ナイアシンは安全か? その1

先日の記事「フェリチンとアルコール」でも書きましたが、有害性がわかった上でそれを敢えて摂取することは何の問題もないと思います。それがたとえ糖質であっても、それは本人の自由です。そして本人の課題です。私が目の前まで行って、「糖質を摂るんじゃない!」と説き伏せるわけにもいきません。

しかし、問題は有害性を知らされていない場合や、知識を持っていないにもかかわらず誰かの勧めにより良いものと思い込んで摂取することです。

それは薬にも当てはまりますし、サプリや食事などにも当てはまります。ある薬に対して、患者さんが副作用を心配して医師に尋ねたときに、「何も問題になる副作用はない」とか「依存性はない」とか「一生飲んでも大丈夫」などと無責任なことを言われることがあります。もちろんそれを鵜呑みにする本人が悪いのですが、専門の医師に言われれば信用してしまうこともあるでしょう。

がんの患者さんに「元気が出るように」と何でも食べられるものを食べるようにアドバイスする医師や栄養士もいるでしょう。糖質制限をしている人から見れば、「がんにエサをやっている」と思うものでも通常の病院ではOKなのです。お見舞いの人も口当たりの良い糖質いっぱいのゼリーなどを差し入れしたりします。

サプリも体に良いと思われているものが多く、特にビタミン系は必須のものだということで、大量に摂っても大丈夫であり有益でしかないと思われている場合もあります。ビタミンは薬ではないからいくら飲んでも問題は起きないという人もいます。

しかし、実際には大丈夫なものもあれば大丈夫ではないものもある、大丈夫な人もいれば大丈夫ではない人もいる、というのが正しいのではないかと思います。また、栄養素などは単体で働くわけではないので、組み合わせが問題になることもあるでしょう。

例えば以前の記事「糖尿病性腎症はビタミンB群のサプリで悪化するかもしれない」「ビタミンCとビタミンEのサプリメントは運動による効果を弱めてしまう」などを参照してください。

また、ベータカロチンとレチノールの摂取でヘビースモーカーの肺がんが増加するという有名な話もあります。

ビタミンCと鉄の関係も非常に興味深いものがあります。

先日、糖質制限の情報が非常に豊富な「もう失敗しない!正しい糖質制限ダイエット」というブログでナイアシンについて取り上げられていました。非常に興味深く拝見させていただきました。(それにしてもすごい情報量です!)そこではナイアシンの大量摂取で血糖値が上昇したことが書かれていました。

ナイアシンについては様々な健康に有益な効果をもたらすと考えられ、サプリとしても人気でしょう。しかし、確かに添付文書上では副作用として耐糖能低下が書かれており、耐糖能異常の人には慎重投与となっています。

これまではあまりナイアシンについて興味がなかったのですが、糖質制限を勧めている以上、血糖値が上がる仕組みを知りたくなりました。と言っても実際には完全に解明されてはいないと思います。

その記事の中では「ナイアシンは脂質代謝を亢進させてコレステロールを下げる効果があるので、グリセロールを原料に糖新生が亢進する可能性があるのと、人によっては糖新生自体を亢進させる」とどなたかにアドバイスされたことが書かれています。

前半の部分は糖新生の原料が増加すると糖新生が亢進するのであれば、糖質制限をしている人は脂質代謝が亢進しているので、多くの人が高血糖になってしまう可能性があります。しかし、糖新生はコストがかかる反応なので、必要に応じて必要なだけ行われると思うので、ちょっと違うのでは?と思います。しかし、後半の糖新生自体を亢進させるというのは、人間の正常な代謝を越えて糖新生を起こす何かメカニズムがあるということだと思うので、これはもしかしたら「あり」なのかもしれません。

マウスではすい臓のβ細胞に存在するナイアシン受容体を介した反応により高血糖が起きるとされています。人間ではわかりません。(論文はここ

人間での今回の研究では、ニコチン酸を1日2000mgの場合とプラセボとの比較があります。対象は若い正常耐糖能、高齢の正常耐糖能、高齢の耐糖能障害のグループです。

2週間の投与で次のようになりました。(図は原文より、表は原文より改変)

