米国退役軍人省と国防総省の脂質異常症ガイドラインはかなり緩くなった

米国退役軍人省と国防総省の脂質異常症ガイドラインが改訂されました。その内容はかなり挑戦的です。そしてかなり緩いものになりました。(そのガイドラインはここ)(図は原文より)

上の図は治療のアルゴリズムです。一次予防のためには、スタチンを投与されていないのであれば、脂質の血液検査は10年に一度で良いと言っています。一次予防で40歳以上でスタチンを投与されておらず、新たなリスク(糖尿病や高血圧や喫煙など)がなければ、心血管イベントリスク評価は5年ごとで良いと言っています。

さらに心血管リスク評価には10年心血管リスク(下の計算機のサイトを参照)を用い、その他のCRPやABI(足関節上腕血圧比)、CAC(冠動脈石灰化)スコアなどはルーチンで使用すべきでないとも言っています。

また、一次予防では、心血管イベントリスクが12%以上の場合やLDLコレステロールが190mg/dL以上の場合、または糖尿病患者では、中用量のスタチン治療を推奨しています。

心血管リスク評価が6~12%では、リスクとベネフィットを患者と話し合って、患者がスタチンを好めば中用量での治療を推奨しています。

また、一次予防には、ヒト型抗PCSK9モノクローナル抗体を使用すべきではないとしています。

二次予防には、少なくとも中用量のスタチン治療を推奨しています。高リスクのみ高用量スタチンを推奨しています。

さらに、一番これまでと異なると思われることは、治療に際してはLDLコレステロールの値を目標に管理するのではなく、エビデンスに基づき目標とするスタチンの用量の判断を優先すべきと指摘しています。また、検査前の絶食は不要であるとしています。

一次予防も二次予防にも、地中海食を推奨しています。オメガ3、ナイアシンのサプリやフィブラートは推奨していません。患者に定期的な有酸素運動を推奨しています。

なかなかすごいガイドラインではないでしょうか?特に「無駄に検査やリスク評価を頻繁にするな!」と言っているようです。またLDLコレステロール値を目標として治療することも否定しているようです。かなりこれまでのガイドラインに対して挑戦しているようですし、かなり緩めのガイドラインでしょう。

ただ、食事に関しては地中海食推しですね。糖質制限はまだ長期のエビデンスが少ないのか、それとも故意なのか、全く触れられていません。

このガイドラインでは主に、心血管イベントの10年のリスクを評価すべきだと言っています。

メルクマニュアルにある10年の心血管リスク評価の計算機を使ってみましょう。(計算機はここ

心血管リスク評価(10年間、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)2013年)

私は非常にコレステロール値が高い方ですが、私自身の結果は4.9%でした。10年のリスクが12%になるためには総コレステロールが745にならないとなりません。

ただ、この評価の計算では、年齢、性別以外に、総コレステロールとHDLコレステロール、血圧、糖尿病、高血圧薬の使用、喫煙で計算しています。私が非常に重要視している中性脂肪値は入っていません。だから血液検査も絶食の必要はないと言っているのでしょう。

本当に中性脂肪は考慮の必要がないのでしょうか?以前の記事「中性脂肪/HDLコレステロール比と心筋梗塞」で書いたように、最も中性脂肪の低いグループのリスクを1とすると、最も中性脂肪の高いグループの心筋梗塞リスクは6倍以上です。また、「中性脂肪が低くHDLコレステロール値が高いと虚血性心疾患のリスクは低い」で書いたように、HDLコレステロールと中性脂肪値は非常に重要な因子です。

しかし、いずれにしても今回のガイドラインはかなり画期的なものである気がします。リスクによりますがLDLコレステロールが190mg/dLまではスタチンも特に必要ないと言っていますし、LDLコレステロール値を目標として治療すべきではないと言っています。

私自身は糖質制限をして、HDLが十分に高く、中性脂肪値が十分に低いのであれば、LDLコレステロールが190mg/dLを超えても問題ないと思っています。

糖質過剰症候群

「Management of Dyslipidemia for Cardiovascular Disease Risk Reduction: Synopsis of the 2020 Updated U.S. Department of Veterans Affairs and U.S. Department of Defense Clinical Practice Guideline」

「心血管疾患のリスク低減のための脂質異常症の管理:2020年に更新された米国退役軍人省および米国国防総省の臨床診療ガイドラインの概要」(原文はここ