臨床試験は製薬会社の思いのまま? 論文より自分を信じよう

インパクトファクターというものがあります。学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標です。インパクトファクターが高い雑誌に載った論文の方が重要度が高かったり、影響力があったりすると考えられています。しかし、インパクトファクターは雑誌そのものの評価であって、論文や研究者の評価ではありません。

ただ、研究者であれば論文をインパクトファクターの高い雑誌に載せたいと考えるのは不思議ではありません。

このインパクトファクターが高い雑誌に載った論文は、実際には非常に素晴らしい論文なのでしょうか?非常に有益な内容なのでしょうか?

インパクトファクターの高い7つの医学雑誌(New England Journal of Medicine、Lancet、JAMA、BMJ、Annals of Internal Medicine、JAMA Internal Medicine、PLOS Medicine)に載った200の試験を分析してみると、「意外」ではなく、「やっぱり」と思える事実がわかりました。

ワクチン、薬剤、および医療機器の治験における学術機関の著者、資金提供者、および開発業務受託機関の役割を確かめるために、論文の著者のうち少なくとも1人は学術機関(クリニック、病院、大学、非営利学術研究施設)に属する、直近の第III相・第IV相臨床試験の200試験について解析しました。第III相試験は、それまでに得られた有効性や安全性を多くの患者によって確認する試験で、第IV相は市販後に行われ、有効性や安全性にかかわるさらなる情報の収集を目的とした試験です。(図は原文より)

 

 

ほとんどの試験では、資金提供企業と学術機関の著者の両方がデザイン、実施、報告に関わっていました。上の図では、左からデザイン、実施、データ分析、報告のグラフです。それぞれの色分けされたバーは左から資金提供企業のみ、学術機関の著者のみ、資金提供企業と学術機関の著者の両方、資金提供企業と開発業務受託機関、学術機関の著者と開発業務受託機関、資金提供企業と学術機関の著者と開発業務受託機関、開発業務受託機関のみ、不明です。

200試験中173試験(87%)は、資金提供企業の社員が共著者であり、試験デザインには173試験(87%)で資金提供企業が関与しており、167試験(84%)は学術機関の著者の関与していました。

一方でデータ解析には、146試験(73%)で資金提供企業の関与があり、学術機関の著者の関与はたった79試験(40%)でした。そして、多くのデータ分析では誰が分析したのか非常に曖昧な記述になっていました。

試験の報告には、173試験(87%)で資金提供企業、197試験(99%)で学術機関の著者が関与していました。開発業務受託機関は、123試験(62%)に関与していました。

資金提供された試験のすべての側面が、資金提供企業または開発業務受託機関の関与なしに学術機関の著者のみによって実施されたのは8試験(4%)のみでした。しかし、これらの8つの試験のうちの4つにおいて、筆頭著者は、この試験以外での資金提供企業との利益相反を明らかにしました。つまり、利益相反の無い試験、学術機関の著者はほとんど存在しないことになります。

筆頭著者にアンケートを取り、80人から回答がありました。その結果は下の図です。

 

図の左から、比較する対照の選択、試験結果の選択、デザインに関する最終的な発言、論文の原案原稿、出版された原稿の最終的な発言を表しています。色付きのバーの意味は左から資金提供企業のみ、学術機関の著者のみ、様々な組み合わせのコラボレーション、学術機関の著者と監督機関のコラボ、資金提供企業と監督機関のコラボ、その他、不明です。

回答したうちの29人(33%)だけが、学術機関の研究者がデザインについて最終的な発言をしたと報告しました。

何人もの回答者が、実際に出版された論文には、資金提供企業または開発業務受託機関の関与を記載していないことを認めています。

53人(66%)の回答者は、論文の原稿が学術機関の著者のみによって作成されたと報告しましたが、その中の27人(51%)は開発業務受託機関に論文を書く援助を受けていました。回答した5人(6%)は、その論文が、公表された論文の共同執筆者であったり名前が記載されている者でもない、資金提供企業または開発業務受託機関の従業員によって作成されたと報告しました。1人は実際に最終的に誰が論文を書いたのか分からないという人もいました。

52人(65%)が、学術機関の著者が出版された原稿について最終的に発言したと報告しましたが、、これらの52の試験のうち40の試験には、資金提供企業の従業員が共著者になっていました。

10人(13%)が、名前を隠した資金提供企業や開発業務受託機関の従業員がデータ分析や報告に関与していると報告しました。さらに7人(9%)がデザイン、データ分析、または報告に、出版された論文に報告されていない資金提供企業や開発業務受託機関の従業員の関与を認めていました。

学術機関の著者のほとんどは企業との協力が有益であると述べたましたが、3人(4%)は資金提供企業のために公表が遅延したことを経験し、9人(11%)は主に試験デザインおよび報告に関して資金提供企業と意見の不一致があったと報告しました。

 

