新型コロナウイルスの重症化とBCGワクチンが話題となって、変な問題が起きています。BCGワクチン接種について、誤って皮下注射し、発熱やじんましん、血尿などの健康被害が出ているそうです。金儲けをしようとした医師が成人にBCGワクチンを接種したのでしょう。やり方も知らないのに接種してしまったようです。(この記事参照)
BCGワクチンは将来のある赤ちゃんのためのワクチンです。大人に使ってどうかもわかっていません。
今回の研究(プレプリント)ではそのBCGワクチンについて、赤ちゃんの時に接種することが効果を示すのではないかという仮説についても言及しています。(図は原文より)
上の図はそれぞれの国の新型コロナウイルスの感染拡大状況と、BCG接種の関係です。上から人口100万人当たりの死亡者数が1人未満または1人程度はVLow、2~10程度がLow、Highは100人程度または100人以上、MidはLowとHighの間です。
そして表の右端のABCについては、Aが国のBCG定期接種プログラムがある国、Bは過去にBCGワクチン接種があり、人口の大部分(50%以上)をカバーしている国。B2はBCG接種をしてこなかったが、特定の地域やグループなど一部はカバーしていた国、CはBCG非接種国です。VLowはすべてAの国であり、LowのほとんどもAの国です。逆にHighは多くがCの国です。
もちろん、Aの国にもこれから大きな波がやっているのかもしれません。
以前の分析でもカナダはBCG非接種国なのに感染拡大が非常に遅く、Lowに分類されています。一部の州などで過去にBCG接種は行われていたようですが、今回の仮説にはうまく当てはまらない国の一つです。
地域差の興味深い事例は、ポルトガル対スペインです。同様の伝統と文化を共有する地理的な隣国ですが100万人当たりの死者数は25.8(ポルトガル)対253(スペイン)(4月12日現在では46対355)、つまり1桁近くの違いがあるのです。ポルトガルの方はスペインの2倍のPCR検査を行っているにも関わらず陽性者もスペインの方が10倍多いのです。ポルトガルはつい最近までBCGを行っていました。
多くの国では乳児にBCGワクチンを提供しています。この人生の初期段階でBCGを接種することが重要である可能性があります。
ドイツとフランス、イギリスの違いは非常に驚くべきものです。この3つの国は、ある程度同様の文化、人口統計、経済的および社会的発展のレベル、伝統などを有していると思われます。これらの国のBCGワクチンの接種についてみていくと、ドイツはBCGプログラムを1961~1998年(おそらく東ドイツは1950年代から)に行っていました。接種は乳児期です。一方イギリスはBCGプログラムを1953~2005年に行っていましたが、12〜13歳に行われていたようです。フランスは1950~2007年に行っていましたが、いつの時期にどの程度接種していたかはよくわかりません。
もちろんこれはただの仮説ですが、生まれたばかりの赤ちゃんの時にBCG接種を行うことは大人になってから接種することと比較して効果が大きく異なる可能性があります。
ところで、ドイツでは医療崩壊が起きておらず、周辺諸国の患者を受け入れていると報道されています。2020年4月12日15時頃の死者数は2,871人で、人口100万人当たり34人となっています。重症者も4,895人となっています。これで医療崩壊が本当に起きていないのでしょうか?
ドイツは以前赤ちゃんにBCG接種を行っていましたが、以前は西ドイツと東ドイツに分かれており、違うBCG株を使っていました。そのドイツは他の旧西ヨーロッパ諸国と比較して死者数のかなり少ない状況です。旧東ドイツは日本株と同じ系列のロシア株を使っていたと思われます。
州 | 感染者数 | 10万人当たりの感染者数 | 死者数 | 10万人当たりの死者数 |
---|---|---|---|---|
Baden-Württemberg | 23.617 | 213 | 622 | 5.89 |
Bayern | 31.453 | 241 | 747 | 6.05 |
Berlin | 4.458 | 119 | 46 | 1.38 |
Brandenburg | 1.764 | 70 | 37 | 1.52 |
Bremen | 469 | 69 | 15 | 2.20 |
Hamburg | 3.663 | 199 | 56 | 3.06 |
Hessen | 5.808 | 93 | 120 | 1.97 |
Mecklenburg- Vorpommern | 601 | 37 | 11 | 0.68 |
Niedersachsen | 7.343 | 92 | 171 | 2.37 |
Nordrhein-Westfalen | 23.644 | 132 | 472 | 2.76 |
Rheinland-Pfalz | 4.622 | 113 | 59 | 1.57 |
Saarland | 2.016 | 204 | 41 | 4.33 |
Sachsen | 3.565 | 87 | 65 | 1.64 |
Sachsen-Anhalt | 1.135 | 51 | 18 | 0.94 |
Schleswig-Holstein | 2.065 | 71 | 39 | 1.42 |
Thüringen | 1.435 | 67 | 25 | 1.16 |
