先日コメントをいただきました。
高血糖は高TGを招きますが、摂取したばかりの糖質がTGスパイクの要因になるのでしょうか?
TCに関しては、カイロミクロン中のコレステロールが多少存在しますが、食後に上昇しないという認識でよいのでしょうか?脂質を極端にとりすぎれば、上昇するのでしょうか?
高血糖が高TGを招くことが詳しく書いてある書籍はありますか?
まずは2つ目の質問から、総コレステロールは食後に上昇しないか?脂質を極端に摂り過ぎれば上昇するか?についてです。
極端というのをどこまでの量と考えるのか難しいですが、一般的にはコレステロールは総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールはすべて食後でも大きく変動しません。ただし、LDLコレステロールを計算式(Friedewald式:LDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール−中性脂肪/5)で測定している場合は変化します。計算式では中性脂肪値が大きく影響するからです。(図はここより)
では次に極端な脂質摂取量を摂ったときどうなるか?まずは私自身の人体実験を見てみましょう。以前の記事「大量のコレステロールを摂るとどうなるか? その1」で私は卵を一気に10個食べて、その後の血中の脂質がどうなるかを調べました。卵10個はタンパク質77.4g、脂質60g、糖質1.8g、コレステロール2520mgです。一度に60gの脂質は極端とまではいかないかもしれません。しかし、コレステロール量は極端ですね。
結果は、コレステロール系は全てほとんど変化がありませんでした。中性脂肪は33から105と72しか変化していませんし、ピークは1時間後で。脂質は吸収が遅いとよく言われますが、1時間後にすでに中性脂肪が最も高くなっていることを考えると、それほど吸収が遅いとも言えません。また、血液を肉眼で見ても私の目には「乳び」という白く濁った状態は認めませんでした。しかし、出た結果では1時間後だけが「乳び(1+)」でした。乳びはカイロミクロンの増加ですから、少なくともカイロミクロンは2時間後までには大きく増加し続けてはいない、というよりすでに減少しているのでしょう。。
つまり、60g程度の極端な脂質摂取では、コレステロールが2520mgであっても、総コレステロールもLDLコレステロールも少なくとも4時間後までは変化しません。一方中性脂肪値も極端な増加は示さず、TGスパイクも起きていません。食事による食後のコレステロールの変化はほとんど起きないと考えて良さそうです。
通常のリポタンパク質のライフサイクルは非常に短く、VLDLは30~60分程度でIDLとなり、IDLも30分程度でLDLとなり、LDLは2~4日間体をめぐっていると言われています。カイロミクロンも60分で半分になってしまうので、非常に短い間に消失します。
しかし、最初の図を見てわかるように、通常の食事での中性脂肪のピークは4時間後くらいで、ベースラインに戻るのも8時間くらいかかるのです。糖質制限をしていて、糖質を一緒に食べないと、中性脂肪のピークはもっと早く、ベースラインに戻るのも早いのかもしれません。糖質が中性脂肪値に影響を与えることは十分に考えられますね。以前の記事「ApoCⅢ産生速度の増加が中性脂肪値を高くしているかもしれない」「ApoCⅢの調節と役割」で書いたように、糖質摂取→ChREBP活性化→ApoCⅢ増加となります。ApoCⅢはカイロミクロン、VLDLやLDLにくっつくことにより、LPL活性が下がるので、レムナントを作る原因となって、中性脂肪値を増加させます。またHDLにくっつくと引き抜き能が低下し、機能不全のHDLになってしまいます。
代謝が上手く機能していないと、12時間の絶食でもレムナントが大量に残存しています。以前の記事「レムナントリポタンパク質は食後12時間経っても大量に残っている」で書いたように、高中性脂肪と低HDLコレステロールの場合では、正常と比べてカイロミクロンのレムナントコレステロールは約11倍、VLDLのレムナントコレステロールは約9倍、カイロミクロンのレムナント中性脂肪は約6倍、VLDLのレムナント中性脂肪は約13倍にもなります。高中性脂肪、低HDLと言えばインスリン抵抗性ですね。また、通常の食事と比較して低脂肪高糖質の食事にするとそれだけでも空腹時レムナントは増加します。(「低脂質高糖質の食事は空腹時でもレムナントリポタンパク質を激増させる」参照)
では、高血糖は高中性脂肪を招くのか?これはちょっと難しいですね。高血糖を起こすテストと言えば、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)ですね。OGTTのときに中性脂肪値が変化するかどうかを見た研究がありますが、まずは学会発表から。(ここ参照)
この研究は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の診断で、OGTTにおける中性脂肪値(TG)がNAFLDの予測に有効かを調べたものです。そうしたところTG変化量(負荷後2時間値-空腹時値、⊿TGOGTT)は、NAFLDの独立した強力な予測因子であることがわかったそうです。非アルコール性脂肪性肝疾患と言えばインスリン抵抗性、糖質過剰症候群の代表的な疾患です。
この研究は論文化され、TG変化量ではなく、負荷後2時間と空腹時の中性脂肪値の比率を見ています。(図は原文より)
上の図の右側が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のあるグループ、真ん中がNAFLDの無いグループです。NAFLDなしグループは空腹時血糖が5.18(日本の単位で約93mg/dL)、OGTTの2時間値は約120mg/dLです。一方NAFLDありグループは空腹時血糖が5.45(日本の単位で約98mg/dL)、OGTTの2時間値は約138mg/dLです。
