低炭水化物と高脂質の摂取が糖尿病のリスクが高くなるという論文が出ました。この論文をもとにまた、糖質制限反対派が騒ぐかもしれません。
今回の研究ではイギリスの国民食事栄養調査(2008〜2016年)で16歳以上の3234人の食事情報(4日間の食事日記)を分析しました。もちろん、食事内容はは自己申告です。「LCHFスコア」という低炭水化物高脂質食を評価するスコアも用いられています。摂取する炭水化物量が最低摂取量で10点、最高で0点です。脂質に関しては最低摂取量が0点で、最高で10点です。合計0~20点になります。(図は原文より)
上の図の赤いグラフ主要な栄養素と2型糖尿病の関連です。下の青いグラフは栄養素とHbA1c5.5以上との関連で、糖尿病ではない人です。どちらも同じ傾向ですが、総エネルギー摂取量に対する炭水化物の割合が多いほどオッズ比が低くなっています。脂質に関しては割合が多いほどオッズ比が高くなっています。つまり、低炭水化物高脂質になるほど糖尿病、HbA1c増加になる可能性が高くなることを示しています。タンパク質に関しては割合が高いほどHbA1c5.5以上になる可能性が低くなっています。
上の図は左側がLCHFスコアで、右側がDRVスコアです。DRVスコアはイギリスの食事に関する推奨事項の遵守を評価しており、DRVスコアが高いほど、イギリスの食事に関する推奨事項を遵守していることを示します。そうすると、LCHFスコアが高いほど、つまり低炭水化物高脂質なほど糖尿病、HbA1c増加になる可能性が高いことを示しています。DRVスコアに関しては高いほど糖尿病になる可能性が低いことを示しています。
しかし、この論文にはからくりがあります。それは、この手の研究に頻繁に認められることですが、低炭水化物が本当の「低」炭水化物ではないのです。平均炭水化物摂取量の割合は48%で、脂質の平均が35%の人を対象としたものです。炭水化物量としても平均221gです。平均のエネルギー摂取量が1815kcalということを考えると、申告は過少である可能性が高く、それでも炭水化物量は220gなのです。炭水化物摂取量の範囲を見ても最低で150gであり、最高で290gです。少なすぎです。過少申告だと思われます。ちゃんとしたデータだと考えても、我々の糖質制限の糖質量とはあまりにもかけ離れています。
糖質過剰摂取をしている人の中で比較したもので、ほとんど炭水化物摂取量と脂質の摂取量の範囲が非常に狭いのです。
糖質制限と呼ばれるものは最高でも130gまでの糖質量です。通常スーパー糖質制限食では50~60gまでなので、糖質のエネルギー摂取量に対する割合も10%程度です。全く比較にもならないのです。
これをもとに糖質制限をすると糖尿病になりやすくなる、という間違った誘導が行われる可能性があります。この研究は全く糖質制限のリスクを表すものではありません。
「Lower carbohydrate and higher fat intakes are associated with higher hemoglobin A1c: findings from the UK National Diet and Nutrition Survey 2008–2016」
「低炭水化物と高脂肪摂取は、ヘモグロビンA1cの増加に関連しています:UK National Diet and Nutrition Survey 2008–2016の結果」(原文はここ)
本日、江部先生のブログにもコメントしましたが、
糖質量が40%を切ると死亡リスクが上がると言うような研究があり、それを根拠に糖質制限は危ないと非反する人がいます。
では、10%以下ではどうかと言う研究はほとんどありません。
25%程度(2000kcalとして125g)までは解糖系優位のエネルギー代謝で、それ以下は脂肪酸代謝優位になると思います。そして抗炎症作用などを有するケトン体が有意に増えてきます。
このようにそもそもエネルギー代謝の違う集団を同一視する事はナンセンスだと思います。糖質制限実践者では血液検査などの標準値もあてにならない場合があります。
糖質量と死亡リスクの関係はは右肩上がりの直線ではなく3次曲線を描くのではないかと個人的には思っています。論文などで低糖質群と謳っている(中途半端に糖質が少ない)のは解糖系優位でケトン体の恩恵を受けていないのではないか、そもそも解糖系以外をメインエネルギーにする集団の事など考えていないのではないかと思います。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
糖質制限の有害性を探すのに必死なのでしょうね?
