ケトン体が脳ネットワークの不安定性を低下させる

脳領域間の機能的コミュニケーションは年齢とともに不安定になると考えられています。その不安定化は認知機能低下と相関し、インスリン抵抗性とともに加速することが示唆されています。

今回の研究では、食事から摂取するエネルギーの違いによる脳のネットワークの安定性を分析しました。まず脳のネットワークの安定性は18〜88歳の1,000人近くの合計2つの大規模な脳神経イメージング(fMRI)のデータを使用し、老化のバイオマーカーを確立しました。

食事に対する脳の反応は、2つの方法で実験されました。1つ目は平均年齢28歳の12人で、通常食(食事の制限なし)で空腹なし、通常食と12時間の絶食、と糖質制限食(ケトジェニック食:高脂肪、中程度のタンパク質、低炭水化物(1日50g未満))の食事で1週間過ごした後の脳ネットワークの安定性を比較しました。糖質制限食ではすべての人が1週間後の血中のケトン体は600μmol/Lを超えていました。通常の食事では、代謝されるエネルギーはグルコースですが、糖質制限食では、代謝されるエネルギーはケトン体です。しかし、観察された効果を促進する食事の間には他の違いがあったかもしれません。したがってブドウ糖とケトン体を食事の種類による決定的な違いとして分離するために、もう一つの実験をしました。

もう一つの実験は、平均年齢29歳の30人で、以下の3つの条件で脳のネットワークの安定性を比較しました。空腹時:通常の食事をして、一晩絶食する。ブドウ糖ボーラス:絶食後にブドウ糖飲料(31g程度のブドウ糖)を飲む。ケトンエステルボーラス:絶食後にケトン飲料(27g程度のケトン体)を飲む。(図は原文より)

上の図Aは脳のネットワークの不安定性を示しています。左側の図は20歳から85歳のライプチヒの心-脳-身体オープンソースデータセットと18〜88歳のCam-CANオープンソースデータセット(詳細はよくわかりません)というものの分析です。どちらも50歳未満と比較して50歳以上で不安定性が増加していることがわかります。Aの右側は年齢による不安定性の変化を示しています。不安定性の開始年齢は47歳で、60歳前後で最も劇的な変化が起こることを示しています。結構早い年齢ですね。

Bの図は認知症の評価に使用されるMMSEです。30点満点中、23点以下で認知症の疑い、27点以下は軽度認知障害(MCI)の疑いがあると判断されます。Bの左の図は脳年齢とMMSEのスコアの関係を示しています。MMSEスコアの1ポイント減少ごとに不安定性由来の脳年齢が0.66年増加することを示しています。Bの右の図は赤い線が2型糖尿病、黒い線が健康な人です。実線が脳年齢を示し、点線が実年齢です。比較的若い(実年齢平均51歳)人では、2型糖尿病の人で脳年齢が実年齢よりも有意に高くなりました。高齢になると2型糖尿病と健康な人では差はありません。

上の図は一つ目の実験で、通常食、通常食で一晩の絶食後、糖質制限食での脳の不安定性の比較です。通常食で最も不安定性が高く、糖質制限で最も不安定性が低くなっています。

上の図は一晩絶食後にカロリーを一致させたブドウ糖対ケトンエステル飲料を飲んだ30分後の脳ネットワークの不安定性を示しています。ケトン体の飲料の方が大きく不安定性が低下しています。

上の図はn=1ですが、通常食を食べて、75gのブドウ糖負荷をして、糖質過剰状態でケトン体飲料を飲んだらどうなるかを示しています。高血糖状態であってもケトン体飲料で脳の不安定性は大きく低下しました。

そうすると、脳の不安定性を増加させるのは高血糖というよりもケトン体の低下なのかもしれません。ケトン体はブドウ糖よりも細胞に大きなエネルギーを提供すると考えられています。ケトン体がちゃんと血中に存在すれば脳のネットワークは安定するのです。そうであるならば、糖質過剰摂取のままケトン体のサプリやドリンク、MCTオイルやココナッツオイルを十分に摂ることで、脳の老化の促進はゆっくりにできるのかもしれません。

しかし、それでは血中のケトン体は安定しません。そして、人間の体にとって重要なのは、もちろん脳ではあるのですが、脳だけではありません。糖質過剰摂取で動脈硬化や酸化ストレスの増加などにより様々な臓器を傷害します。

糖質制限をすれば、酸化ストレスも少なく、脳に必要なケトン体も十分に得ることが可能です。脳の老化、特に認知症は代謝低下に関連しており、神経はブドウ糖をエネルギーとして効果的に使用する能力を徐々に失います。2型糖尿病で脳年齢が高くなるということは高血糖が脳のインスリン抵抗性をもたらして、脳のブドウ糖を利用する能力を低下させていると考えられます。

認知症は糖質過剰症候群です。脳のエネルギー源はブドウ糖だけ、と言っている昭和の知識の人は無視して、糖質制限をしましょう。

「Diet modulates brain network stability, a biomarker for brain aging, in young adults」

「若年成人の食事は脳老化のバイオマーカーである脳ネットワークの安定性を調節する」(原文はここ

コメント

  1. 鈴木武彦 より:

    先の東京マラソンで2時間7分39秒で15位の一色恭志選手についての報道記事です。

    『15位の一色は終盤に大きく失速することなく、自己ベストを2分4秒も上回る2時間7分39秒をマークした。「スタートラインに立てることを目指して準備してきた。今日はいけると思った」と充実感を漂わせた。
     日本記録ペースを刻む第2集団に食らい付いた。20キロ付近で遅れ始めると「自分のペースで行こうと気持ちを切り替えた」。35キロ付近で右脚がつりそうになりながらも粘った。大会前の炭水化物制限に初めて取り組んだといい、「ラストも体が動いた。思い切ってやったことがはまった」。  』

    カーボローディング的な食事がいまだにスタンダードなマラソンで、一流選手の糖質制限報道初めて見ました。

    • Dr.Shimizu より:

      鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      エリートランナーも糖質制限で大幅に自己ベスト更新。良いですね!