若い正常耐糖能高齢正常耐糖能高齢耐糖能異常
プラセボ ニコチン酸 プラセボ ニコチン酸 プラセボ ニコチン酸 
空腹時血糖(mg/dL) 92 959410195112
空腹時インスリン(µU/mL) 9.9  18.97.816.78.9 18.3 
Kg (min−1) (静脈内グルコース耐性の尺度)2.3  1.9  1.9 1.4  1.50.9
インスリン感受性 (10−5·min−1/pM) 2.9 2.0 2.71.3 2.91.2
静脈内グルコースに対する急性インスリン反応 (pM) 563  680395532187167
DI (AIRg× SI) (β細胞の機能の評価)1269 1063990558526241

空腹時血糖はどのグループもやや増加傾向にあり、耐糖能異常がある高齢者ではかなりの増加を示しています。空腹時インスリンはどのグループも2倍に増加しています。空腹時インスリンで18以上というのは結構な数値です。単純に若い正常耐糖能の数値で計算するとHOMA-IRは4.43です。インスリン抵抗性ありありです。

上の図は左が若い正常耐糖能、真ん中が高齢正常耐糖能、右が高齢耐糖能異常のグループです。上の3つはインスリン感受性、次の3つが静脈内グルコースに対する急性インスリン反応、下の3つがβ細胞の機能の間接的評価です。そうすると、インスリン感受性は一部の人で増加していますが、多くの人は低下しています。それは若い正常な耐糖能を持っている人にも当てはまります。静脈内グルコースに対する急性のインスリン反応は正常耐糖能の2つのグループでは増加し、耐糖能異常のグループでは変化していません。β細胞の機能の評価としては多くの人で低下しています。

若い正常耐糖能 高齢正常耐糖能高齢耐糖能異常
プラセボ ニコチン酸 プラセボ ニコチン酸 プラセボ ニコチン酸 
コレステロール(mg/dL) 143 124 158 135 185 135 
中性脂肪(mg/dL) 1068089 71 159 97 
ノルエピネフリン(pg/ml) 185 219 300325307 342 
エピネフリン(pg/ml) 515947535551

上の表は脂質やカテコラミンの反応です。ニコチン酸によりどのグループも確かにコレステロール値や中性脂肪値は低下しています。カテコラミンはエピネフリンは変化していませんが、ノルエピネフリンは増加しています。ノルエピネフリンはいわゆるインスリン拮抗ホルモンで、糖新生を起こします。確かに糖新生を亢進させるメカニズムが存在しそうです。糖尿病の人では暁現象が起きやすくなる可能性があるでしょう。

いずれにしても、ナイアシン(ニコチン酸)によりインスリン感受性は低下、つまりインスリン抵抗性が高まり、それに対して耐糖能が正常である人はインスリン量を増加させて対応しているようです。しかし、インスリン分泌能が低下していれば、そのような反応が十分ではなく、血糖値の上昇が起きるようです。

血糖値が見た目に変化がなくても、最も気になることはインスリン分泌が大きく増加していることです。高インスリン血症は非常に有害だと考えられます。ただし上の図のグラフを見てもわかるように、人によってはインスリン感受性が増加している人もいます。何が違うかは不明です。多くの人は感受性が低下していると思われますが。

つまり、糖質制限をする人にとって(糖質制限をしていない人にも)大量のナイアシンを使用することは良くない可能性が高いことになります。特にすでに糖尿病を発症している人、食後高血糖を示す人などには恐らく有害です。β細胞にとって良くないと思われます。ただし、いつも言っていますが、この研究は糖質過剰摂取をしている人で行われています。糖質制限との組み合わせでは不明です。

また、メタアナリシスの結果はナイアシンの耐糖能に対する有害性を支持しています。(図はこの論文より)

この研究は11件の試験のメタアナリシスです。ナイアシンを飲んだか飲まないかでの新規の糖尿病発症を比較したものです。その結果は新規糖尿病発症のリスクは1.34倍でした。ナイアシンで5年間治療を受けた非糖尿病患者43人当たり1人が糖尿病になる計算です。多いような少ないような。