合計 | 117.658 | 142 | 2.544 |
上の表は2020年4月11~12日ころのドイツの新型コロナウイルスの感染者数と死者数です。(データはここより)この表で赤い字が旧東ドイツです。人口10万人当たりの感染者だけでなく、死亡者の数も大きく違っています。旧東ドイツの死者数は156人です。一方旧西ドイツでは2,388人です。さらにベルリンを細かく見てみると次のようになります。(図はこことここより)
上の2つの図のうち、上の方の図で色付けされたところが旧東ベルリンです。下の方の図で色が濃いほど陽性者数の多いところです。旧東ベルリンの死者数は10人で、10万人当たり0.65人です。陽性者は10万人当たり93.4人です。一方旧西ベルリンの死者数は40人で、10万人当たり1.80人です。陽性者は10万人当たり141.0人です。かなりの違いがあります。
ベルリンの壁が崩壊して一つになりましたが、人々の交流は別として、住居は恐らく壁の崩壊前と大きく変わっていない可能性はあるでしょう。そうすると旧東ベルリン側の人の方が死者数が少ないのも、やはりBCGワクチンの違いである可能性があります。
日本は2020年4月12日15時頃の死者数は108人で、人口100万人当たり0.9人となっています。重症者も117人となっています。陽性者は確実に増加していますが、実際はこの何倍、何十倍にもなるでしょう。まだまだPCR検査数が少ない(ドイツの29分の1程度)ですから。しかし、死者数も増加したとはいえ、爆発的な増加を示していません。(図はここより)
上の図は各国の死者数の伸びを示していますが、日本をはじめBCGワクチン接種国は上昇率が低く、ドイツをはじめヨーロッパ各国は非常に大きな傾きのグラフになっています。ここから日本のグラフが上に向くのか、横ばいなのか、下を向いてくれるのか?
陽性者 | 重症者 | 死者 | (重症+死者)/陽性者 | 死者/陽性者 | |
日本 | 6747 | 117 | 108 | 3.3% | 1.6% |
韓国 | 10512 | 55 | 214 | 2.6% | 2.0% |
アメリカ | 558,438 | 11,766 | 21,991 | 6.0% | 3.9% |
ドイツ | 127,574 | 4,895 | 3,011 | 6.2% | 2.4% |
イタリア | 156,363 | 3,343 | 19,899 | 14.9% | 12.7% |
スペイン | 166,127 | 7,371 | 17,113 | 14.7% | 10.3% |
2020年4月13日7時ころのデータでは、日本はPCR検査数が極端に少ないにもかかわらず、重症者や死者数は非常に少ない状態が続いています。PCR検査数を増やせば重症者や死者数が増加するわけではありませんので、重症率や死亡率はもっと低下します。数字が正しければ本当に少ないのでしょう。陽性者に対する死者の割合が10%を超えるイタリアやスペインとは大きな違いです。
東京の感染者は3月25日から急増が始まっていて、第2波が始まっていると思われますが、すでに2週間以上がたっています。しかし、今のところ波の大きさは欧米ほど大きくありません。もう1週間後に死者や重傷者が大幅に増加しないようであれば、本当に日本人は何かに守られていると思われます。それが免疫なのか、BCGなのか?
ただ、この表やグラフも各国の本当の数値が報告されていて初めて成り立つものですが…
この記事も参照
「Further Evidence of a Possible Correlation Between the Severity of Covid-19 and BCG Immunization」
「Covid-19の重症度とBCG予防接種の間の可能な相関のさらなる証拠」(原文はここ)
BCGなど免疫によるものなのか、
日本人の几帳面さの為なのか、
いずれにせよ、死者数が増えない事を祈ります。
>BCGワクチンは将来のある赤ちゃんのためのワクチンです。
そうなのですね。私(58歳)は、小学校での検診でツベルクリン反応陰性でワクチン接種しましたが、今は、リンクの記事にも「BCGは0歳児が対象の結核予防ワクチン」とあるように0歳児が対象なのですね。
時代と共に摂取年齢は引き下げられてきたようですね。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ones-att/2r9852000002onjx.pdf
平成17年度までの接種対象者:4歳未満のツベルクリン反応陰性者
平成17年度以降の接種対象者:生後6か月未満。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
以前はツベルクリン反応やってましたね。懐かしいです。
BCGも大きな要因ではあると思いますが、1つの要因に過ぎないと私は思っています。
以下は新型インフルの時の検証です。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/pdf/kouen-kensyuukai_03.pdf
多少の前後はあると思いますが、イタリアやスペインのような特異な場合を除き、最終的には各国の死亡率順位は新型コロナにも当てはまるような気がします。
日本が低い理由として
• 皆が知っていて注意をした
• 個人衛生レベルが高い
• 医療機関への受診が容易→医療機関は大変だった!
