LDLコレステロールが非常に低いと全原因死亡リスクが高い

病気になることはもちろん望むことではありませんが、究極的にはどんな原因であれ死亡するかどうかが重要です。新型コロナウイルスに感染しなくても、脳卒中で死ぬかもしれません。心筋梗塞にならなくても、がんで死ぬかもしれません。そのような意味において、つまりすべての原因の死亡リスクを考えると、コレステロール値が低いことは決して健康的ではありません。

日本人を対象とした研究でLDLコレステロール値と全原因死亡のリスクとの関連を調べた研究があります。愛媛の地域で1610人の男性(平均63歳)と2074人の女性(平均65歳)、合計3684人を対象に、7~10年追跡しました。3684人中326人(8.8%)の参加者が死亡したことが確認され、そのうち180人が男性(全男性の11.2%)、146人が女性(全女性の7.0%)でした。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図は生存曲線です。LDLコレステロール値によって4つの群に分けています。非常に低い群はLDLコレステロール値70未満(グラフの青線)、低い群は70~92(赤線)、中程度の群は93~143(緑線)、高い群は144以上(オレンジ線)です。一目瞭然でLDLコレステロール値が非常に低い群の方が生存率が低くなっています。そして、高い群を1とすると、非常に低い群の全原因死亡リスクは2.85倍にもなっています。

LDLコレステロール 死亡率/合計(%) 多変数調整HR(95%CI)
<55歳
 非常に低い 4/65(6.2) 4.91(0.49–49.6)
 低い 1/168(0.6) 0.65(0.04–10.9)
 中程度 13/431(3.0) 3.19(0.40–25.4)
 高い 1/124(0.8) 1.00
55歳以上65歳未満
 非常に低い 4/28(14.3) 7.04(1.40–35.5)
 低い 99/9(9.1) 4.33(1.12–16.8)
 中程度 19/468(4.1) 2.24(0.65–7.65)
 高い 3/188(1.6) 1.00
65歳以上75歳未満
 非常に低い 9/52(17.3) 2.52(1.08 – 5.93)
 低い 18/179(10.1) 1.37(0.70〜2.69)
 中程度 60/872(6.9) 0.93(0.54–1.59)
 高い 18/292(6.2) 1.00
75歳以上
 非常に低い 16/36(44.4) 2.13(1.09 – 4.16)
 低い 34/109(31.2) 1.75(1.01 – 3.05)
 中程度 93/441(21.1) 1.09(0.68–1.73)
 高い 24/132(18.2) 1.00

上の表は年齢別です。55歳以上65歳未満では特に非常に低いLDLコレステロール値での死亡リスクが7倍にもなっています。55歳以上65歳未満、75歳以上ではLDLコレステロール値92以下でさえ死亡リスクが高まりました。

多変数調整HR(95%CI)
非常に低い 低い 中程度
性別
 男性 2.80(1.53–5.14) 1.84(1.05–3.22) 0.98(0.58–1.66)
 女性 1.42(0.42–4.74) 1.41(0.73〜2.70) 1.44(0.94–2.19)
BMI
  25未満 2.43(1.46〜4.05) 1.66(1.07–2.58) 1.02(0.70〜1.48)
 25以上 2.36(0.62〜9.04) 1.46(0.54–3.94) 1.89(0.94–3.79)
心血管疾患の病歴
 いいえ 2.63(1.59–4.35) 1.62(1.04〜2.50) 1.15(0.81〜1.64)
 はい 1.64(0.39–6.93) 3.03(1.03–8.84) 1.41(0.52–3.82)
高血圧
 いいえ 3.19(1.35–7.56) 1.71(0.80–3.66) 1.32(0.71〜2.45)
 はい 2.35(1.33–4.16) 1.80(1.13–2.88) 1.16(0.79–1.70)
脂質低下薬
 いいえ 2.75(1.66–4.55) 2.06(1.35–3.14) 1.31(0.92–1.86)
 はい 3.74(0.91–15.4) 0.31(0.08–1.17) 0.49(0.19–1.28)
糖尿病
 いいえ 3.32(2.00–5.52) 1.85(1.19–2.86) 1.21(0.84–1.75)
 はい 0.78(0.19–3.17) 1.21(0.45–3.24) 1.04(0.48–2.27)
慢性腎臓病
 いいえ 1.92(1.11–3.32) 1.48(0.96–2.28) 1.04(0.73–1.47)
 はい 8.69(2.77–27.3) 4.89(1.62–14.7) 2.50(0.94–6.59)

上の表はLDLコレステロールが高い群を1としたときのそれぞれの全原因死亡リスクです。LDLコレステロールが低いことの全死亡リスクへの関連は男性の方が重要なようです。非常に低い群では2.8倍死亡リスクが高くなっています。BMIに関しては標準体重の方が影響が大きいようです。

心血管疾患の病歴がない場合もLDLコレステロールが低い方がリスクが高くなっていましたが、面白いことに心血管疾患の病歴がある人でもLDLコレステロールが低い群で3倍にもリスクが高くなっていました。心血管疾患のある人がLDLコレステロールを低下させる意味があるのでしょうか?脂質低下薬を使っている場合には関連は有意ではありませんが、非常に低い群ではリスクが高くなる傾向はありました。

糖尿病がある場合にはLDLコレステロールとの関連はなく、逆に糖尿病がない人の方が非常に低い群でリスクが高くなっていました。

最も顕著な関係は慢性腎臓病(CKD)との関連です。CKDがあるとLDLコレステロールが非常に低い場合8.7倍も全原因死亡リスクが高くなっていました。

LDLコレステロールが低い場合、医師には何も注意されないでしょう。しかし、LDLコレステロールが低いことが全原因死亡のリスクの大きな増加につながるのであれば、医師であれば70未満という非常に低いLDLコレステロール値を見たら、LDLコレステロール値を高くすることを推奨すべきであり、LDLコレステロール値を高くするように努力すべきです。

LDLコレステロールが低いことは注意が必要です。LDLコレステロールが低いことが健康的というのは幻想、ウソでしょう。

 

「Low density lipoprotein cholesterol and all-cause mortality rate: findings from a study on Japanese community-dwelling persons」

「LDLコレステロールと全原因死亡率:日本人の地域住民に関する研究の結果」(原文はここ

3 thoughts on “LDLコレステロールが非常に低いと全原因死亡リスクが高い

  1. コレステロールの真実を知ってか知らずか
    「健康の為に(LDL)コレステロールを下げましょう。」の大合唱です。

    スタチンなどを処方する医療機関は今回のようなデータはスルーなのですね。

  2. 何か一つの指標を以て、死亡率が高い低いを論じるのはあまり意味がないと思います。
    健康とか寿命は様々な要因が重なって決まるものではないでしょうか。

    1. 高杉さん、コメントありがとうございます。

      多因子であることはその通りです。この記事の主旨はコレステロールが低いことがよいことではないことを述べたものです。
      世の中の医師はコレステロール値が高いことだけを指標にスタチンを処方しています。
      スタチンを飲まないと死んでしまいます、のような脅しをする医師もいるかもしれません。

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