脳は砂糖と人工甘味料を区別できるのか? その2

以前の記事「その1」では、脳が砂糖と人工甘味料を区別しているのではないか?ということを書きました。しかし、話はそれほど単純ではないようです。

今回の研究では、人工甘味料を常用している場合としていない場合での比較です。脳の報酬系はどうなるのでしょうか?

今回の人工甘味料はサッカリンです。ダイエットソーダを飲む人は週に平均8本のダイエットソーダを消費し、ダイエットソーダを飲まない人は週に1本の消費がない人です。(図は原文より)

上の図はショ糖とサッカリンに反応した脳の活性化を示しています。赤色はダイエットソーダを飲む人のみの活性化を示し、黄色はダイエットソーダを飲まない人のみの活性化を示し、緑色は両方のグループでの活性化の重複を示します。左がショ糖での活性化、右がサッカリンでの活性化です。

サッカリンでの活性化は、両方のグループの重複領域(両側の小脳、視床、楔前部、および島皮質)で有意になりました。さらに、左帯状回、左中心後回、および右中心前回でも有意に活性化されました。そして、サッカリンはダイエットソーダを飲む人に対して、さらに多くの領域を活性化しました。特に、中脳(ドーパミン作動性黒質および腹側被蓋野を含む)、両側のレンズ核、尾状体、および右眼窩前頭皮質の活性化を認めました。

ショ糖での活性化は、両方のグループで左帯状回、左中央前回、左視床、および右島皮質に加えて、両側小脳および中心後回を活性化しました。これらの領域に加えて、ダイエットソーダを飲む人では、中脳と両側のレンズ核を有意に活性化しました。

ダイエットソーダを飲む人ではサッカリンによりドパミン作動性の中脳(腹側被蓋領域)では、ダイエットソーダを飲まない人と比較して、より大きな活性化が誘発されました。

上の図はダイエットソーダを飲む人とダイエットソーダを飲まない人の活性化の直接比較です。NSD =ダイエットソーダを飲まない人、DSD =ダイエットソーダを飲む人、L =左半球、 R =右半球、AMYG =扁桃体、NA =側坐核、BA 47 =眼窩前頭皮質/ Brodmannエリア47、INS =島

右扁桃体の活性化は、ダイエットソーダを飲まない人と比較してダイエットソーダを飲む人で有意に大きく、右側の側坐核の活性化は、ダイエットソーダを飲まない人の左側の側坐核の活性化よりも有意に大きくなりました。

サッカリンとショ糖の刺激による甘味の強さと甘味に対する快感は一致していましたが、ダイエットソーダを飲む習慣があるかどうかで、脳の活性化の状態は変化していたのです。ダイエットソーダを習慣的に飲むことは脳内の甘味の報酬系領域の反応の変化に関連している可能性であります。ダイエットソーダを飲む人は、報酬系脳領域(眼窩前頭皮質、レンズ核)でサッカリンとショ糖の両方に対してより広範な活性化を示しました。直接比較では、ダイエットソーダを飲まない人よりもドパミン作動性中脳および右扁桃体のより大きな活性化を示しました。

人工甘味料に定期的にさらされると、甘味と炭水化物代謝との関連性が弱まり、脳の報酬システムの甘味に反応が変化し、エネルギー調節が損なわれるかもしれません。そしてその結果、摂食行動が変化する可能性があります。

定期的に人工甘味料の甘味にさらされている人は、自然に甘くされた糖質入りの飲料と同じくらい、人工的に甘くされた飲料を楽しむために脳がトレーニングされている可能性があります。そうすると、糖質依存と同じように人工甘味料依存を招く可能性もあります。それが摂食行動や満腹感などのシグナルに変化を起こし、逆に体重増加を起こしてしまう可能性があります。

ただ、これは一般的に糖質過剰摂取状態で、飲料でダイエットソーダを飲むかどうかの違いを示しています。糖質制限ではどうなるかはわかりません。そして、人工甘味料依存となったとしても、糖質制限では糖質摂取をしないということを考えると、人工甘味料の習慣的な使用が体重増加には結びつかないと思います。ただ、人工甘味料がやめられない状態にはなるかもしれません。

その1と合わせて考えると、時折摂取する人工甘味料は脳の報酬系に影響はあまりなく、習慣的に人工甘味料を摂取するようになると、人工甘味料も報酬系を刺激するようになり、人工甘味料に対する依存を起こす可能性もあると思われます。脳は砂糖と人工甘味料を区別しますが、人工甘味料も依存物質であり、砂糖とは別に依存をもたらすのです。つまり、いつまでたっても甘味から逃れることができないのです。人工甘味料そのものがどのような有害性を表すかははっきりしていません。

せっかく糖質制限をするのであれば天然のものであっても人工のものであっても甘味から離れることをお勧めします。糖質制限での人工甘味料依存は有害ではないかもしれませんが、習慣的な人工甘味料の摂取により甘味に対する欲求が持続し、糖質制限からの離脱そして糖質過剰摂取時代に戻ってしまうリスクも高くなるかもしれません。

「Altered processing of sweet taste in the brain of diet soda drinkers」

「ダイエットソーダを飲む人の脳内の甘味の処理の変更」(原文はここ

5 thoughts on “脳は砂糖と人工甘味料を区別できるのか? その2

  1. >せっかく糖質制限をするのであれば
    >天然のものであっても人工のものであっても
    >甘味から離れることをお勧めします。

    江部先生お薦めの「ラカントS」はエリスリトール99%の天然モノ甘味料です。
    江部信者は、大半がラカントS使用で、平然と甘みを摂取しています。
    江部先生は、エリスリトール使用のケーキ類も平然と食べています。

    17年間の「天然モノ甘味料摂取スーパー糖質制限食実行」で、何も問題無いようです。
    何か問題ありますか???

    1. らこさん、コメントありがとうございます。

      問題ないと思います。
      ただ、遺伝子組み換え食品は私は好きではないので。

  2. 健康寿命を伸ばす事が人生の大きな目標である私にとって、いつもタイムリーな話題ご提供ありがとうございます。

    人工甘味料、カロリーゼロであっても、脳が想定外の条件付けをされてしまうかもしれない、というお話。
    それに当てはまるのかは不明ですが、確かに0カロリーコーラを飲むと、飲まない時より食欲が増す感じはしていました。

    糖質制限をしていても、やはりカロリーの過剰摂取は肥満に繋がるということは江部先生のブログにもありましたし、科学的根拠はわかりませんが、あのコーラの依存性はあまり身体には良くない気はします。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      人工甘味料は恐らくかなり依存性が強いと思っています。

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