以前の記事「妊娠中のアセトアミノフェンの使用とLGBT」では妊娠中のアセトアミノフェンの使用とLGBT、自閉症の関連を書きました。では、生まれた後にアセトアミノフェンは影響があるのでしょうか?
一時期、MMRワクチン(麻疹(Measles)・おたふくかぜ(Mumps)・風疹(Rubella )の三種混合ワクチン)が自閉症の原因となっているのではないか?ということも言われていました。
2014年のメタアナリシスでは、MMRワクチンおよびそれに含まれる水銀と、自閉症の関連について否定しています。(その論文はここ)
アセトアミノフェンは小児に頻繁に使われています。それは小児へのアスピリンの使用がライ症候群という急性の非常に重篤になり得る脳症を来すと考えられているからです。もちろん、小児全てがアスピリンに反応してライ症候群になるわけではなく、非常に数は少ないでしょう。しかし、ライ症候群になってしまうと非常に危険なので、インフルエンザ等の鎮痛解熱剤としてはアスピリンは使用されていません。インフルエンザ脳症は、ライ症候群ではないかとも考えられています。だから、アスピリンの代わりにアセトアミノフェンを使うことになっています。ただ、アスピリンとライ症候群の因果関係はもちろんわかっていません。しかし、敢えて子供にアスピリンを使用するのはリスクがあるでしょう。
では、アセトアミノフェンを小児に使用することは安全でしょうか?(図は原文より)
上の図は自閉症の発生数です。実線は生まれたときからの自閉症であり、点線は18か月において発症した自閉症です。1980年ころ以降どんどん発症は増加し、現在は10倍以上にもなっています。1980年ころ以前は50~60%が出生時に異常を認めました。しかし、1980年ごろ以降を境に変化が起きました。自閉症の発症は大きく増加し、1995年までに1980年のおよそ10倍になりました。そして、出生時の自閉症は3~4倍になったのですが、18か月での発症のタイプが10倍以上に急上昇したのです。つまり、自閉症は先天的なものであるよりも後天的なタイプが増加したことになります。
そうすると何かが変化したことで、このような後天的な自閉症が急増したことになります。そこで疑われたのが破傷風のワクチンやMMRワクチンです。ワクチンが自閉症と関連しないというのは先ほど論文を紹介しました。では、他に疑われているのは何でしょう。
それがアセトアミノフェンです。妊娠中のアセトアミノフェンの関連は以前の記事で書きました。先ほど書いたライ症候群の原因がアスピリンであると疑われたために、小児へのアセトアミノフェンの使用が推奨されるようになったのが、実は1980年なのです。その後のアセトアミノフェンの売り上げ増加と自閉症の増加の一致はたまたまの偶然でしょうか?無理矢理関連をこじつけているだけでしょうか?真実はわかりません。
12か月~18か月のMMRワクチン接種時にアセトアミノフェンを使用に関して、自閉症とそうではない子供で比較した研究があります。
それによるとMMRワクチン接種後のアセトアミノフェンの使用は、5歳以下で考えると自閉症の子供では6倍以上使用した可能性があり、予防接種後の後遺症の子供だけを考えると8倍以上使用していた可能性がありました。また、発達中に退行した自閉症の子供は、ワクチン接種後にアセトアミノフェンを服用した可能性が4倍高かったのです。
もちろんアセトアミノフェンの使用が全員の子供の自閉症をもたらすわけではなく、ほとんどの子供には影響がありません。しかし、何らかの違いが、アセトアミノフェンの影響を受け、脳に重大な変化をもたらすと考えられます。脳は生まれてからも成長を続けます。脳の大きさは9歳くらいまで大きくなると言われています。一部の子供がアセトアミノフェンの何らかの影響を受けてしまう可能性は十分にあるでしょう。
つまり、ある意味でアセトアミノフェンに対する感受性が高い子供は、非常に少ないかもしれませんが、一定の割合で存在していて、その子に妊娠中であろうが生まれてからであろうがアセトアミノフェンを使用してしまうと、自閉症や他の脳の問題を引き起こす可能性があるのかもしれません。アセトアミノフェンは免疫を低下させ、肝臓からのグルタチオンなどの解毒剤の供給を枯渇させる可能性があります。発達の未熟な赤ちゃんがアセトアミノフェンの影響を強く受けてしまう可能性は否定できません。
アセトアミノフェンはNSAIDsと同じような症状で使用しますが、作用が違います。NSAIDsは主に炎症を起こしたり痛みを起こすプロスタグランジンE2の合成を抑制して、鎮痛、解熱、抗炎症作用を発揮します。
アセトアミノフェンの作用メカニズムは未だに仮説です。真実はわかっていません。
アセトアミノフェンは抗炎症作用がほとんどありません。アセトアミノフェンは脳脊髄液に入り込みます。体温の上昇には脳の視床下部というところにある体温調節中枢が重要な役割を果たします。風邪などのときにプロスタグランジンが作られると、それが脳の体温調節中枢に伝わり、この体温調節中枢は体のそれぞれの部位に体温を上げるように指示を出し、発熱が生じます。アセトアミノフェンは視床下部における体温調節中枢に作用し、血管や汗腺を広げることで体外へ熱を逃がすことを増加させることで解熱作用を表すと考えられています。また、体温調節中枢に関わるプロスタグランジンの合成を阻害することでも解熱作用を表すと考えられているのです。痛みに関しても中枢系に働いて作用を示すと考えられています。
つまり、アセトアミノフェンは脳に働く薬なのです。大人でさえ以前の記事「アセトアミノフェンはただの鎮痛剤ではないようだ」に書いたように、感情に影響も与えます。脳に強力に作用している証拠かもしれません。発達途上の脳には、このような脳に働く薬が有害であることは否定できません。
ライ症候群を避ける代わりに自閉症を招いてしまっては問題があります。アセトアミノフェンと自閉症の関連は仮説ではあります。また、いつから比較的安全にアセトアミノフェンを使うことができるのかは不明です。しかし、少なくとも1歳半になる前に使用することは安全とは言い切れません。それを過ぎてもできる限り短期間少ない量での使用にとどめた方が良いでしょう。恐らくは数回程度の使用は問題ないとは思われますが、わかりません。安易な連日使用は避けるべきでしょう。
インフルエンザなどのときの高熱を下げたい親心は理解できますが、このようなリスクがあるかもしれないことも知っている必要があります。さらに、以前の記事「タミフル、インフルエンザの薬による異常行動」で書いたように、インフルエンザのときのアセトアミノフェンは子供の異常行動のリスクを高める可能性があります。喘息との関連も指摘されています。私にはアセトアミノフェンが安全な薬には思えません。本当の安全性が判明するまでは慎重に使用した方が良いでしょう。
子供のインフルエンザに対して、麻黄湯(0.18g/kg/日 分3) で平均して17.7時間で解熱効果が得られたという報告があります。タミフルでは平均31.9時間でした。私ならば漢方を使います。
「Did acetaminophen provoke the autism epidemic?」
「アセトアミノフェンは自閉症の流行を引き起こしたか?」(原文はここ)
「Acetaminophen (paracetamol) use, measles-mumps-rubella vaccination, and autistic disorder: the results of a parent survey」
「アセトアミノフェン(パラセタモール)の使用、MMRワクチンの予防接種、および自閉症:親の調査の結果」(原文はここ)