抗ヒスタミン薬は運動効果を低下させる

抗ヒスタミン薬はアレルゲンなどに反応して分泌されるヒスタミンを抑えるときに使います。アレルギー症状に悩まされている人にはお馴染みでしょう。

ヒスタミンをブロックする薬にはH1ブロッカーとH2ブロッカーがあり、一般的にはH1ブロッカーが抗ヒスタミン薬です。H2ブロッカーは胃酸分泌抑制に使われます。

その両方のヒスタミンブロッカーを使うと、運動時にどのような変化が起きるのかを研究したものがあります。どうしてこのようなことを調べるのかというと、ヒスタミンは、特に運動によってストレスがかかった後の筋肉の血流を調節するのを助ける作用があります。血流の増加は、より多くの筋肉を修復して構築するのに役立ちます。だから運動時にヒスタミン産生が遮断された場合に何が起こるのか?という疑問があるのです。(図は原文より)

 

上の図は、まずは40分間のエアロバイクの運動です。インターバルで行っています。H1およびH2ブロッカーの両方を飲む場合と、飲まない(プラセボ)コントロールを比較しています。プラセボのコントロール群では筋肉の血液の灌流は運動後15分で約3倍に増加し、2時間の回復後も、ベースラインを約50%上回っていました。

しかし、図のBに示すように、iAUC(曲線下面積)として表される運動後の血液の総筋肉灌流は、H1 / H2ブロッカーにより約35%大幅に減少しました。図のCに示すようにプラセボの方が血圧が高くなりましたが、差ははっきりしていません。

図のDの血管緊張の重要な尺度である運動後の血管コンダクタンス(血流の流れやすさ)の増加は、H 1 / H 2ブロッカーによって低下しました。つまり、ヒスタミンをブロックしてしまうと、インターバル運動後の血液の筋肉灌流の低下が起きてしまうのです。

 

上の図は週3回、6週間のトレーニングの後の変化を見ています。

安静時心拍数はコントロール群で減少する傾向がありましたが、H 1 / H 2ブロッカー群では減少しませんでした。図のBに示すようにトレーニングによって誘発される運動能力の変化を見ると、最大酸素摂取量(VO2max)はトレーニングとともに適度に増加し、コントロール群(+3.9%)とブロッカー群(+0.3%)でしたが、有意差はありませんでした。ピークのパワーは、コントロール群+12%、ブロッカー群+7%で、コントロール群の方が増加が大きくなりました。ガス交換の閾値(GET)、呼吸性代償開始点(RCP)は最大の運動負荷の指標ですが、コントロール群ではそれぞれ+22%および+19%増加しましたが、ブロッカー群では+11%および+6%と有意に増加が少なくなりました。

最大運動後に回復する能力を評価でもコントロール群で+81%疲労までの時間が改善しましたが、ブロッカーでは+31%の改善にとどまりました。

図のCに示すように平均心拍数はコントロール群(-9%)で減少しましたが、ブロッカー群では減少しませんでした。

図のDに示すように、ミトコンドリア機能のの評価をするため、ミトコンドリア容量のマーカーとしての骨格筋生検における最大クエン酸シンターゼ活性を分析しました。両方の群で増加し、その増加は、ブロッカー群+14%と比較しコントロール群で+33%と有意に大きくなりました。

図のEに示すように、ミトコンドリアの抗酸化物質のスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)タンパク質含有量も、コントロール群で+56%と著しく増加しましたが、ブロッカー群では+18%でした。つまり、運動のパフォーマンスを良くするために、ミトコンドリアの能力と抗酸化物質のタンパク質の発現を調節する上でヒスタミンは重要な役割があると考えられます。

 

上の図は耐糖能に関するものです。AとBは経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)です。Aが血糖値、Bはインスリン値です。OGTT中の曲線下面積は血糖値およびインスリン値において、コントロール(-11%および-30%)で大幅に減少しましたが、ブロッカー群(+1%および-3%)では減少しませんでした。

図のBで示すように全身のインスリン感受性を示す松田指数はコントロール群で+26%と大幅に改善されましたが、ブロッカー群では+1%となり、耐糖能はブロッカー群では全く改善しませんでした。

図のCに示すように、筋肉の総GLUT4は、両方のグループのトレーニングで同様に増加しました(コントロール+17%、ブロッカー群+16%)。

つまり、耐糖能を改善したくて運動をしていても、抗ヒスタミン薬を飲んでいれば運動による改善が見込めないかもしれません。

 

図のAおよびBは運動時の血流反応を示していますが、血管機能を示す総充血反応(iAUC)は、コントロール(+37%)で増加したが、ブロッカー群(-14%)では逆に低下していました。

図のCは筋肉の毛細血管の増加を示していますが、毛細血管繊維比と毛細血管密度も、コントロール(+17%と+16%)での増加しましたが、ブロッカー群(+5%と-1%)では増加しませんでした。

図のEに示すように、内皮型一酸化窒素シンターゼ(eNOS)の発現はコントロールでは17%増加しましたが、BLOCKでは変化しませんでした。

つまり、慢性的なH 1 / H 2ブロッカーの使用は、トレーニングによって誘発される脚の血管機能、筋肉の毛細血管化、およびeNOS含有量の改善を低下させてしまいます。

 

運動は様々な有益な効果をもたらしますが、せっかく運動していても、ヒスタミンが十分に産生されてシグナル伝達がされないと、その運動効果も大きく低下してしまいます。

ヒスタミンはアレルギー症状に対しては厄介なものですが、不必要なものではありません。それを無理やり止めてしまっては、人間のメカニズムに異常をきたす可能性があります。

今回の研究ではH1ブロッカーとH2ブロッカーを両方飲んでいましたが、片方だとどうなのかはわかりません。しかし、いずれにしても必要な物質を止めることは、どこかにしわ寄せが来る可能性があります。

マラソンなどのときに胃の調子が悪くなるのを予防するためにH2ブロッカーを使用している人もいるかもしれません。しかし、もしかしたら筋肉にとっては負荷を増やしているかもしれません。

薬剤に頼ると人間の大事なメカニズムを崩す可能性が高いと思います。

 

「Histamine H1 and H2 receptors are essential transducers of the integrative exercise training response in humans」

「ヒスタミンH1およびH2つの受容体は、人間での統合的な運動トレーニング応答の重要な変換機である」(原文はここ

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