医療の現場ではいまだにLDLコレステロールを重要視しています。しかし、HDLコレステロールが低下し、中性脂肪が増加することが心血管疾患のリスク増加に関連していることもわかっているはずです。インスリン抵抗性があると中性脂肪/HDLコレステロール比は増加します。
多くの医師はLDLコレステロールが高いことは指摘しますが、中性脂肪/HDLコレステロール比の増加については無視しているように見えます。外来で患者さんに中性脂肪/HDLコレステロール比が高いことを指摘しても、ほとんどの方はキョトンとしています。
今回の研究では、インスリン抵抗性を表していると考えられる、中性脂肪の増加とHDLコレステロールの低下と心血管疾患のリスクについて分析しています。
心血管疾患や糖尿病のない50〜75歳103,646人について、8年後に虚血性心疾患の発生率を調べています。
インスリン抵抗性グループの脂質値は、中性脂肪176mg/dL以上、HDLコレステロールで46mg/dL以下としています。インスリン感受性グループの場合、中性脂肪112mg/dL以下、HDLコレステロール60mg/dL以上としています。その間を中間グループとしています。(図は原文より、表は原文より改変)
特性 | インスリン感受性 | 中間 | インスリン抵抗性 |
---|---|---|---|
平均年齢(SD) | 60.3(7.1) | 60.5(7.1) | 59.8(7.0) |
性別% | |||
男性 | 26.2 | 43.7 | 67.8 |
女性 | 73.8 | 56.3 | 32.3 |
血圧% | |||
正常血圧 | 74.7 | 65.0 | 58.3 |
高血圧 | 25.3 | 35.0 | 41.7 |
脂質値、平均(SD) | |||
LDLコレステロール mg/dL | 134(34) | 146(35) | 140(37) |
中性脂肪/HDLコレステロール | 1.1(0.3) | 2.9(1.2) | 6.7(2.0) |
総コレステロール mg/dL | 225(36) | 231(41) | 230(38) |
中性脂肪 mg/dL | 80(19) | 152(61) | 255(60) |
HDLコレステロール mg/dL | 75(13) | 54(12) | 39(4) |
総コレステロール/ HDLコレステロール | 3.1(0.6) | 4.4(1.0) | 6.0(1.1) |
非HDLコレステロール mg/dL | 150(35) | 176(39) | 191(37) |
LDLコレステロール/HDLコレステロール | 1.8(0.6) | 2.8(0.9) | 3.6(1.0) |
インスリン感受性の程度によるグループ分けした、それぞれのグループの特徴を示しています。中性脂肪とHDLで分類しているので、当然それらの値は異なりますが、LDLコレステロール、総コレステロールを見てみるとグループ間での違いがほとんどありません。
上の図はLDLコレステロールが142以下の人と142を超える人でのインスリン感受性による虚血性心疾患発生率の比較です。8年間のフォローアップで、虚血性心疾患の発生率は、LDLが142よりも高くインスリン感受性の人では10%、LDLが142以下で低くインスリン抵抗性の人では17.7%であり、インスリン抵抗性のあるLDLコレステロールが低い人の方が発生率が高くなっているのです。
上の図はLDLコレステロール/HDLコレステロール比が2.69以下の人と2.69を超える人でのインスリン感受性による虚血性心疾患発生率の比較です。同様に、LDLコレステロール/HDLコレステロール比が低いインスリン抵抗性の人(16.2%)は、LDLコレステロール/HDLコレステロール比が高いインスリン感受性の人(9.96%)よりも虚血性心疾患の発生率が有意に高かったのです。
パラメータ | インスリン感受性% | 中間% | インスリン抵抗性% |
---|---|---|---|
総コレステロール/HDLコレステロール | |||
≤4.30 | 9.0 | 11.7 | 20.6 |
>4.30 | 9.3 | 15.8 | 18.4 |
非HDLコレステロール | |||
≤173mg/dL | 8.6 | 13.1 | 16.7 |
>173mg/dL | 10.3 | 14.5 | 19.3 |
血圧 | |||
正常血圧 | 7.1 | 11.1 | 15.2 |
高血圧 | 14.7 | 18.8 | 22.9 |
