入院生活は非常に活動が低下します。もちろん、ケガで動けなかったり、体調の悪化でベッドでの安静を余儀なくされることもあるでしょう。しかし、可能であれば、以前の記事「とにかく可能な限り動きましょう」で書いたように、できる限り動かなければどんどん体の機能は低下します。
今回の研究では、65〜79歳の平均BMIが27の過体重の糖尿病予備軍の高齢者を対象として、入院生活を模倣した歩数を減らして、その時の変化を調べています。参加者は14日間の1日1,000歩未満に歩数を制限されました。その後、回復期としての14日間、いつもの習慣的な歩数に戻ります。(図は原文より、表は原文より改変)
ベースライン | 歩数制限 | 回復期 | ||||
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男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
年齢 | 69±3 | 70±5 | – | – | – | – |
体重kg | 82.6±16.1 | 70.3±13.0 | 83.2±16.7 | 70.3±12.9 | 83.6±16.9 | 70.3±13.0 |
BMI | 27.2±4.6 | 27.7±5.1 | 27.6±4.7 | 27.6±5.1 | 27.7±4.7 | 27.6±5.2 |
歩数計の歩数 | 7880±3800 | 6585±2370 | 973±83 | 1018±116 | 7895±4323 | 5948±2759 |
毎日のエネルギー消費量kJ | 10982±2118 | 7984±917 | 8827±1296 | 7061±656 | 10683±2029 | 7577±758 |
男性のベースラインの歩数は8,000歩に近く、女性では6,500歩前後でした。回復期の歩数はほぼベースラインの歩数に戻っています。エネルギー消費量も戻っています。
上の図はAはOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)の血糖値の推移、BはOGTTのインスリンの推移です。CとDはそれぞれOGTTによる血糖値とインスリン値の曲線下面積です。Eは松田インスリン感受性指数(ISI)で、FはHOMA-IRです。
血糖値およびインスリン値は、歩数制限でベースラインから有意に上昇し、回復期で歩数制限のときから完全には回復しませんでした。血糖値の曲線下面積は、歩数制限で有意に上昇し、回復期では完全に回復しませんでしたが、ベースラインと有意差もありませんでした。インスリン値の曲線下面積も歩数制限で上昇し、回復期でもベースラインより上昇していました。歩数制限で松田インスリン感受性指数が低下し、インスリン抵抗性のHOMA-IRは増加し、どちらも回復期でもベースラインレベルに戻りませんでした。
ベースライン | 歩数制限 | 回復期 | |
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空腹時血糖 | 95.4±9 | 102.6±10.8 | 102.6±9 |
ブドウ糖摂取60分 | 178.2±28.8 | 199.8±7.2 | 185.4±7.2 |
ブドウ糖摂取120分 | 158.4±27 | 165.6±27 | 156.6±32.4 |
血糖値ピーク | 187.2±25.2 | 205.2±28.8 | 192.6±28.8 |
空腹時インスリン | 11.1±1.5 | 14.5±3.1 | 13.2±2.3 |
HBA1c | 5.90±0.30 | 5.91±0.32 | 5.94±0.33 |
TNF-α | 11.8±2.8 | 15.4±4.6 | 14.3±3.8 |
IL-6 | 8.3±3.1 | 10.8±4.4 | 10±3.4 |
CRP | 1.1±0.4 | 1.6±0.7 | 1.4±0.8 |
空腹時血糖およびインスリン、OGTT後120分での血糖値もベースラインから歩数制限で上昇し、回復期でもベースラインに完全には戻りませんでした。炎症マーカーのTNF-α、インターロイキン6、CRPは歩数制限でベースラインから有意に増加し)、回復期でもベースラインを超えて上昇したままでした。
上の図はAのグラフが筋肉のタンパク質合成で、Bは筋肉のタンパク質合成のベースラインからの変化率です。BLはベースライン、SRは歩行制限、RCは回復期です。AのグレーとBの■は男性、Aの白とBの△が女性です。
筋肉のタンパク質合成は2週間の歩行制限で低下し、回復期の2週間でもベースラインまで回復していませんでした。
今回の研究では、安静、活動性の低下によって、高齢の糖尿病予備軍の過体重の人でインスリン感受性が低下し、筋肉のタンパク質合成が低下し、炎症マーカーが増加し、それが安静や活動性が低下した期間後のもとの活動性が戻った状態でも、すぐには機能回復しないことを示しています。一度低下した機能を回復させるのには失った期間以上の時間が必要となるのです。
このことは高齢者や肥満や過体重の人だけに起こる現象ではなく、若い健康な人でも起こる変化です。家の中でずっと過ごしていたり、長時間ゲームなどをして活動性が低下すれば、体の機能は衰えるでしょう。
ただ、年を取るにつれ、ちょっとしたことで安静にしたり、活動性を低下させたりします。その積み重ねがサルコペニアなどを引き起こす可能性を高くするでしょう。
糖質制限は時折「運動なしで痩せる」と言われています。もちろん、多くの人は運動をするかどうかにかかわらず、余分な脂肪は少なくなり、体重減少が起きると思います。しかし、だからと言って活動性が非常に少なければ、筋肉の減少、筋肉のインスリン抵抗性が高くなり、体重減少に対する糖質制限の十分な効果が得られない可能性もあります。
入院や病気だけが問題ではありません。普段の生活から活動的になるべきでしょう。使わない機能は失われます。動きましょう。
「Failed Recovery of Glycemic Control and Myofibrillar Protein Synthesis With 2 wk of Physical Inactivity in Overweight, Prediabetic Older Adults」
「太りすぎの前糖尿病の高齢者における2週間の身体的不活動による血糖コントロールと筋原線維タンパク質合成の回復の失敗」(原文はここ)
運動習慣無い方は、いかに動物としての人間にとって不自然な状態か、自覚無いですね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
運動はしなかったとしても、せめて歩行はしないとダメでしょうね。家の中や車での移動ばかりでは、歩行もままならないでしょう。
自粛前は週3、4回2時間程度の運動をしていたのが3か月間ほどできなくなりました。
自粛期間中も2日に1回2時間近く買い物がてら散歩をするようにしていたので
体重の増加は1kgほどでしたが、筋肉がまんべんなく落ちて体幹の体脂肪が増えました。
6月から通常の運動を再開しましたが、10月に入ってなんとか自粛期間前の
状態にまで戻すことができました。
なかなか時間がかかりますね。
きくっちさん、コメントありがとうございます。
自粛生活は失うものの方が多かったと思います。
さらに、子供たちのメンタル面も心配ですね。
失ったものを取り戻すには失った時間よりももっと多くの時間を必要とするのでしょう。