血球膜のコレステロールが多いのか少ないのかを規定するものは何かは今の段階では私は勉強不足でありわかりません。しかし、この研究では血中のコレステロールの量は問題ではないことを示しています。

小さなころから始まる動脈の内膜の肥厚、脂肪の蓄積が徐々に起こることと、症状を起こすような狭窄や閉塞のメカニズムは別である可能性があります。ただ、病変部を見れば、蓄積したコレステロールが発見されます。それは血中のコレステロールの値と関係しているわけではなく、年齢とともに少しずつ溜められたものと、急に出血をして赤血球によってもたらされた大量のコレステロールが混ざっているのではないでしょうか?

LDLコレステロール説はますます怪しく思えてきました。

 

「Total Cholesterol Content of Erythrocyte Membranes Is Increased in Patients With Acute Coronary Syndrome: A New Marker of Clinical Instability?」

「急性冠動脈症候群患者における赤血球膜の総コレステロール含量の増加:臨床的不安定性の新たなマーカー?」(原文はここ

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