インスリン増加が先か肥満が先か?

肥満は多くの病気と関連しています。では肥満になったからインスリン抵抗性が増加してインスリン分泌が増えたのか、それともインスリン分泌が増加したから肥満になったのか、どちらでしょう?

60の研究の112のコホートからなる5,603人の人の分析しました。前の期間(期間1)と後の期間(期間2)でBMIやインスリンの変化の傾きを分析しています。前の期間と後の期間のどの程度間が開いているのかはそれぞれの研究により違いがあると思います。(図は原文より)

上の図はAが期間1のインスリンの変化の傾きと期間2のBMIの変化の傾きを示しています。BMIの期間2の変化とインスリンの期間1の変化は正の関連を示し、インスリンの期間1の変化とBMIの期間2の変化の間の正の時間的関連を認めます。つまり、インスリンの変化が後のBMIの変化に結びついているということです。

Bは期間1のBMIの傾きと期間2のインスリンの傾きを示しています。BMIの期間1の変化とインスリンの期間2の変化の間に関連性がないことを示唆しています。

インスリン過剰分泌が先にあって肥満が起きるのです。ということは、肥満を治療するのではなく、インスリン過剰分泌を改善しなければ根本的には解決しないことになります。

つまり、「痩せてください」というアドバイスや指導は的を射ていないのです。「インスリン分泌を増加させる食事をしないでください」というのが正しいということです。つまり「糖質制限をしてください」と医師や栄養士は言うべきなのです。

肥満がインスリン抵抗性を引き起こすのではなく、インスリン過剰分泌が肥満を引き起こすのです。ただ、インスリン抵抗性が高くなっても必ずしも肥満になるわけではありません。特に我々アジア人(特に男性)では痩せているのにインスリン抵抗性が高い場合があり、2型糖尿病や心血管疾患になるリスクが高くなります。

そうすると、肥満はすでにインスリン過剰分泌、インスリン抵抗性が存在し、病的な状態です。若い人を中心に肥満を「個性」とか「ありのままの自分」を肯定する動きが世界中で起きているようですが、病気を「個性」というのには違和感があります。改善や治療をするかどうかは個人の自由ですが、例えば大きな病気になったときにその病気を「個性」と位置付けることができるでしょうか?肥満によって起こる様々な病気や症状も全て「個性」と受け入れて、医療を求めずにいられるでしょうか?その時にも肥満であることが幸せだと言えるのでしょうか?

以前の記事「肥満関連がんはより若い年齢層にシフトしている」「過体重、肥満関連のがんが40%を占める」「40歳前の過体重でもがんのリスクは大幅に増加する」で書いたように、肥満は確実にがんや他の多くの病気のリスクを高くします。

アルコールを大量に飲んでいる人が肝障害になったときに、アルコールを飲み続けて肝臓を治療することは無理なように、糖質を過剰摂取して肥満となり様々な病気を発症したときに、糖質過剰摂取したまま病気を治療することは「本当は」難しいのです。

肥満を馬鹿にしたりすることは間違っていますが、あえて肯定することも正しいとは思えません。

糖質過剰症候群

「Temporal Associations Among Body Mass Index, Fasting Insulin, and Systemic Inflammation: A Systematic Review and Meta-analysis」

「BMI、空腹時インスリン、および全身性炎症の間の時間的関連:系統的レビューとメタ分析」(原文はここ

2 thoughts on “インスリン増加が先か肥満が先か?

  1. 清水先生、いつもありがとうございます。

    62歳で心筋梗塞発症前までは、糖質依存症(コンビニで支払いの時、レジ前の甘い物は必ず追加)や肥満など、何も考えた事がありませんでした。

    現在は糖質制限(糖質20~30g/日)が当たり前にはなっていますが、清水先生のブログを通して、人間の身体、代謝や健康に対する見方、考え方、そして哲学的な事を学ばさせて頂いていると思っています。

    退院して直ぐに糖質制限を始めました。
    一年位経った時でしょうか、糖尿病の先生に、「先生、心臓はかなり壊死している部分があるみたいですし、心臓やインスリン抵抗性の事を考えて、10㎏位痩せました」と言った時、「患者側からそんな言葉が出るとは」とちょっと驚ろかれたような感じで、そして「肥満ぎみの私には耳が痛いですね」と苦笑いでスルーされました。(いや、肥満です)

    私の周りの糖尿病人、膝痛で通院している肥満の人からインスリン抵抗性などの言葉を聞いた事がありません。

    糖質制限で肥満解消して、毎日軽快に生活できている身としては、肥満に対する考え方を少し変えるだけでも、何か良い方に向かうのにと思う次第です。

    1. 太田さん、コメントありがとうございます。

      私の知っている糖尿病専門医の医師も結構太っています。
      逆になかなか痩せられない患者の気持ちがわかるのかもしれませんね?
      そして、患者側から見れば「先生も痩せられないのだから私が痩せないのは仕方がない」と変に納得できたりして、
      歪んだ信頼関係が築けるかもしれませんね。
      次回以降で少し関連したことを記事にしたいと思います。

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