トラマドールはやはり麻薬

お久しぶりです。しばらくの間充電(放電?)していました。

今回は最近よくペインクリニックでも整形外科でも使われている薬の話です。

トラムセットやトラマールなどという名前で、現在トラマドールという薬が安易に処方されています。トラマドールは鎮痛薬ですが、麻薬です。製薬会社曰く、トラマドールは便秘や呼吸抑制の発現が少なく、依存性は低いとされています。

トラマドールの作用機序は、μオピオイド受容体に対する弱い親和性とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つことで発揮されると考えられています。トラマドールの代謝物であるモノ-O-脱メチル体は、μオピオイド受容体に対して未変化体よりも高い親和性を有するため、トラマドールの鎮痛作用の一部に寄与すると考えられています。(がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)参照)

つまり、トラマドールそのものはμオピオイド受容体に対する親和性は弱いのですが、肝臓で代謝されたものは親和性が高くなってしまうのです。依存性はこのμオピオイド受容体が関与しています。だからトラマドールが依存性をもたらすかどうかはその個人の肝臓での代謝による代謝物がどの程度μ受容体とくっ付くかに関係していると考えられます。そうすると依存や副作用をあまり示さずにいる人もいれば、そうではない人もいると思われます。

さらに、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持つということは、近年うつ病で頻繁に処方されている「SNRI」と同じ作用も持っているということです。脳に働き、その人の気分も変更してしまう可能性があるのです。

先日の記事では、このトラマドールが発展途上国で非常に大きな問題になっていることが取り上げられました。その題名には「トラマドールは奇妙で予測不可能な麻薬です」と書かれています。(記事の原文はここ

記事の要旨は次のようです。

「より安全な麻薬と宣伝されているトラマドールが、どのように第三世界に危険をもたらしたか」

トラマドールを研究している科学者はトラマドールのことを「予測不可能」、「厄介」、「クレイジー」などの言葉で形容しています。トラマドールは、他のほとんどの麻薬とは異なり、肝臓を通過して代謝されて最も強力な形になります。同時に、脳内のセロトニンのレベルを高め、気分を高める抗うつ薬として作用する別の種類の薬物を放出します。しかし、どのくらいの麻薬と抗うつ薬が放出されるかは、使用者の遺伝的要素に大きく依存しています。つまり、ある人では強力な用量の麻薬をもたらすかもしれませんが、別の人にはほとんど何ももたらしません。強力な麻薬として作用する場合には中毒をもたらすリスクを高めます。

強力な麻薬として作用する民族グループは、他の麻薬へのアクセスが不足している地域に大部分が集まっているため、痛みの緩和のためにトラマドールに依存しています。その地域はアフリカ、中東、およびアジアの一部です。

高用量でトラマドールを服用すると、特に他の薬剤と併用した場合、呼吸抑制を引き起こし、過剰摂取による死亡につながります。たとえば、イギリスでは、トラマドール処方の数が増えるにつれて死亡診断書に記載される回数も増えたため、2014年に薬を規制することを決定しました。

依存症になった人がトラマドールの服用をやめようとすると、痛み、発汗、下痢、不眠など、伝統的な麻薬のような離脱症状が現れます。さらにセロトニンの急激な低下を起こし、幻覚、パニック、妄想、混乱など他の問題を追加します。

トラマドールの大量乱用は、インドからアフリカ、中東に至る大陸にまたがっており、一部の専門家は麻薬規制の抜け穴と薬物の危険の誤算を非難しています。トラマドールは乱用のリスクをほとんど伴わずに痛みを和らげることができると宣伝されました。他の麻薬とは異なり、トラマドールは世界中で自由に流通し、ほとんどの危険な薬物を追跡する国際的な規制の影響を受けていません。

一部の人にとって、トラマドールは食物と同じくらい必須になりました。

ヘロインから中毒が始まった女性は、14歳の息子が亡くなると、うつ病になりました。「私は自殺したかったのですが、やがて中毒者になりました」と彼女は叫びました。医者はトラマドールを処方して、ヘロインの習慣をやめるのを助けました。代わりに、彼女は新しいものの中毒になりました。

薬を作ったドイツの企業であるG​​runenthalはトラマドールを規制しないように運動しています。規制により疼痛治療が妨げられることが判明した調査に資金を提供し、他の麻薬よりも安全であると主張するために、コンサルタントにWHOに出張するための費用を支払っていたのです。

Grunenthalは世界で最初に、睡眠薬としてサリドマイドの販売を開始した企業で、1960年代にトラマドールを合成しました。トラマドールは当初、注射されたトラマドールを研究したため、乱用のリスクが低いと考えられていました。しかし、研究者は後に、トラマドールが経口投与された方が肝臓で代謝を受けるために、はるかに強力な作用を示すことを発見しました。

Grunenthalは、トラマドールの乱用リスクは低いと主張しています。問題の原因となる錠剤のほとんどは、合法的な医薬品ではなく模造品であり、アメリカの調査では、他の処方鎮痛剤よりも低いレベルの乱用が示されています。同社は2014年にWHOに報告書を提出し、「限られた数の国」に見られる乱用は「この地域の政治的および社会的不安定の文脈で見るべきだ」と述べています。しかし、先進国でも規制が起きています。アメリカとイギリスは2014年にトラマドールを規制しました。

トラマドールは依然として収益性の高いビジネスです。Grunenthalによると、世界市場の金額は約14億ドルと推定されています。

以前の記事「トラムセット、トラマールは依存性があるかもしれない」で書いたように、トラマドールは他の麻薬より依存性が低いわけではないのです。しかし、日本では通常の消炎鎮痛剤(Nsaids)と同様の扱いで、どんどん処方されています。しかも、長期間にわたって処方され続けているのです。

私はできる限り早く減量、中止するように患者に説明しています。トラマドールは麻薬であり、依存性があると説明しています。上に書いたように依存を示さない場合もあれば、肝臓の代謝を受けて強い麻薬作用を示し、依存に至るケースもあるのです。

世界のいくつかの国ではすでに規制されています。日本も規制すべきです。

2 thoughts on “トラマドールはやはり麻薬

  1. 勤務先の介護施設でも主治医から「痛み止め」としてトラムセット錠が処方されています。
    いつも思うのですが、服用が(飲ませる事が)困難な高齢者に、山のように出されている薬は、医療費の無駄遣いにしか感じられません。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      医師の仕事は薬を処方することだと思っている人もいるでしょうから。「薬を処方する」と「治療している」と実感できるのでしょう。

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