高血糖が逆流性食道炎をもたらすメカニズム その2 高血糖と高インスリン血症は胃腸の動きを低下させる

人間は恐らく進化の過程の中で、高血糖はもう満腹を意味していたのだと思います。というか、高血糖自体がほとんど起きていなかったと思います。だから血糖値が少し上昇した時点ですでに摂食を抑制する働きが起きているはずです。

低血糖になると胃腸は活発に動き、素早く腸に摂取したものを送り、血糖値を上げるようになりますが、高血糖は逆に胃腸の運動を低下させ、さらなるブドウ糖吸収を減らし、血糖値の長く、そしてダメージを与えるほどの上昇を防ごうとします。しかし、現代の食事は進化の過程では予測していなかったほどの過剰の糖質を含んでいるので、このような高血糖に対するメカニズムでは対処できなくなっているのだと思います。

糖質過剰摂取では高血糖が長時間続き、その間胃腸の働きは低下し続けます。糖尿病のコントロールが悪いと、自律神経障害を起こし「糖尿病性胃麻痺」という状態になることもあります。胃石(胃の中に石のような塊ができること)(ここ参照)ができることもあるようです。

健康な人の正常な範囲の高血糖(144mg/dL)でも正常な血糖値よりは胃の動きが低下します。(図は原文より)

上の図はAが健康な人、Bが1型糖尿病の人で●は固形物、○は液体です。縦軸は左の固形物の方は100分後での固形成分の胃内保持のパーセンテージを示しています。これが大きいと胃の中からの排出が低下していることを示しています。縦軸の右の液体の方は、液体成分を50%排出するのにかかる時間を示しています。横軸は血糖値で4は日本の単位では72mg/dLで、8は144mg/dLです。

そうすると、1型糖尿病だけでなく健康な人でも、144mg/dL程度の高血糖でさえ、胃の動きが低下しているのがわかります。健康でも高血糖になると液体でさえ半分にするのに1時間前後かかる可能性もあるのです。

さらに、高血糖は他の消化器の活動も低下させます。胆のうは胆汁を分泌して脂質の消化吸収を促進しますが、高血糖では胆のうの動きが低下します。

 

上の図は食後120分の胆のう収縮は血糖値が4(72mg/dL)で68%だったのが、それと比較すると、8(144mg/dL)であってもすでに低下し56%、12(216mg/dL)では49%、16(288mg/dL)では30%まで低下します。つまり、脂質の摂り過ぎではなく、高血糖により脂質の消化が滞ってしまっていると考えられます。高血糖があると脂質による胆のう収縮やコレシストキニンに対する胆のう収縮反応は低下するのです。

さらに、高インスリン血症でも胃腸の運動は低下すると考えられます。

健康な人で正常血糖での高インスリン血症(インスリン値46±4μU/mL)は、食後の胃内容排出が有意に遅延しました。胃内容物が半分になるまでの時間が38%または32分増加しました。(ここ参照)

いずれにしても、糖質過剰摂取が胃腸の運動の低下を招いていることは確かでしょう。そうすると、胃の内容物がずっと胃の中に留まるので、その分胃液が食道に逆流する可能性は高くなると考えられます。

胃食道逆流症(逆流性食道炎)は糖質過剰症候群です。改善にはやはり糖質制限でしょう。

 

「Relationships of upper gastrointestinal motor and sensory function with glycemic control」

「上部消化管運動および感覚機能と血糖コントロールとの関係」(原文はここ

3 thoughts on “高血糖が逆流性食道炎をもたらすメカニズム その2 高血糖と高インスリン血症は胃腸の動きを低下させる

  1. >高血糖はもう満腹を意味していた

    糖質制限+カロリー制限の実験を始めて以来、「満腹」と言うものの捉え方が変わりました。

    今の日本において食料はごく簡単に入手でき、1日3食毎回、満腹になるまで食べるのが普通になっていますし、健康には「腹八分」が良いと言われても、それでは物足りないと感じる人も多いと思います。
    しかし、人類の歴史上、満腹になるのは、獲物が手に入った時くらいで、それ以外の時はお腹をすかしていた(実際は、常におなかが少しすいているのが普通だった)はずです。
    コンビニに行けば24時間いつでも食べ物が手に入り、それを毎回、おなか一杯食べるのは非常に不自然だと思えます。しかも、高糖質の食品があふれています。

    そこで、以前にも投稿いたしましたが、現在、糖質制限+カロリー制限の実験中で、1月から5ヶ月目に入りました。
    平日は、1600kcal程度の食事で、週末だけ2000~2500kcal食べると言うインターバルを続けています。
    年末年始を挟んで少し摂取量が増え、平均1600→1700kcal程度になっています。人間、暇になると、つい食べてしまうようです。
    週末の暇なときに多く食べるようにしているのもそのためですが、4ヶ月も続けていると「満腹」になるとかえって気持ちが悪くなります。
    満腹と空腹のどちらが気持ちが良いかと言われると迷わず「空腹」です。
    「腹八分」は、控えめで「物足りない」食事ではなく「十分に満たされた」食事であることを改めて感じています。

    今のところ、特に問題はなく、筋肉量の減少もありません。
    途中でもともとあった不安症状が少し出ましたが、マグネシウムとMCTオイルの摂取で解消しています。
    週末には検査結果が出ます。2ヶ月目の検査はさほど変化はありませんでしたが、さて、今回はどうでしょう。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      糖質制限では確かに糖質過剰摂取のときと比べて、空腹や満腹という感覚自体が変化したように感じますね。
      また検査の面白い追加情報がありましたら教えて下さい。

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