ナイアシンは安全か? その2

前回の記事「ナイアシンは安全か? その1」では、ナイアシンがインスリン感受性を低下させ、インスリン分泌を増加させることを書きました。ナイアシンのもう一つ良く言われている副作用が肝毒性です。ナイアシンをすでに飲んでいる人は「百も承知だ!」とご存じだと思います。

肝機能の指標となるASTやALTが上昇する場合があるのですが、「このことは肝臓の酵素機能が亢進して、一時的に酵素が血中に放出されたものに過ぎない」と説明している人もいます。つまり肝機能障害ではないというのです。しかし、その根拠は不明です。人間の研究でしょうか?動物の研究でしょうか?人間の研究なら、肝臓の酵素機能の亢進であって肝機能障害ではない、というのはどのような方法で確かめたのでしょうか?私はそれを確かめる方法を知りません。肝機能障害はないと断言していいものでしょうか?

もし、酵素機能の亢進だけだとしても、そのような場合もあるかもしれませんが、そうでない場合もあるようで、実際にはかなりの数の肝機能障害の報告があります。中には死亡例もあるので注意が必要でしょう。報告されているのは氷山の一角と考えられ、本当はかなりの肝機能障害が起きている可能性は否定できません。

ナイアシン誘発性肝毒性の発生率と機序は不明です。生検標本は、細胞壊死および門脈線維症を伴う胆汁鬱滞性の変化を示していたり、微小嚢胞性肝脂肪症を伴う致命的な急性肝不全の病理所見を示しているものもあります。つまり、実際に深刻な肝臓の細胞壊死などの傷害が起きている場合もあるのです。メカニズムとしてミトコンドリア障害があるのでは?と考えている人もいます。

下の表は報告されている症例を集めたものです。(論文はここ

年齢性別投与量(g / d)期間ALP(U / L)総ビリルビン(mg / dL)AST(U / L)ALT(U / L)PT / INR
35M9数日624.92,0722,64014.9 / –
41M4.55428.02,6603,30028.5 / –
46M310週間2396.614,1406,22090 / –
44M63日3849.826,1815,16264.6 / –
62M45日間700.82800700
50F2数週間2,3257.07227870
47M22ヶ月850.53160155
56M22ヶ月2706.02,0102,567
51M23週間2931.53,170
60F33日6550
54M27週間59
34M2.52日132
61F1.510ヶ月285208
55M23ヶ月1.0558617.2 / –
47M20.6655619.2 / –
44M35週間0.7735617.7 / –
67F2日2520.536310515.8 / –
37F41ヶ月5030.86358
58M2.55か月1361.7868616.6 / –
52F1.53ヶ月700.6209208
44M2.251511.157
62M2701.22634
61M24年1.4524416.6 / 1.8
20M3.752日4,0703,8324.95 / –
23M12,9034,0874.3 / –
17M8.429528432.3 / 4.8
22F201日1653.614,98512,594– /> 8.9
17F2.52日891.3352023.1 / 3.8
14M5.51日19334418.8 / 1.74

(表の一番右のPTはプロトロンビン時間で凝固機能を表しています)

投与量はまちまちですが全て1g以上です。発症までの期間もまちまちで数日から数カ月、年単位の人もいます。下の方の10代や20代の症例の1日とか2日での発症は、違法薬物の尿検査を逃れるためにナイアシンを使ったものなので、ちょっと別です。

凝固障害は、ASTやALT値の3倍を超える上昇およびビリルビン値の2倍を超える上昇と関連していることが多いそうですが、ビリルビンが上がらない症例(上の表にも含まれいる)も報告されています。その症例ではアルブミン値と中性脂肪値やコレステロール値が大きく低下していました。その症例の凝固障害は肝機能障害によるものというよりは凝固因子の合成能の低下が考えられます。凝固機能を表すプロトロンビン時間(PT)の1.5倍以上は凝固障害ありと見なされます。(表は原文より改変)

