フェリチンとアルコール

少し前の夏井先生のホームページで次のような記事がありました。(記事はここ

「エタノールは少量でも体に悪いのは当たり前です。エタノールの分解に肝臓が総動員体制になるのが何よりの証拠です。つまり,果糖と同じくらい体に悪い物質です。
 でもね,糖質セイゲニストの先導役としては,カラダに悪いことをしておかないとマズイんですよ。私が死んだら,「死んだのは糖質制限したせい」と言われますから。これは江部先生も同じです。
 だから,私も江部先生も,頑張ってお酒を飲んでいるんです。死んだ時に「死因は糖質制限でなくてお酒だったのか」って言われるために。」

糖質制限をしていて、常に「果糖=猛毒」と吊るし上げているのに、体の中に入ったら果糖と同じであるアルコールについては非常に緩い対応になっているのは、確かにおかしいでしょう。私も「少量は良いけど、控えめに」というような表現をしています。人間って都合が良いですね。お酒は楽しいし、気持ち良いし、ストレス発散にもなると思うので、それで多少体に害があっても良い、と思いながら私も摂取しています。(アルコールは少量でも体に良くないとする、ランセットの論文はここ

だから、逆に言えば、果糖だけでなく糖質をどれだけ摂るかは自由なのです。本人がその有害性を自覚して、それでもなお、摂りたいなら摂れば良いのです。自分の体ですから。糖質以外でもその有害性をちゃんと知っているうえで、それを摂取するかどうかはその人の自由です。

しかし、問題なのは「糖質はエネルギーだから、摂取すべきである!」という間違った推奨により有害性を自覚せずに糖質を摂ることにあります。国ですら60%もの糖質を摂れ、と言っているのですから、これは大きな問題です。人間の中で一度「良い」と思い込んだものを「悪い」に上書きするのは非常に大変です。変化を嫌う人もいますし。

夏井先生も江部先生も糖質制限で死んだと言われないように「がんばって?」お酒を飲んでいるということですが、私はそこまでお酒が強くなくあまり飲めないので、私が死んだときはお酒のせいにはできません。良い理由が見つからないので、私が死んだときは、「走り過ぎで死んだ」、としてください。

今回の本題は、そのアルコールとフェリチンの関係です。フェリチン値が高いのはアルコール摂取量と関連しているのではないかと考えています。今回の研究はオーストラリアのものですが、オーストラリアの男性の一人当たりのアルコール年間消費量は17.3リットルだそうです。(2010年のWHOのデータより)ちなみに女性は7.2リットルでした。

日本人の男性は10.4リットル、女性は4.2リットルですから、オーストラリアの人はかなりの飲酒量だと想像できます。

ただこれはアルコールの総消費量を単純に15歳以上の人口で割った値なので、お酒を飲む人と飲まない人がいるので、実際の一人の消費量とは掛け離れた数字ではあります。

肝機能とフェリチンの関連を見ると次のようになります。(図は原文より、一部データより作成)

γGT(γGTP)は50以下を基準値とする施設もありますし、男女別で男性80以下、女性30以下など多少の基準値のばらつきがあります。γ-GTはアルコールに敏感に反応し、肝障害を起こしていなくても、普段からよくアルコールを飲む人では数値が上昇します。γGTはアルコール摂取のマーカーとも言われていました。(現在は糖質、特に果糖による非アルコール性脂肪肝でも上昇しますので、アルコールまたは果糖のマーカーと考えた方が良いかもしれません。)上の図は男女合わせたものなので、男女差がわかりませんが、γGTが50未満であればフェリチンが250を超えることは非常に少なく、多くの人が100以下の数値となります。γGTが50以上となると、グラフは大きく右にずれ、約半分の人のフェリチンは250を超えます。

AST(GOT)の基準値は40以下ですが、40未満ではフェリチン値が250以下が圧倒的に多く、約半分の人は100以下です。しかし、肝障害でASTが40以上となるとこれまた大きく右にずれ、フェリチン100以下の人は10%もいるかどうかとなります。多くは100を超え、250を超えるのは4割以上となります。

上の図はγGTが正常(ここでは恐らく50未満)の男性における、毎日のアルコール摂取量とフェリチンの関係を表しています。アルコールの適量は1日20g程度までとされているので、その20gを超えた、20~50gのアルコール摂取した人と、全く飲まない人を比較すると、およそフェリチン値は2倍弱になっています。アルコール10gのグラフも合わせて考えると、恐らくはアルコール摂取量に比例して直線状にフェリチン値は上昇すると考えられます。そうすると、アルコール摂取者ではフェリチン値は非常に鋭敏なアルコール摂取量のマーカーとも考えられます。

しかも、これは肝機能障害とされない範囲で起きていることです。アルコールが鉄の吸収を促進していると考えられるかもしれませんが、これは禁酒によりフェリチン値が変化するかどうかを見ないとわかりません。私はアルコールが鉄の吸収を促進するのではないと思っています。最初に夏井先生の記事について書いたように、アルコールは少量でも肝臓にとっては負担になり、害になります。ただ、検査値としてγGTやASTが上昇する前の段階の非常に微細な肝細胞の傷害でフェリチン値が上昇するのではないかと思います。肝細胞は最も鉄を蓄えている組織です。少しの細胞死がフェリチン値に大きく影響してくることは想像に難くありません。

男性の場合フェリチン値の変動に大きく貢献する因子は、年齢、献血の回数以外に、毎日のアルコールの摂取量、1週間の飲酒の頻度、γGT値であるとしています。1週間の肉の摂取回数は関連していません。

女性では、年齢と献血回数以外には、毎日のアルコールの摂取量、γGT値、AST値、1週間の肉の摂取回数でした。

つまり、フェリチン値を評価する場合、肝機能の状態(基準値の範囲にあっても高めなのか低めなのか)、アルコール摂取量や頻度を考慮しなければ、評価を誤ってしまう可能性があります。

アルコールは控えめにしましょう。

「Factors affecting the concentrations of ferritin in serum in a healthy Australian population」

「健康なオーストラリア人集団における血清フェリチン値に影響する因子」(原文はここ