アラキドン酸とインスリン抵抗性

先日の記事「アラキドン酸は本当に炎症を促進するのか?」では、糖質制限をするとアラキドン酸の増加、およびオメガ6/オメガ3比とアラキドン酸/EPAの比の増加が起こることを書きました。そして、それにもかかわらず炎症は減少していました。

さらに今回は、アラキドン酸とインスリン抵抗性について書きたいと思います。

今回の研究では、骨格筋細胞膜のリン脂質の脂肪酸組成とインスリン感受性との関係を調べるために、1つの研究では、冠動脈手術を受けた27人の患者から腹直筋のサンプルを採取しました。2番目の研究では、外側広筋の生検が13人の正常な男性で行われ、インスリン感受性が正常血糖クランプ法によって評価されました。(図は原文より)

オメガ3とオメガ6は上のようになっています。

上の図は筋肉のリン脂質の脂肪酸組成と、冠動脈疾患の人における空腹時インスリン濃度との相関関係です。インスリン濃度は、多価不飽和脂肪酸C20:4 n-6(アラキドン酸)、C22:4 n-6、C22:5 n-6、C22:5 n-3のパーセンテージ、C20-22多価不飽和脂肪酸の割合、不飽和指数、C20:4とC20:3の比率と逆相関していました。空腹時インスリン濃度はC18:2 n-6(リノール酸)のパーセンテージと正の相関がありました。

上の図は冠動脈疾患の骨格筋リン脂質におけるC20-22多価不飽和脂肪酸の割合(A)とC20:4とC20:3の比率(B)と空腹時インスリン濃度との関連です。C20-22多価不飽和脂肪酸の割合、C20:4とC20:3の比率はどちらもインスリンと負の相関があります。

上の図は、2つ目の研究で、健康な男性の筋肉の脂肪酸組成です。疾患の有無や異なる筋肉が分析されたにもかかわらず、これらの筋肉の脂肪酸組成は、最初の研究の患者の脂肪酸組成と非常に類似していました。

インスリン濃度はC20:4 n-6(アラキドン酸)およびC20-22多価不飽和脂肪酸のパーセンテージおよびC20:4とC20:3の比率と逆相関しました。

上の図は健康な男性のインスリン感受性とC20-22多価不飽和脂肪酸のパーセンテージおよびC20:4とC20:3の比率との関連です。正の相関を示しています。

インスリンの作用に対する様々な組織、臓器の感受性の低下は高インスリン血症をもたらします。特に筋肉はブドウ糖を取り込む主要な臓器なので、筋肉のインスリン抵抗性の影響は非常に大きいでしょう。

筋肉のリン脂質の脂肪酸組成がインスリン感受性に影響を与えているのか、逆にインスリン抵抗性が脂肪酸の組成に変化を起こしているのかはわかりません。両方が関係していると思います。

ただ、C20:4とC20:3の比率が高くなる、つまりオメガ6のジホモγ-リノレン酸からアラキドン酸への代謝が進むほど、インスリン感受性は高くなると考えられるので、その代謝を行う不飽和化酵素のΔ5デサチュラーゼの活性がカギを握っているのかもしれません。

 

上の図は横軸がΔ5デサチュラーゼの活性、縦軸がaはインスリン作用、bは体脂肪率です。Δ5デサチュラーゼの活性が高いほどインスリン作用は増加し、体脂肪は減少しています。(この論文参照)

今回の論文の2つの研究の一番大きな違いは、C18:2 n-6のリノール酸でしょう。冠動脈疾患では空腹時インスリン濃度はC18:2 n-6(リノール酸)のパーセンテージと正の相関を示していますが、健康な人の研究ではC18:2 n-6(リノール酸)とインスリンの関連は認められていません。つまり、心血管疾患などではリノール酸からの代謝の活性が落ちていて、適切な流れが滞っているためにインスリン抵抗性や炎症を起こすのかもしれません。

前回の記事「アラキドン酸は本当に炎症を促進するのか?」などを合わせて考えると、糖質制限により何らかの作用でΔ5デサチュラーゼの活性が増加するのではないかと思います。そして、それにより細胞膜の脂肪酸合成が変化し、よりインスリン感受性が高くなるのではないかと思います。

オメガ6不飽和脂肪酸は体内でアラキドン酸に変換され、過剰摂取は炎症を促進する懸念があるため、オメガ3/オメガ6の比が高い方が冠動脈イベントリスクを低下させると一般的には言われています。しかし、糖質制限の場合、アラキドン酸増加により炎症が増加していないばかりか、低下しています。

そして、アラキドン酸の増加はインスリン抵抗性を低下させると考えられます。ただ、これはインスリン抵抗性改善のためにアラキドン酸をどんどん摂取するという意味ではなく、糖質制限をすれば、自然とアラキドン酸が増加し、それがインスリン抵抗性低下に関連しているという意味だと考えます。糖質制限をしている場合、EPA/AA比の測定結果は意味がないか、解釈に注意が必要だと思います。

確かにかなり昔の研究では、デンマーク人は摂取している脂肪酸のオメガ3/オメガ6比が0.28であったのに対して魚食が主であるイヌイットでは2.5であり、虚血性心疾患による死亡率はデンマーク人では34.7%、イヌイットでは5.3%と低かったと報告されています。

しかし、本当にこれがEPAだけのおかげなのか、その他の栄養素、つまり糖質などの影響なのかはわかりません。

本当にEPAはそこまで重要なのでしょうか?アラキドン酸は悪者なのでしょうか?必須脂肪酸なのでどちらも必要であり、糖質制限をしている限り、その比率は特に意識しなくても良いのではないかと思います。特に一次予防でEPA製剤、EPAサプリメントの効果はほとんどないでしょう。

 

「The Relation between Insulin Sensitivity and the Fatty-Acid Composition of Skeletal-Muscle Phospholipids」

「インスリン感受性と骨格筋リン脂質の脂肪酸組成との関係」(原文はここ

2 thoughts on “アラキドン酸とインスリン抵抗性

  1. 清水先生、こんばんは。

    糖質制限下では、これまでの常識がそうではないということになりそうですね。
    アラキドン酸も炎症につながらない。
    オメガ3と6の比も関係ないのでしょうか?

    以前、コメントしましたが、イワシの水煮缶を食べ続けた結果、LDL-Cが急上昇し、338 mg/dLでしたが、内臓脂肪指数VAIは、0.186です。これは糖質制限に加え、オメガ3の好影響もあるのかもしれないと思っています。ただ、さすがにLDLが高すぎるので、イワシ水煮缶は1週間に一度くらいにすると、すぐに230 mg/dLくらいまでに下がりました。

    糖質制限は奥が深いです。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      検査では糖質過剰摂取ではオメガ6が多いと炎症が上昇ですが、糖質制限ではオメガ6が多いと炎症が減少しているわけで、
      オメガ3/6比は本当は何を示しているのかはわかりません。製薬会社などに上手く利用されたのかもしれませんね。

      それにしてもイワシ水煮缶を減らしたらLDLコレステロール値が100低下したのは凄いですね。
      DHAのLDLに対する影響は非常に興味深いですね。

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