アルブミン総ビリルビンASTALT総コレステロール中性脂肪プロトロンビン時間(PT)
患者1ベースライン4.712228232101
ナイアシン2,000mg服用後3.50.755861533517.21.52倍(再チャレンジでは1.71倍)
患者2ベースライン4.70.51424239160
ナイアシン2,000mg服用後3.20.66556645219.21.70倍(再チャレンジでは1.05倍)
患者3ベースライン17184134
ナイアシン3,000mg服用後3.80.773561153617.71.57倍

上の表で、患者1では1回目のナイアシンでPTが1.5倍以上になり、再チャレンジでは1.7倍になっています。患者2では再チャレンジではPTは変化しませんでした。どの症例もビリルビンが変化せず、AST、ALTの上昇幅はそれほどでもないのに、アルブミンが大きく低下してしまっています。そして、コレステロールや中性脂肪の低下の仕方は非常に極端です。正常な代謝が起きているとは思えません。肝臓における様々な物質の合成能が大きく低下している可能性があります。

凝固障害は消化管潰瘍などの出血性の疾患にとっては非常に問題になる場合があります。抗血小板薬や抗凝固薬をすでに使っている人では、さらに出血リスクを高くする可能性もあります。

ナイアシンのこのような肝臓に対する肝毒性と、脂質代謝に与える効果、そして「その1」で書いたインスリン抵抗性の増加、などを総合的に考えれば、ナイアシンは肝臓に対する大きな作用があり、その一部の効果はコレステロールや中性脂肪を低下させますが、その他の効果では肝臓のインスリン抵抗性を招き、何らかのシグナルが出て筋肉のインスリン抵抗性も起きるのではないでしょうか?そして一部の人にはナイアシンの肝毒性が起きるほどに強く肝臓に効果を与えるのです。そして、ナイアシンの肝毒性が検査値にどのような変化を与えるかは非常に多彩です。通常の肝機能(ASTやALT)の上昇が少ないからと言っても安心できませんし、そのまま経過をみて進行してしまっては非常に危険です。少しでも異常値が出たら中止の方が良いと思います。

いずれにしても、定期的に肝機能の検査、凝固能の検査等ができないのであれば、ナイアシンは慎重に少量で使用すべきです。少しでも異常があれば検査等が必要です。2~3gを飲み始めて数週間という期間で肝臓に大きな問題を起こす場合もあるのですから。

他にもドライアイ、目のかすみ、まぶたの浮腫、及び黄斑浮腫、上強膜炎、眼球突出、まつ毛の脱毛などの眼症状を認めることがあり、ナイアシンが中止されなければ、嚢胞状黄斑浮腫という状態に進行することがあるそうです。メカニズムははっきりしていませんが、ナイアシンの血流増加も一つの要因でしょう。

ナイアシンフラッシュにしても多くの方には有害性はないかもしれませんが、自己調節のメカニズムを超えた血流増加作用は、上記の眼症状ような思わぬ副作用を示すこともあります。

もちろんこのようなことが起きる割合は少ないでしょうが、ナイアシンはこのような安全性に問題がある場合があることを知って、その上で必要と思うのであれば使ってください。リスクアンドベネフィットは薬だけの話ではありません。サプリにも当てはまります。

「Niacin-induced clotting factor synthesis deficiency with coagulopathy」

「凝固障害を伴うナイアシン誘発性凝固因子合成不全」(原文はここ

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コメント

  1. よっしー より:

    清水先生、非常に参考になりました。また前回は私のブログを取り上げてくださってありがとうございます。

    私は糖尿病網膜症で黄斑浮腫もあるのですが、今でもたまに軽くぶり返したり治ったりを繰り返しております。

    ナイアシン1500mg服用していた時期に一致して持続性タンパク尿(+1)が出て、やめたら止まったので黄斑浮腫もあり得るなと感じました。

    ナイアシンを飲んだからといって全ての方にこういうことが起こるわけではありませんが、一部良くないことが起きる人がいることを認めて注意喚起することは大事だと思いました。

    • Dr.Shimizu より:

      よっしーさん、コメントありがとうございます。

      多くの方が「良い」と言っているものに対して、「良くないことがある」というのは、もしかしたら勇気が必要かもしれません。
      しかし、人それぞれ違うので、体の反応もそれぞれです。「良くないこと」の共有も非常に重要だと思います。
      その意味でよっしーさんの、ナイアシンの記事は非常に重要な意味を持つと思い、私も勝手に記事にさせていただきました。
      こちらこそありがとうございます。
      もちろん、ナイアシンをはじめ様々なサプリを推奨する医師の多くはそのリスクや有害性を説明しているのだとは思います。
      しかし、一部の医師は「ビタミンだから問題ない」「有害性はない」としか言っていない方もいるのではないでしょうか?
      それでは副作用をちゃんと説明しない「スタチン医者」「リリカ医者」と何ら変わりないと思います。

      さらに、良いところだけ切り取られて口コミで広がるのも、リスクを知らず摂取してしまう人が増加して危険ではないかとも思っています。

      また、治療としてサプリを飲んでいるのか、健康維持のために飲んでいるのかという点も重要です。
      健康のためであれば、リスクはできる限り少なくしないと、何のためなのかわかりません。

      今後も良い記事楽しみにしております。

  2. まこ より:

    ナイアシン100mgを4日ほど飲んだところ、腹部の気持ち悪さと吐き気が起きました。そのあと、肌が赤くなり、1時間ほどビリビリしました。その間も吐き気はありました。

    次の日から飲むのを中止。

    そういえば、その症状になる前に、いつもよりも睫毛が抜ける頻度が高いと感じていました。

    まさか、副作用だったとは。ナイアシンは通常の食事をとっていれば、不足することはないようなので、今後もサプリでとるのはやめようと考えています。

    念のため、血液検査を受けるべきか迷っています(32歳、女性、長身、痩せ型)

    • Dr.Shimizu より:

      まこさん、コメントありがとうございます。

      4日程度飲んで中止して、現在何も問題ないのであれば、恐らくは検査の必要はないと思います。
      健康のためなら食事で十分だと思います。

  3. 情報提供 より:

    ネットに
    『(案) 対象外物質※ 評価書 ナイアシン 2013年1月 食品安全委員会肥料・飼料等専門調査会』
    がネットに公開されています。
    p.31からナイアシンです。動物による安全性試験、人における副作用のまとめが記載されています。

    資料 3 – 食品安全委員会
    http://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20130128sfc&fileId=310
    2013/01/28 – イノシトール、コバラミン、チアミン、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、 … (案). 対象外物質※ 評価書. イノシトール. 2013年1月. 食品安全委員会肥料・飼料等専門調査会. ※ 食品衛生法(昭和22年法律第233号)第11条第3項の規定に …

    • Dr.Shimizu より:

      情報提供さん、コメント、情報提供ありがとうございます。

      他のビタミン類に比べて、ナイアシンだけ大量摂取の有害性の記述が非常に多いですね。
      まあ、通常の糖質制限をしていて、ナイアシンが不足するなんて考えられませんからね。

  4. 大阪の耳鼻科医 より:

    ひとことお礼を申し上げたく、コメントさせていただきます
    毎年受けている健康診断で始めて肝機能障害を指摘されました
    原因がはっきりせず、毎晩の晩酌を止めんといかんのか、としょげておりました
    この記事を読みナイアシン(1000mg)を中止したところ見事に改善いたしました
    はずかしながら「ナイアシンの唯一の副作用は長寿である」という広島の先生の話をうのみにしておりました
    これで心置きなく毎晩の晩酌が楽しめます
    (もちろん8/1の記事も肝に銘じておきます)
    本当にありがとうございました

    • Dr.Shimizu より:

      大阪の耳鼻科医さん、コメントありがとうございました。

      「ナイアシンの唯一の副作用は長寿である」とは名言ですね。しかし、ドクターでもそれを鵜呑みにしてしまうのですから、
      一般の方ならなおさらでしょう。恐らくはものすごい数の肝機能障害が起きているのでしょうね?
      「肝臓の酵素機能が亢進して、一時的に酵素が血中に放出されたものに過ぎない」ということを鵜呑みにしている人も多いでしょう。ちょっと恐ろしいです。
      改善されて良かったです。