同様のパターンが総コレステロール/HDLコレステロールと非HDLコレステロールでも表れていました。つまり、インスリン抵抗性であることは、LDLコレステロール、LDLコレステロール/HDLコレステロール、総コレステロール/HDLコレステロール、または非HDLコレステロールが中央値よりも高い場合よりも、虚血性心疾患のリスクが大幅に高くなります。
パラメータ | ハザード比 |
---|---|
インスリン抵抗性(インスリン感受性と比較して) | 1.68 |
LDLコレステロール(≤100mg/dLと比較して>160mg/dL) | 1.19 |
年齢 | 1.06 |
男性 | 1.72 |
高血圧 | 1.60 |
上の表は8年後の虚血性心疾患を予測する危険因子のリスク比です。LDLコレステロールが100以下の人と比較して160を超える人のリスクはたった19%増加でした。LDLコレステロールが60 mg/dL増加すると、虚血性心疾患を発症するリスクが14%高くなりました。しかし、インスリン抵抗性が増加するとリスクは68%増加とはるかにLDLよりも高くなっています。
つまり、LDLコレステロールが高いかどうかよりも、中性脂肪が高く、HDLコレステロールが低いこと、インスリン抵抗性が増加することに注意すべきです。
ただ、中性脂肪が高いこと、HDLコレステロールが低いこと、インスリン抵抗性が高いことの治療法は薬ではありません。糖質制限で改善します。だから、医師はあまり目を向けないでしょう。
糖質過剰症候群
「Study of the Use of Lipid Panels as a Marker of Insulin Resistance to Determine Cardiovascular Risk」
「心血管リスクを決定するためのインスリン抵抗性のマーカーとしての脂質パネルの使用の研究」(原文はここ)
清水先生や江部先生、夏目先生を始めとした、糖質制限肯定派(肯定、というより自明の理ではありますが)の医師の方々は真摯に国民の健康的な生活に資する情報を提供してくださっているのに対して、否定派、折衷派の先生方の論はどうしてもスポンサー忖度の匂いがしてしまいます。
今日も、笠岡誠一とおっしゃる文教大学栄養学の教授の方が、冷やした炭水化物は最高の健康食、という「レジスタントスターチ」という意味不明の理論を展開しているのを発見してしまいました。
なんだかなー、ご勝手にどうぞ。でも他人に勧めないでくだい。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
日本の栄養学は本当に人間を対象として研究しているのでしょうかね?
古典栄養学はどうしても炭水化物から抜け出れないようですね。
先生こんにちは。いつもこちらのブログで勉強させていただいています。
嫌な季節?がやって参りました。年に一度の職場の健康診断です。糖質制限実践中につき、多くの皆様と同様にLDLコレステロールが毎回高値を示します。HDLコレステロールは充分にあり、中性脂肪低値です。
結果が来ると当然D判定が付くので、自分はあまり気にしていなくても、いつも職場に提出しづらいですね…
私は女性で、更年期に当たる年頃ですので糖質制限抜きにしても仕方ないのかなとも思いますが、もう女性ホルモンをたくさん作らなくてよくなってしまった体内で、余ったコレステロールは一体どうなってしまうのでしょうか?
更年期とコレステロールの関係が気になります。
みみさん、コメントありがとうございます。
LDLコレステロール値、悩ましいですね。理解のある会社だと良いですね。
コレステロールは女性ホルモンになるだけではありませんし、男性ホルモンが増えますし、ホルモンになるのは一部ですし、
余りはしないと思います。
(何をもって余っていると考えるのか問題ですが)
おはようございます。前回コメント夏井先生(正)、夏目先生(誤)失礼いたしました。
記事と関係ない話題で申し訳ありませんがランナーでもいらっしゃる先生へ:
みやすのんきさんの新刊『マラソン腕振り革命』一連のランニング本です。 整体的な記述が多々あり、身体は勿論精神的にも健康になるメソッド満載のすばらしい本。 ランにも即効性あります(個人的感想で、関係者ではもちろんありません。)
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
みやすのんきさん、また新しい本を出したのですね。
機会があれば読んでみたいと思います。