欧米各国では感染者の人口割合を推計するためや、職場復帰のために新型コロナウイルスの抗体検査を始めているようです。(ここ参照)
ドイツでは10万人を対象に抗体検査を行い、感染から回復して免疫を獲得したことが証明された場合、「免疫パスポート」を発行し、職場に復帰できるなど、ロックダウン中の制限から解放させるプロジェクトを進めたいと考えているようです。(ここ参照)
実際にはどの程度の人が免疫を獲得しているのでしょうか?ドイツから比較的大規模な免疫獲得の中間報告がされました。(原文はここ、ドイツ語です)
ドイツの西側、フランスとの国境と接するHeinsberg地区のGangelt(12,529人の住民)で、2月15日に行われたGangeltのカーニバルを原因として、新型コロナウイルスの集団感染と感染拡大が起こりました。
Gangeltは3月はじめにドイツ国内で最も多くの感染者が確認されていた地域の一つです。この町で新型コロナウイルスがどの程度広がっているのか調査が行われました。
今回の調査に同意したこの町の人1000人を対象としてPCR検査と抗体検査(IgG, IgA)が行われ、 4月9日に半分の検査対象500人の結果の中間発表が行われました。
その結果、約14%で抗体(IgG)陽性、約2%でPCR検査で陽性の結果となり、町の人口の約15%に感染歴(現在の感染または既に感染した)があると推計されました。
この15%という感染率の結果を用いると、感染者の総数に基づく死亡率(致死率)は約0.37%です。ジョンズホプキンス大学が計算しているドイツの致死率は1.98%で、5倍高くなっています。
この調査が何月何日に行われたかが読み取れませんでしたが、3月の終わりころと考えても、その時点ですでに人口の15%程度の人に免疫ができていたと考えられます。PCR検査陽性が約2%なので、10%以上は無症状で感染して免疫を持っていると考えられます。
ドイツは日本と比較して約36倍も死亡率が高くなっています。もしかしたら日本はドイツよりもさらに免疫獲得の割合が高いのかもしれません。
是非日本も、東京や大阪など様々な都市でランダムに1,000人程度ずつ、抗体検査を実施して、現在の免疫獲得率を推定してほしいですね。マスク2枚を数百億円使って配るよりも、有意義なお金の使い方だと思いますが。
しかし、この抗体検査には問題もあります。一つはどの程度の抗体があれば感染を防げるのかがわかっていません。抗体があることと感染しないことは完全にイコールではないと思います。また、今回の新型コロナウイルスの抗体がどれほどの期間持続するのかもわかっていません。季節性コロナウイルス(風邪を引き起こすものなど)に対する免疫は、感染後数週間で低下し始め、1年以内に一部の人々は再感染する可能性があるそうです。(この記事参照)
さらに、新型コロナウイルスの抗体検査で間違って季節性コロナウイルスの抗体が影響を与える可能性があるかもしれません。
新型コロナウイルスの抗体についての論文があります。(プレプリント)
上海公衆衛生臨床センターから退院した新型コロナウイルスに感染した175人の患者の血液サンプルを分析した結果、ほぼ3分の1にあたる患者のサンプルで、抗体のレベルが予想以上に低く、そのうち10人は、検査室で検出できないほど抗体レベルが低かったそうです。
調査の対象となったのは、すべてが軽度の症状から回復したばかりという人です。調査の結果、抗体レベルは年齢が高いほど上昇し、60歳~85歳の患者は、15歳~39歳の患者と比べて抗体量が3倍以上でした。(図は原文より)
上の図のAは退院日に収集された175人の新型コロナ回復患者のそれぞれの新型コロナ中和抗体の力価を示しています。人によって大きな差があり、最も少ない10人はほぼゼロに見えます。Bの図は左から抗体力価が低い方から高い方へ順に患者の割合を示しています。一番低いグループは30%程度います。Cは退院日に収集された抗体力価と、その2週間後の抗体力価の比較です。上がっている人もいれば下がっている人もいます。ほぼゼロになっている人もいるようです。
ということは、何人かの人が比較的早期に再感染が起きる可能性も否定できないかもしれません。もちろん、この論文はプレプリントであり、否定されるかもしれません。
しかし、もしも抗体検査を用いて、職場復帰を決めるとしたら、定期的に再検査が必要かもしれません。
また、数か月など比較的短期間で抗体が消えてしまえば、毎年のようにこのウイルスの襲来を受ける可能性もあります。そうしたら、毎年外出自粛や都市封鎖が行われるのでしょうか?うんざりですね。ワクチン?まだまだでしょう。治療薬?何とも言えません。来年のオリンピックももしかしたら…
本当に新型コロナウイルスはわからないことが多いですね。
「Neutralizing antibody responses to SARS-CoV-2 in a COVID-19 recovered patient cohort and their implications」
「COVID-19での回復した患者のコホートにおけるSARS-CoV-2に対する中和抗体反応とその意味」(原文はここ)
既観戦やワクチンで再感染は免れなくても、重症化は防げるかもしれませんね。
やまさん、コメントありがとうございます。
そうかもしれません。ただ、本人にとっては重症化が防げる可能性があったとしても、医療従事者などが弱い抗体で再感染や再燃し、
無症状や軽い症状で現場に復帰した場合、感染を広げる可能性もあります。
やはりかなり特異なウイルスなのですね。
これでは医療現場ではどのように対応してよいのか混乱するばかりで大変ですね。
抗体力価がゼロになってしまう原因としてどんなことが考えられるのでしょうか?
まーさんさん、コメントありがとうございます。
原因は私にはわかりません。
無症候性感染者の経過観察をしたところ、その5分の1にしか症状が発現しなかったという中国からの報告もあります。
複数の国でのしっかりした追試を望みたいですね。
China’s Data on Symptom-Free Cases Shows Most Never Get Sick
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-04-15/china-s-data-on-symptom-free-cases-reveals-most-never-get-sick
免疫を獲得したといっても抗体価にはかなりの個体差があり、また、どれくらいのレベルだったら再感染を防げるのか、抗体はどれくらい持続するのか、それにはどのような個体差があるのか。
こういったことは未だ未だ不明な部分が多いですね。
> 本当に新型コロナウイルスはわからないことが多いですね。
本当にそう思います。
ワクチンや治療薬の開発のためには、このウイルスの生物学的な特質・特徴やCOVID-19の病理・病態の解明を進める必要があります。そのために様々なデータの蓄積や調査、研究が世界中で行われると思いますが、相当な長期戦になるでしょうね。
NANAさん、コメントありがとうございます。
人類は感染との戦いをずっと行ってきており、これからも様々な戦いがあるでしょうね。
ワクチンは根本的な解決になるわけではありませんからね。
最終的には自分の免疫力しかありません。