低炭水化物、低糖質と謳っている批判的論文はほぼ間違いなく、ケトン体が増加しないレベルですね。
清水先生、いつもブログで勉強させていただいています。
この記事で気になったのは、中途半端な糖質制限で、脂肪を多く摂取することは避けたほうがいいのかどうかについてです。いわゆるスーパー糖質制限であれば、この記事には当てはまらないと思うのですが、そうでない場合ではどうなのだろうと思います。どうしても脂肪の摂取量が増えます。
私の場合でも、自宅で食事をする場合はご飯やパンはもちろん、糖質は可能な限り摂取しませんが、会社での付き合いや昼食ではどうしても糖質を少なからず摂取をせざるを得ないことがあります。こういう方は多いのではないかと思います。
糖尿病でない限り、一般的に言われるバランスの良い食事の方が良いのか(この場合でも過度な糖質の摂取は避けた方がいいとおもいますが)、やはり意識をして糖質制限に心がけ、タンパク質や脂肪を積極的に摂取したほうがいいのでしょうか?
じょんさん、コメントありがとうございます。
この記事の論文は、糖質制限とはほど遠いものを低炭水化物食と言って、騙そうとしているだけです。
以前の記事「中途半端な糖質制限では中途半端な結果になる」で取り上げた、「ロカボ」で有名(?)な山田悟先生の研究では、中途半端な糖質制限では結果も中途半端だということが示されています。
ですから、糖尿病ではスーパー糖質制限が必須だと思います。
糖尿病でない場合、と言っても、多くの人は食後の血糖値を知りません。耐糖能異常が起きていてもわかっていないだけです。
耐糖能が正常であっても、その分インスリンもたくさん出るわけですから、糖質過剰摂取に良い点は一つもないでしょう。
一般的に言われる「バランス」は知識の無い人間がごまかすために使う言葉であり、その背景には何の根拠もありません。
良いバランスは現在のところ全くわかっていません。
人類の進化と照らし合わせて、糖質はできる限り少なく、タンパク質と脂質を十分に摂取することが、人間本来の食事だと私は考えています。
清水先生、ありがとうございます。
これからも、可能な範囲で糖質は摂取せず、タンパク質、脂肪を重視した食事を続けていきます。
極力、糖質を控えた高たんぱく高脂質な食生活が最善であることは、僕自身の充実した健康ライフが実証しているのですが、さてここで質問です。
九州場所で43回目の優勝を果たした白鵬ですが、仮に大相撲の力士が高たんぱく、高脂質の糖質制限を実践して、白米やスイーツ、スポーツ飲料のどか食い、ばか飲みを一切やめた場合、部厚い皮下脂肪を最大の武器としてきた相撲競技において、こういった食生活で、はたして相撲取りとしてやっていけるのでしょうか。
というか、そもそも部厚い皮下脂肪はどこからやってくるのでしょうか、確保できるのでしょうか。
糖質ーインスリン経由ではないことはたしかですよね、高たんぱく、高脂質、たっぷり野菜の食生活によって、力士の体型がどう変化するのか、興味津々です。
余談ですが、優勝した白鵬、彼の立ち合いのスピードは、オリンピック級の100メートル走者のスタート反応速度に匹敵するほどの俊敏さを誇るのだそうです。それほどの速さから繰り出される張り手、かち上げの威力は想像を絶するものがありますね。
やまもとさん、コメントありがとうございます。
力士が糖質制限をしっかりとしたら、皮下脂肪が減り、筋肉質の体になるだけだと思います。
体重そのものは減るでしょうが、筋肉は減らないでしょう。体重を生かした相撲はできなくなりますが、
スピードと技を兼ね備えた素晴らしい力士ができると思います。