「低炭水化物食」は日本人に効果があるのか?という低レベルの研究

日本の炭水化物摂取基準は全摂取エネルギー量の50~65%とされています。1日に摂取するエネルギーが2,000kcalの場合、1日に250gから325gの炭水化物を摂取することが望ましいということになります。一方、糖質制限では1日の糖質量は50g~60g程度です。全摂取エネルギー量の10~12%でしかありません。

今回の研究では日本人(アジア人)にとって、「低炭水化物食」と死亡率の関連を分析しています。最悪の研究です。93,654人の参加者(43,008人の男性と50,646人の女性)を対象になんと約17年追跡している研究です。かなり大規模なのですが…

低炭水化物ダイエット(LCD)スコアというものを用いて、そのスコアと死亡率の関連を分析するというのですが、スコアの点数は下の図のようです。

(上の図はここより)

炭水化物の場合、最低から最高のカテゴリーの人は10から0の点数となります。一方、タンパク質と脂質の場合、最低から最高のカテゴリーの人では0から10の点数となります。

LCDスコアは炭水化物、タンパク質、脂質の点数の合計で30点満点です。点数が高い方が低炭水化物の傾向が強いことを意味している(?)ことになります。

炭水化物が摂取エネルギーの29.3%未満であれば10点ですので、糖質制限では全員が10点もらえます。タンパク質では、糖質制限の場合パーセンテージが大きくなるので、比較的高得点(7~10点)くらいでしょうか。脂質も糖質制限ではほとんど10点でしょう。つまり、30点満点で糖質制限では27~30点くらいですね。

動物性タンパク質と動物性脂肪、および植物性タンパク質と植物性脂肪について別々のスコアが作成されています。

ちなみに、どれだけ何を食べたかは、質の非常に低い食事アンケートです。

そこで、LCDスコアと死亡率との関連を分析しています。(表は原文より改変)

低炭水化物食スコア動物性タンパク質と脂質に基づく低炭水化物食スコア植物性タンパク質と脂質に基づく低炭水化物ダイエットスコア
Q1(低)Q3Q5(高)Q1(低)Q3Q5(高)Q1(低)Q3Q5(高)
スコアの中央値515264152781523
BMI23.423.523.623.423.523.623.423.523.6
現在の喫煙者(%)18.016.815.416.816.916.820.416.314.0
糖尿病の病歴(%)3.64.75.53.74.65.23.94.35.9
栄養素摂取量
 エネルギー(kcal /日)1715.22013.82440.61749.82010.32406.61800.42050.52238.2
 炭水化物(%)65.254.242.865.453.743.059.654.149.2
 脂質(%)17.625.435.418.125.434.820.126.030.8
 動物性脂肪(%)8.413.722.07.713.722.712.514.714.6
 植物性脂肪(%)9.211.713.410.411.712.17.511.316.2
 タンパク質(%)11.914.317.612.114.317.012.614.516.0
 動物性タンパク質(%)4.77.611.64.57.611.56.67.98.2
 植物性タンパク質(%)7.26.76.07.66.65.56.06.67.8

上の表はLCDスコアにより5つのグループに分けたときの最低スコア(Q1)と中間スコア(Q3)、最高スコア(Q5)のグループのそれぞれの栄養素の割合です。

一番注目すべきは炭水化物のパーセントです。最もLCDスコアが低いグループの平均は65.2%、最も高いスコアのグループの平均は42.8%(!)です。日本の炭水化物摂取基準は全摂取エネルギー量の50~65%ですから、もっともスコアの低いグループは基準の上限値に近く、最も高いスコアのグループは確かに基準よりも低いです。

しかし、42%もの炭水化物を摂取する食事が本当に「低炭水化物食」と呼べるのでしょうか?低炭水化物食の定義が決まってはいませんが、糖質制限についてこれほど世の中で情報が得られるようになっている時代に、この程度の炭水化物の割合で低炭水化物食と謡って論文としてしまうこと自体恥ずかしい研究です。

逆に言えば、通常の食事では炭水化物少なめでもせいぜい40%くらいの割合を摂取していることにもなるのかもしれません。しかも食事アンケートですので、いい加減です。糖尿病の割合を見てみるとLCDスコアが高い方が糖尿病の割合が高くなっています。その関連性を無理やり結びつけるとLCDスコアが高い、つまり炭水化物の割合が低いほど糖尿病になりやすい、なんていう考えも出てくるかもしれません。