• 医療費が安い
• 多くの人が結局まじめに取り組んだ・・・・
が列挙されていますが、医療関係者の方々がとても優秀で国民の意識も高いからだと思っています。(慶応の研修医とかBCGを皮下注射してしまうおまぬけな人もいますが・・・。)
ただし今回のコロナでは検査等で一般的な医療機関への受診が容易ではないなど条件も異なるので注意が必要ですね。
最後に
• 通常の医療体制の延長では危機管理としての対応が出来ない、と言う認識を各方面が持つべき
と締めくくられていますが、まさに今回の新型コロナに当てはまると言えるのではないでしょうか。
今は日本に生まれて良かったと感謝しています。
アメリカは医療技術先進国ではありますが、社会構造的な問題を抱えており、それが解決しなければ今後どんな感染症が起こってもぶっちぎりの1位は不動だと思います。
ただし日本はアメリカの後追いをしているわけで、将来的にそうならないとは限りませんし、外国人労働者を増やしたり、観光立国を目指すことに大きなリスクがあることを肝に銘ずるべきだと思います。
まーさんさん、コメントありがとうございます。
この検証はあまり役に立ちません。推測でしかありません。
これまで厚労省は非常事態の医療体制のシミュレーションを全くやっていないのでしょう。
結局、それぞれの病院が判断しなければなりません。
中小の病院は自分の病院で新型コロナウイルスが出るのが怖いので、救急患者を受け入れないようにするところもどんどん増えるでしょう。
一部の病院に過大な負荷がかかってしまっています。そのような意味ではすでに医療崩壊しています。
この記事を読んで、BCGとCOVID-19の関係はさらに強まったと思います。フランスでロックダウンに会い、慌てて帰国した身にとってある種、感覚的に頷いてしまいます。フランスについて言えば、渡航前はフランス人はトイレ後も手洗いもしないし、下着も毎日変えないだってね、なんて言ってました。しかし、3月17日を境に、社会は大きく変わりました。売店のレジはグローブを付け、客も手を伸ばして買わなければならない。高速SAでは、トイレでは、とても入念に手を洗う姿を見て、今、帰国後20日程経ちますが、未だに仲々終息に向かっていない状況に、何故なんだろう?と思いつつ、日本もさることながら、一日も早い好転を願わずにいられません。
そこで、地域差がどうしてこれほどあるのか不思議です。確かに、日本人の生活習慣、医療制度等々優れた点はあるのでしょう。しかし、それだけでは説明が出来ない程の差が認められるのです。ヨーロッパでは国は違えど、陸地で繋がってます。スペインとポルトガルで何故これほど差があるのか。やはり、BCG接種の履歴とCOVID-19の重症化に大きな相関があることを考えざるを得ない。これは、今のウイルス対策と言うよりは、今後起こることが想定されるている、高病原性鳥インフルエンザ対策等に万全を期す意味で、さらに抜本的な検討を期待したいですね。
kazuさん、コメントありがとうございます。
どのようにしても因果関係を確かめることは難しいでしょう。
相関は十分ありそうですが、最終的には世界中が終息してみないとわかりません。
日本人が清潔好きなのは確かでしょうが、一方で呼吸器にダメージを与える喫煙率も高く公共スペースでの喫煙もつい最近まで野放しで欧米各国と比べて副流煙の被害だって相当なものですよね。先進国で質はともかくとしても公的医療保険がないのはアメリカぐらいですし。また別に日本人が危機管理において特段優秀でもないでしょう、むしろ平和ボケと言われるわけですから。
一方でスペインとポルトガルの違いは大きな証左となるでしょう。自分はワインと自転車で両国を知ったのですが、気候も食文化もほぼ同じです。あえて言えば、内陸部の赤茶けた乾燥地帯があるかないかぐらいです。やはりBCGワクチンが何らかの違いを生み出してるのではと思います。
虎ノ門ニュースで武田先生が今冬のインフルエンザが少ないことをなぜ誰も報道しないのかとプリプリ怒ってました。そっちの相関性を追っかけるのも興味深いと思います。もちろんすでに誰かやってるでしょうが。
SLEEPさん、コメントありがとうございます。
スペインとポルトガル、イランとイラク、アメリカとメキシコなど隣国同士比較すると非常に興味深いですね。
インフルエンザとの関係はすでに、以前の記事「日本もアメリカも新型コロナウイルスの第2波か?」
で書いたように京都大学から論文が出ていますが、私は新型コロナウイルスとの関連はあまりないのではないかと思っています。
WHOはBCGの需要が高まっては困るので、根拠はないと発表しましたね。
イタリアやスペイン、フランスそして米国などの国と日本の間にある重症者数や死亡数(率)の桁違いの差は、日本人の高い公衆衛生意識や優れた医療体制・環境だけではとても説明しきれないと思います。
もしそれで説明できるのなら、既知のインフルエンザにおいても、それらの国と日本との間で桁違いといえる程の差が生じているはずですが、そうはなっていません。
BCGワクチンは現段階ではあくまでもひとつの仮説ですが、複数の国で今、前向きの比較臨床試験が始まっており、その結果次第では、BCG接種とCOVID-19の重症化や致命率との関係に強い因果推論ができる可能性は十分にあるかと思います。
NANAさん、コメントありがとうございます。
結局はそれぞれの国の何が良くて死者数の差が生まれたかなんてわからないでしょう。
BCGの臨床試験には注目したいですが。