もちろん、様々な研究、薬の開発には非常に多くのお金が必要です。資金提供企業が何らかの関わりを持っていることは当然なのかもしれません。実際に学術機関の著者だけでなく企業の従業員が、インパクトファクターの高い雑誌において、ほとんどの試験のデザインから実施、報告に携わっています。しかし、最も重要だと思われるデータ分析は、多くの場合、学術機関の関与なしに行われていました。つまり、悪い言い方をすれば、企業が勝手にデータを分析できるのです。企業の利益になるようなデータの取捨選択が行われるかもしれませんし、改ざんが行われるかもしれません。企業の不利益になるデータは隠されてしまう可能性もあります。しかも意図的に論文には企業の従業員の名前を伏せているのです。

多くの学術機関の研究者は、資金提供企業との協力関係を有益と思っています。お金が必要なので当然です。しかし、その研究、試験の結果は企業が握り、自由な活動を妨げる可能性があります。インパクトファクターが高い雑誌の論文だからと言って信用できるとは限りません。

2018年のノーベル賞を受容した本庶佑先生が述べていました。(「日本人がまたもノーベル賞 でも、どうしても疑ってしまう」参照)

「私自身は、研究に関して、何か知りたいという好奇心がある。もう1つは、簡単に信じない。それから、よくマスコミの人は、ネイチャー、サイエンスに出ているからどうだ、という話をするが、僕はいつもネイチャー、サイエンスに出ているものの9割はうそで、10年たったら、残って1割だと思っています。まず、論文とか、書いてあることを信じない。自分の目で、確信ができるまでやる。それが僕のサイエンスに対する基本的なやり方。つまり、自分の頭で考えて、納得できるまでやると言うことです」

本庶佑先生の発見は本物ですが、オプジーボの開発はもちろん企業とのコラボでしかできませんでした。

一概には企業の関与がダメだとは思いません。しかし、研究者は最も責任を持った立場でなければなりません。データの分析からその結果まで全てに関して責任を負っていなければなりません。そして、結果が悪かった場合の報告も研究者の責任で行うべきです。

企業がデータ分析をしている限り、その結果には信ぴょう性が怪しくなってしまいます。以前の記事「スタチンのダークサイド 秘密は隠されている…」に書いたように、実際に様々な薬の論文には、様々な指摘がされています。

「歴史は繰り返す」

かつてアンセルキーズという人が1980年に出した論文「7か国研究」が、その後世界中に大きな影響を与えました。「脂肪悪玉説」が出来上がったのです。しかし、実際には23か国研究で行ったのに、都合の悪いデータの国を削除し、自分の説に都合の良い7か国だけを選び論文にしたのです。実際にはその論文の中でショ糖の摂取量が冠動脈疾患の発生と相関関係があることを認めています。しかし、これに問題があるとは思わなかったのか、意図的に無視したのか、飽和脂肪酸を悪玉と決めつけてしまいました。それに製薬会社も食品業界も乗っかって、正しいかのように一般に広まってしまいました。しかし、ご存知のようにその後どんどん様々な疾患は激増してしまったのです。

アンセルキーズと同じように、1人の科学者ではなく現代では製薬会社が中心となって間違っているとわかっているのに正しいことの様に書かれる論文が横行してしまうのです。スタチンはその代表ともいえます。LDLを低下させることが死亡率を減少させないことは最近の研究で明らかです。(そのことは近日中に記事にします。)しかし、スタチンを売って莫大な利益を上げるにはLDLが悪者でなくては困るのです。LDLは悪者であり、スタチンはLDLを低下させることは利益があるとする研究が発表されると、それが正しいかのように定着してしまいました。多くの研究者はその論文を引用したり、メタ解析したりしてさらに定着を強化してしまいました。そして、多くの研究者は何とかその飽和脂肪酸やコレステロールやLDLが害を与えるというメカニズムを解明しようと数十年が無駄に消費されました。現在分かったのは飽和脂肪酸やLDLコレステロールの低下が利益がないという事実です。

キーズがこのような研究を発表しなかったら、もっと多くの人は病気にならずに済んだはずですし、もっと多くの貴重なお金と時間が他の研究に費やすことができたはずです。もっと多くの研究者がキーズの理論を疑い、生理学的事実に照らし合わせて正しい方向の研究ができていたらと、残念でなりません。

歴史は繰り返しますが、しかし時代は変わってインターネットで様々な情報が手に入りますし、様々な情報が発信できます。企業や企業に飼われた研究者が間違った情報を発信していても以前よりはウソが暴露されるようになりました。ただ、どの情報が本当であるかを見極めるには、やはり知識を持たなければなりません。

私は記事を書くときに、多くの論文を引用しています。しかし、できる限り自分の考えを信じ、それを裏付ける論文を取り上げています。生理学的、生化学的事実に基づいていることが最も重要だと思っています。ただ単に論文の結果だけでは、相反する研究がいっぱい出てきます。自分の中で考えのストーリーがないと振り回されてしまいます。

まだまだ勉強不足ですが、自分を信じて記事を書いていきたいと思います。(企業に消されなければ良いですが…)みなさんも私の記事はもちろん、様々な情報を鵜呑みにせず、自分でよく考えて判断してください。

 

「Collaboration between academics and industry in clinical trials: cross sectional study of publications and survey of lead academic authors」

「臨床試験における学術機関と企業のコラボレーション:出版物の横断研究と筆頭著者の調査」(原文はここ

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