中性脂肪(TG)を見てみましょう。NAFLDなしグループは空腹時TGが104.8mg/dL、OGTTの2時間TGは92.1です。その比(Fold-change TGOGTT)は0.86です。つまり血糖値が上がっているのにTGは減少しています。一方NAFLDありグループは空腹時TGが132.9mg/dL、OGTTの2時間TGは132.4です。その比(Fold-change TGOGTT)は1.00です。つまり変化がほとんどないということです。この2つのグループの大きな違いはNAFLDありグループはブドウ糖負荷で高インスリン血症となっており、インスリン抵抗性HOMA-IRも2.6です。
通常、代謝が問題なければインスリンはLPL活性を促進するので中性脂肪値は減少すると思われますが、インスリン抵抗性が高いとLPL活性は活性化しないのでしょう。
この研究で、OGTT中にTGが増加した人は、TGが減少した人と比較して、非アルコール性脂肪性肝疾患の可能性は3.5倍でした。つまり、結論を言えば単純に糖質(ブドウ糖)のみの負荷で血糖値が上昇しても中性脂肪値はスパイクを起こさず、代謝が問題なければ逆に減少するということです。ただし2時間値なので、その後のことはわかりません。
ただ通常では糖質だけ摂る食事はまずしません。では、通常に近い食事で血糖値と中性脂肪値はどうなんでしょう。
以前の記事「摂取エネルギーの25%の果糖は中性脂肪を増加させる」で取り上げた研究を見てみましょう。20代後半のBMIが25前後の人を対象として、1日のエネルギー量の炭水化物の割合55%のうち、25%をブドウ糖、果糖、高果糖コーンシロップ (HFCS)に置き換えた場合を比較しています。(図はここより)
上の図は血糖値の変動です。食事のたびにブドウ糖群で最も大きな血糖値スパイクが起きています。しかし、果糖群では小さなスパイクしか起きていません。HFCS群はその中間です。
上の図は中性脂肪値の変動です。血糖値と並行して増加するわけではなく、朝食後に徐々に増加し、昼食後にそれを維持するような感じで、夕食後しばらくたってまた一つ山ができているようです。しかも、血糖値変動の一番小さな果糖群が最も中性脂肪値の増加が大きくなりました。つまり、血糖値が中性脂肪のスパイクを作り出しているのではないようです。
以前の記事「果糖は摂れば摂るほど中性脂肪、尿酸値などを大きく増加させる」で書いたように、1日のエネルギー量の高果糖コーンシロップ(HFCS)の割合を多くするほど、つまり果糖の割合が大きいほどApoCⅢは増加しているようです。やはり果糖は現代において猛毒で、有害な糖質と考えられます。
糖質制限をしていれば、恐らくいくら脂質を摂っても大きなTGスパイクは起きないのではないかと思います。
最後の質問、高血糖が高TGを招くことが詳しく書いてある書籍はありますか?について、上記のように高血糖が高TGを招くわけではありません。高血糖をもたらす食事、つまり糖質過剰摂取でTGスパイクは起きますが、果糖が多い方がスパイクはより大きいでしょう。そして、この記事よりも詳しい書籍や記事などがあったら私の方が知りたいくらいです。もし詳しい書籍や記事などを知っている方がいれば教えてください。そもそも多く医師や栄養士は脂質の摂り過ぎで中性脂肪が増加するとしか思っていないので、書籍はほとんど存在しないのではないでしょうか?
「An extended fatty liver index to predict non-alcoholic fatty liver disease」
「非アルコール性脂肪肝疾患を予測する拡張脂肪肝指数」(原文はここ)
糖質過剰摂取が様々な機能低下、代謝異常をもたらし、TGスパイクの誘因にもなるのですね。
清水先生
面識もない一読者にご丁寧にご回答くださり、感謝申し上げます。
高血糖が高TGを招くわけではない。前提が間違っていました。
ブドウ糖のみの摂取では、インスリンがTGを下げる可能性があることが、意外でした。大変勉強位なりました。一般的にほとんど知られていないことかと想像します。私はそれを自ら実験することができるので、先生の卵10個の実験とともに、実践したいと考えてます。データがでればご報告します。
https://www.mdpi.com/2072-6643/6/7/2632/htm
この論文をみても清水先生のおっしゃるとおりで、TGのピークは3−4時間になってます。TGのピークにおいても、フルクトースの食事が一番高いことは同傾向だと思いました。この論文のタンパク質と脂質の食事のTGの上昇は20mg程度です。清水先生の実験は72mgですが、摂取した脂質の量の違いなのでしょうか。この論文のフルクトースの食事でも40mg程度、先生のご提示された果糖の論文のフルクトースの食事で90mg程度、糖質制限している先生の72mgと比べると意外と違いがないように思いました。代謝が正常なら、余分な脂質の吸収は行われないためでしょうか。
フルクトースは猛毒ですが、全体としては、フルクトース+グルコースで、より猛毒になるのでしょうか?
理解不足で、不適切なところがあるかもしれませんが、ご指導ください。
T.Mさん、コメントありがとうございます。
私の人体実験では一度に60gの脂質を摂取しています。通常の食事の1日分に近いでしょう。他の研究はかなり少ない脂質です。
その分違いはあると思います。
また、最も違うのは私の実験では1時間後にすでにピークだということです。
他の研究は1時間後ではほとんど中性脂肪は上昇していないのではないでしょうか?
全く代謝が異なっていると思います。
余分な脂質という定義がわかりませんが、100%脂質の食事だと下痢します。
しかし、私の実験後のうんこは脂まみれではありませんでした。吸収はしていると思います。
果糖は猛毒ですが、通常は単独で摂取することはまずありません。果糖+ブドウ糖でより猛毒になるかどうかはわかりません。
果糖とブドウ糖は性質の違う毒でしょう。
人体は高血糖でポリオール経路で自ら果糖を作り出しますので、拙著に書いたように進化の過程では果糖は有益だったのでしょう。
清水先生、大変良く理解できました。ご親切にお答えいただき感謝申し上げます。