スタチンなど糖尿病を発症する薬を飲んでいる場合もあるでしょう。このメタアナリシスに含まれる試験では、参加者がスタチン、またはラロピプラントとの併用療法を受けていたものもあるのですが、それらの併用とは無関係に、結果は一致していました。つまりナイアシンだけで新規の糖尿病発症は増加していたことになります。

どこまでの量であれば安全で、どれくらいが危険かはよくわかりませんが、少なくともこの研究では1日2000mgです。他の研究では1000mgでもインスリンやCペプチドが大きく増加していた研究もあります。使うのなら少なめにしましょう。

ナイアシンで血糖値の変化が起きていないからと言って、耐糖能に関して何も起きていないわけではないかもしれません。インスリンが増加して見た目の血糖値を維持しているだけかもしれません。いつの間にか高インスリン血症になっているかもしれません。ナイアシンを飲むのであれば、インスリン抵抗性の測定は必須でしょう。ナイアシンを飲んだ前後のインスリン抵抗性を測定してみましょう。変化がない人は安全に飲めるかもしれません。

血糖値を上げたり、インスリン分泌を増加させるとしたら、糖質制限的にはNGです。

しかし、ナイアシンの安全性への疑問は他にもあります。それは次回以降で。

「Impaired β-Cell Function in Human Aging: Response to Nicotinic Acid-Induced Insulin Resistance」

「人間の加齢におけるβ細胞機能障害:ニコチン酸誘発インスリン抵抗性に対する反応」(原文はここ

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    いつも有用な情報を発信頂きありがたく読ませていただいております。

    さて、私はLDLコレステロールが下がる事があるという事でナイアシン2000mgを摂取した事がありますが、耐糖能の悪化、ALT上昇などを経験しました。

    リブレを装着して、血糖値、食事内容を毎日記録してグラフにして管理していますが、私の場合、通常の食事では糖質1g当たり、およそ1.5〜2.0mgの上昇ですがナイアシン2000mgを2週間ほど摂取すると3.8mgまで上昇するようになりました。これほど悪化したのは後にも先にもこの時だけです。
    また、血液検査ではALTは21→115まで上昇(他の肝機能は正常)、さらにいわゆるフラッシュで紅潮する状態を通り越し、アレルギーによる薬疹のような状態になり、服用中止後も数週間赤みとかゆみが残りました。
    これらのことより、サプリメントは栄養だが、大量摂取時は別の機序が働くものと理解しました。

    • Dr.Shimizu より:

      西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      ナイアシンの摂取の副作用の情報ありがとうございます。このような具体的な数値は非常に有益です。
      私自身はLDLコレステロールを下げることが良いとは思っていないので、LDLコレステロールを下げる目的でナイアシンという選択はありません。

      進化の過程で、人類の食事の中である栄養素単体で大量に摂取することはあり得ませんでした。
      仰る通り、大量摂取時には別の機序があるかもしれません。ビタミンでさえ、大量摂取が有害性がないとは言えません。
      というより実際には有害であるという実例があります。

  2. 西村 典彦 より:

    コレステロールに関して追加情報です。
    週平均21個程度を1年ほど食べるとLDL-Cが152→198まで上がり、糖質制限で一旦60まで下がった中性脂肪も再び80オーバーとなり、本当の悪玉とされる小型高密度 LDL-Cを含まないとされる中性脂肪80未満と言う条件を満たさなくなった事、医師からスタチンを処方すると言われたが拒否した事から、LDL-Cを下げるべく、卵の摂取を極力減らし(週3個程度)、タンパク源を豚肉500g/週に変えたところ、2ヶ月でLDL-Cは155まで下がり、さらに2か月後の現在は137になっております。なお、卵の調理(主にスクランブルエッグ)に使用していたバター20g(週100g)も削減されています。
    食物由来のコレステロールは血中濃度には反映しないというのが、現在の医学、栄養学の主流だと思いますが、糖質制限開始後、1年程度では下がり始める気配はありませんでした。私の場合は、数値が落ち着くにはもっと長期間を要したのかもしれません。ナイアシン摂取は短期間だったのでコレステロールへの影響は確認できませんでした。