さて、死亡率との関連を見てみましょう。

Q1Q2Q3Q4Q5Pトレンド
スコアの中央値(範囲)5(0–8)10(9–12)15(13–17)20(18–23)26(24–30)
総死亡率
 モデル11.000.97(0.92–1.03)0.91(0.86〜0.96)0.88(0.83〜0.92)0.96(0.91–1.01)0.001
 モデル21.000.95(0.91–1.01)0.93(0.88〜0.98)0.93(0.88〜0.98)1.01(0.95–1.07)0.52
がんによる死亡率
 モデル11.001.02(0.94–1.11)0.98(0.90–1.06)0.97(0.89–1.05)1.00(0.92–1.09)0.61
 モデル21.000.98(0.90–1.07)0.98(0.90–1.07)0.99(0.91〜1.08)1.04(0.95–1.14)0.53
心血管疾患による死亡率
 モデル11.000.95(0.85–1.05)0.86(0.77〜0.95)0.84(0.76〜0.92)0.90(0.81–1.00)0.003
 モデル21.000.94(0.85–1.04)0.90(0.81〜0.99)0.90(0.81–1.00)0.96(0.86–1.08)0.24
心疾患による死亡率
 モデル11.000.84(0.73〜0.97)0.79(0.69〜0.91)0.82(0.72から0.94)0.86(0.74〜0.99)0.01
 モデル21.000.85(0.73〜0.98)0.84(0.73〜0.97)0.89(0.78–1.03)0.92(0.79–1.07)0.27
脳血管疾患による死亡率
 モデル11.001.07(0.91〜1.26)0.92(0.78〜1.08)0.88(0.75–1.03)0.92(0.78–1.09)0.068
 モデル21.001.05(0.89–1.23)0.95(0.80–1.12)0.94(0.79–1.11)0.97(0.81〜1.17)0.45

太字の値は統計的に有意です。

結果としては、LCDスコアと総死亡率の間にU字型の関連が認められました。しかし、極わずかな違いでしかありません。動物性タンパク質と動物性脂肪に基づくLCDスコアも、総死亡率に対してU字型の関連を示しました。対照的に、植物性タンパク質と植物性脂肪に基づくLCDスコアは、ほとんどの死亡率でスコアが高い方が死亡率が低下していました。

食事アンケートという質の低いデータでこれほど差が小さいですし、もっとも低炭水化物食でさえ、糖質制限とはほど遠いのに、低炭水化物食が死亡率に関連しているかどうかを議論しているのが非常に低レベルです。

炭水化物、糖質が多すぎても少なすぎても死亡率が高くなると言いたいのでしょうが、この研究では何も言えません。そして、植物性のタンパク質、脂質を摂る方が死亡率が低いと言いたいのかもしれませんが、これも何とも言えません。

以前の記事「糖質を制限すると寿命が縮まる? 冗談のような研究」で書いたように、アメリカの研究では糖質制限をする方が死亡率が高くなるという、非常に質は低いけどLancetに掲載されてしまった研究があります。

今回は、それよりはマシなのかもしれませんが、低炭水化物の定義すらなく、LCDスコアが最も高い(つまり最も低炭水化物)グループでさえ、炭水化物量にして平均でおよそ260g摂取しているのです。

このアメリカの研究と今回の日本人の研究で違いが出たのは、「アメリカと日本では、炭水化物や脂質、タンパク質源が異なることが考えられて、アメリカでは炭水化物源がソフトドリンクやソーダ、ケーキ、パンなどだが、日本では主に米とその加工品である。」「脂質やタンパク質源となる動物性食品では、アメリカでは主に肉類であるのに対し、日本では、魚介類の摂取量が多い。」などとしています。ちょっと首を傾げたくなる考察です。

いずれにしても、この程度の糖質量で低炭水化物食を謳うのはやめてほしいですし、混乱を招く可能性があります。マスコミなどは「低炭水化物」という言葉だけに反応して、論文の中身などは読んでいませんので、糖質制限反対派によって上手く利用されてしまいます。

みなさんも騙されないように。

 

「Low carbohydrate diet and all cause and cause-specific mortality」

「低炭水化物食と全原因と原因別の死亡率」(原文はここ

4 thoughts on “「低炭水化物食」は日本人に効果があるのか?という低レベルの研究

  1. 糖質過剰の食事により、研究者も判断力・理解力が影響を受けかねない、
    ということはよくわかった研究でした。

  2. 低炭水化物の定義が必要ですが、私が感じるのは

    「中途半端な糖質制限は、デメリットが多いかもしれない」

    と言う事です。この状態では、単に摂取カロリーが減ってエネルギー不足になるだけではないでしょうか。

    糖質制限が真価を発揮するのは、制限によって脂肪酸代謝に変わった後です。
    私が考える中途半端な糖質制限と言うのは、この脂肪酸代謝に変わらない程度の糖質制限です。
    中途半端な糖質制限では、脂肪酸代謝に切り替わらず、糖エネルギー不足になっただけだと思います。

    要するに糖質の制限レベル順に考えると

    (1)糖質が超過剰な人が少し制限すると、それまでよりは良いアウトカムが得られる。
      ↑ 単に異常な食事内容を普通の糖質過剰食にしただけ。肥満などは多少解消されるでしょう。

    (2)もう少し制限すると今度はエネルギー不足などデメリットが目立つようになる。
      ↑ 中途半端な糖質制限で未だ糖代謝メイン。脂肪酸代謝に切り替わっていない糖質制限初期にも起こる現象。

    (3)しかし、さらに制限すると脂肪酸代謝に変わり、メリットが上回る。
      ↑ スーパー糖質制限

    私は常々、以上のように考えており糖質制限批判の研究は概ね(2)の状態をもってデメリットを主張していると感じます。
    「42%もの炭水化物」もこの(2)のレベルに該当すると思います。

    糖質制限の効果は直線的な相関ではなく3次曲線的な相関ではないかと思っていますが、いかがでしょう。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      同感です。インスリンの感受性が高く、糖質エネルギーと脂質エネルギーの切り替えが上手くできるのであれば、
      糖質制限の効果は直線的に近くなるのかもしれませんが、多くの人が糖質過剰摂取ですから、切り替えられないのでしょうね。

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