アラキドン酸は本当に炎症を促進するのか?

以前の記事「糖質制限のメタボリックシンドローム改善効果 たった1か月でこの違い!」の最後で書きましたが、糖質制限をすると細胞膜を形成する主成分のリン脂質や血中の脂肪酸に含まれるアラキドン酸が増加します。

感覚的にはアラキドン酸は炎症促進物質であり、それが増加することは有害である気がします。

ある研究で低炭水化物食(1504 kcal:炭水化物:脂質:タンパク質 = 12:59:28)または低脂肪食(1478 kcal:炭水化物:脂質:タンパク質 = 56:24:20)を12週間摂取して分析したものがあります。(図は原文より)

上の図のAは血中のリン脂質中のアラキドン酸の変化です。左のVLCKDは低炭水化物食、右は低脂肪食です。Bはオメガ6/オメガ3の比です。Cはアラキドン酸/EPA(エイコサペンタエン酸)の比です。どのグラフも低脂肪食では平均すると変化がありません。しかし、低炭水化物食ではアラキドン酸の割合は増加し、オメガ6/オメガ3の比も増加、つまりオメガ6が増加し、アラキドン酸/EPA比も増加しています。

血中の中性脂肪の脂肪酸のオメガ6/オメガ3比およびアラキドン酸/EPAの比は、低炭水化物食で平均してほぼ2倍になりました。

アラキドン酸の増加、およびオメガ6/オメガ3比とアラキドン酸/EPAの比の増加は、一般に炎症誘発性と見なされます。では、実際に炎症所見はどうなったのでしょうか?

 

両方の食事は、急性期反応性のCRP、VEGF、P-セレクチン、EGF、V-CAMの有意な減少をもたらしました。しかし、低炭水化物食では低脂肪食と比較してTNF-α、IL-8、MCP-1、E-セレクチン、I-CAMの有意に大きな減少が認められ、大きな抗炎症効果を認めました。さらに低炭水化物食ではPAI-1が大きく減少しています。PAI-1は抗線溶効果があり、それが増加すると血栓の増大を招き、動脈硬化病変を進展させると考えられています。

上の図はAがアラキドン酸、Bがアラキドン酸/EPAの比の変化がそれぞれの炎症マーカーにどれだけ関連しているかを示したものです。アラキドン酸単独ではCRPに対してややプラスの関連を示していますが、アラキドン酸/EPAの比の増加はCRPに対して大きくマイナスに関連しています。

一般的な炎症誘発性の認識とは異なり、アラキドン酸の増加、およびオメガ6/オメガ3比とアラキドン酸/EPAの比の増加は予想外に抗炎症性を示しているのです。

糖質制限では酸化ストレスや炎症が減少することにより、アラキドン酸が酸化されることが激減し、それがアラキドン酸の増加につながっているのかもしれません。つまりアラキドン酸の存在そのものが悪いのではなく、糖質過剰摂取による炎症がアラキドン酸を酸化して、有害性をもたらすのかもしれません。

オメガ6とオメガ3の食事による摂取量も関連がないわけではないと思いますが、糖質摂取量により、細胞膜などの脂肪酸の比率が変化して、そのことが大きな役割を果たしているかもしれません。

そうすると、血液検査のEPA/AA(エイコサペンタエン酸/アラキドン酸)の比率の検査の意味が変化するでしょう。(血液検査ではオメガ6とオメガ3が逆になっているので注意してください)糖質過剰摂取と糖質制限でのこの比の意味は異なるかもしれません。糖質制限をして、一生懸命オメガ6を制限してオメガ3を摂取しても、EPA/AAは増加しないのかもしれません。しかもそのことは悪いことではなく、炎症を抑制している証拠なのかもしれないのです。または、この比が何を意味しているのかは食事を確かめないとわからないのかもしれません。

もしかしたら、EPA製剤を売り込む戦略が後ろにあるのかもしれません。

 

「Comparison of low fat and low carbohydrate diets on circulating fatty acid composition and markers of inflammation」

「循環脂肪酸組成と炎症マーカーに関する低脂肪食と低炭水化物食の比較」(原文はここ

2 thoughts on “アラキドン酸は本当に炎症を促進するのか?

  1. 清水先生、おはようございます。

    >血中の中性脂肪の脂肪酸のオメガ6/オメガ3比およびアラキドン酸/EPAの比は、低炭水化物食で平均してほぼ2倍

    糖質制限では、脂質の摂取量が多くなり、かつよほど意識をしない限りオメガ3系脂肪酸の摂取より6系の摂取が多くなるように思いました。

    しかし、糖質制限をしていると、そういう比率以上に抗炎症につながる何かがあるということですね。そこにさらにオメガ3を意識的に摂取をすればいいのかどうか、果たしてあまり関係はないのか、知りたいところです。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      今回の研究では、摂取したオメガ6のリノール酸とオメガ3のリノレン酸は糖質制限中もほとんど増えておらず、EPAとDHAは5倍程度に増加していました。
      もしかしたら炎症とオメガ6/オメガ3比は独立しているのかもしれませんね。

Dr.Shimizu へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です