    • Dr.Shimizu より:

      西村 典彦さん、さらなる情報ありがとうございます。

      今日の記事にある通り、一部の人ではコレステロールの摂取量が、血中のLDLコレステロールに反映されると思われますが、これも個人差があります。
      ただ、卵だけのせいではなく、糖質制限そのものでもLDLコレステロールが上がる人は少なくないと思います。
      ただ、中性脂肪も上がったとなると、ほかの機序があるのかもしれませんね。

  3. カーコ より:

    こんにちは。
    「糖質過剰」症候群、拝読いたしました。
    初心者向けに噛み砕いて優しく書いてある本が多く物足りなさを感じていましたが、医学的にとても詳しく勉強になりました。
    私が求めていた本です。

    ところで、このナイアシンの記事は興味深いです。
    血糖値やインスリン分泌に影響を与えるとは想像していませんでした。
    ちょうど今夫がリブレをつけていまして、ナイアシンを200mg飲んだところ少し血糖値が上がりました。

    私は1日3回500mgずつ飲んでいました。(昨日から止めました)
    月曜日と金曜日は朝昼の食事は抜いていてバターコーヒーなどで過ごしますが、サプリはいつも通りに飲みます。
    ところが、朝10時半くらいと午後3時半くらいに眠くなるのです。
    油は血糖値を上げないと思っているので不思議だったのです。
    考えるとナイアシンを飲んでから2時間半後のようですね。
    この記事を読んで昨日の昼から飲むのを止めたところ、夕方の眠気はありませんでした。
    夫の後に私もリブレをつけてみるので、その時ナイアシンを飲んで確かめてみようと思います。

    血糖値を上げないように糖質制限をしているのにサプリで上がってしまうなら本末転倒ですね。
    ずっと謎に思っていたことの答が出たように思います。

    • Dr.Shimizu より:

      カーコさん、コメントありがとうございます。

      拙著をお読みいただきありがとうございます。

      非常に興味深い情報をありがとうございます。ナイアシンの眠気のメカニズムはL-トリプトファンからメラトニン合成が促されるという仮説もありますが、
      はっきりしたことは分かっていません。確かに血糖値との関連もあるのかもしれませんね。
      リブレの結果をよろしければ教えていただけるとうれしいです。

      • カーコ より:

        リブレでの人体実験の結果をお知らせします。
        夫は200mgのナイアシンを飲んで98から約1時間半後116まで上がりました。
        ですから私も上がるんだろうと思っていましたが、
        私は飲む前89から1時間後68まで下がりました。(500mg飲みました)
        1時間くらいから眠気もひどかったです。
        飲んで2時間で80くらいに戻った感じですが、その後食事をするまで低めで推移していました。

        人により反応が違うのがわかりましたが、少なくとも代謝を乱しているのは間違いないですね。
        何も食べていなくても血糖値が上がったり下がったりするのですから。

        • Dr.Shimizu より:

          カーコさん、貴重な人体実験の結果の情報ありがとうございます。

          インスリンの感受性の違いがあるので、恐らくそれによって上がるか下がるかの違いが出たのでしょう。
          インスリン抵抗性はまだ正常の状態で、インスリン分泌だけが促されて増加し、血糖値が低下してしまったのでしょう。
          眠気の理由ははっきりしませんが、トリプトファンからメラトニン合成が促されるという仮説があります。
          しかし、睡眠の専門家によると、セロトニンからメラトニンの合成をする酵素は普段でもめいいっぱい働いているので、そんなに簡単にメラトニンは増えない、というのを読んがことがあります。
          それをも上回って、メラトニンが合成されるのであれば、それもまた問題です。
          ずっとナイアシンでメラトニンが増加する状況で過ごしていると、体がそれに慣れて、今度はナイアシンがないとメラトニンの合成が保てなくなる可能性があります。
          ナイアシンを止めたとたんメラトニンの合成量が減って、不眠となり、ナイアシンがないと眠れないという状況が生まれます。
          ナイアシン依存の出来上がり。
          それにしても、覚醒度が低下するなら、飲んだ後の運転も禁ですね。