2型糖尿病の食事療法ではいまだにカロリー制限であり、いわゆる「バランスの良い」食事を指導され、飽和脂肪酸は減らすことが推奨されると思います。しかし、このような古典栄養学が現在の糖尿病の患者が苦しむ元凶にもなっていることは確かでしょう。
糖尿病の人に糖質(炭水化物)の量を変えた食事を摂取させて、どのように食後の血中の中性脂肪が変化したかを調べた研究があります。
55%炭水化物、30%脂肪、および15%タンパク質の低脂肪高炭水化物の食事、または40%炭水化物、45%脂肪、および15%タンパク質の高脂肪低炭水化物の食事(糖質制限食に比べたら十分高炭水化物、低脂肪ですが)いずれかを6週間摂取し血液検査をしました。炭水化物を減らした分は脂質の中の一価脂肪酸を増加させました。血液検査の日の朝8時に毎日のエネルギー量の20%を食べ、昼の12時に40%分のエネルギーを食べました。その時のデータは次のようです。(図は原文より)
上の図のAは血糖値、Bはインスリン値、Cは中性脂肪値を、55%CHOは55%炭水化物群、40%CHOは40%炭水化物群を表しています。当然低脂肪高炭水化物である55%炭水化物群の方が食後高血糖になっています。インスリンは40%炭水化物群で朝食後の分泌が55%炭水化物群よりもかなり少ないですが、昼食後はほぼ同じです。注目は中性脂肪値で、食事の前の段階から55%炭水化物群では40%炭水化物群よりも高く、食後も差が認められます。つまり、低脂肪高炭水化物の食事は食後ずっと中性脂肪値を増加させてしまうのです。このことは何によって起きているのでしょう。
上の図は血漿の中性脂肪、Sf>400の中性脂肪(通常はカイロミクロン)、Sf20-400の中性脂肪(VLDLとカイロミクロンのレムナント)を示しています。先ほども書いたように55%群ではベースラインも上がっていますし、最高値も高く、しかもベースラインに戻る時間も40%群よりも長くなっています。両群でカイロミクロンは同程度に認められますが、消失するまでの時間(ベースラインに戻るまでの時間)は明らかに55%群の方が長くなっています。VLDLやカイロミクロンレムナントの量も55%群で明らかに増加しています。
上の図は血漿とSf>400およびSf20-400画分中のレチニルエステルの濃度を表していますが、これは主にカイロミクロンとカイロミクロンのレムナントを示しています。Sf>400はカイロミクロン、Sf20-400はカイロミクロンレムナントです。そうすると、Sf20-400では両群でかなりの差を認めます。つまり、55%群では40%群よりもカイロミクロンのレムナントが大量に存在しているのです。
上の図は左がVLDLの中性脂肪のプールされている量、真ん中がVLDLの中性脂肪の除去率、右がVLDLの中性脂肪の産生率を示しています。55%群の方がプールされている量が多く、除去率は低下し、産生速度が増加しています。恐らく、炭水化物(糖質)の多い食事はVLDLの産生を増加させますが、同時にカイロミクロンも存在するためにその除去は両者が競合するために、VLDLの除去率も低下し、カイロミクロンのレムナントも増えることになるのでしょう。そのため中性脂肪の豊富なリポタンパクであるVLDLとカイロミクロンが増加し、血漿の中性脂肪が増加してしまうのです。
糖尿病の人だけでなく、どんな人であっても、糖質の多い食事はこのように高中性脂肪血症をもたらします。つまり、脂質を減らして糖質を増やすような食事は健康を悪化させるための食事なのです。通常の栄養指導が如何に古典栄養学に基づいた間違った方向であるかがわかります。糖質を「バランス良く」摂ることは間違っています。脂質摂取が空腹時の中性脂肪を増やすわけではないことに理解してください。
「Why do low-fat high-carbohydrate diets accentuate postprandial lipemia in patients with NIDDM?」
「低脂肪高炭水化物ダイエットはなぜNIDDM患者の食後の脂肪血症を強めるのですか?」(原文はここ)