うつ病のセロトニン仮説は根拠なし

病気の原因は様々に見えますが、多くの根本的な原因は食事の誤りだと思っています。しかし、医学はそれぞれの病気にそれぞれの原因を見い出したがります。もちろん、根本ではない原因は様々でしょう。心血管疾患に対するLDLコレステロール原因説でスタチン投与という簡単な図式を医師も患者も好むようです。わかりやすいですからね。そしてそのような図式が一旦定着すれば、誰も疑問に思わなくなります。

それと同様にうつ病の原因も「セロトニン仮説」(モノアミン仮説)が定着してしまいました。うつ病ではセロトニン(またはモノアミンのノルアドレナリンやドパミン)が低下して症状を起こす、という仮説にすぎないものです。SSRIやSNRIなどの薬を売りつけるための製薬会社の努力の賜物でしょう。洗脳はうまくいき、医師も患者も疑問に思わなくなっています。セロトニン仮説およびモノアミン仮説ではうつ病の全体像を完全に説明することはできません。以前から指摘されていましたが、うつ病のセロトニン仮説はウソです。

さて、今回の研究は本当に「セロトニン仮説」のエビデンスが存在するのかを17の研究で分析しています。

セロトニンは、血液、血漿、尿、脳脊髄液で測定できますが、5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)に急速に代謝されます。脳脊髄液は脳の疾患の理想的なバイオマーカーであると考えられていますが、サンプルの収集は侵襲的であり、ある程度のリスクを伴うため、大規模な研究はほとんどありません。脳脊髄液中の5-HIAAの合計19件の研究のメタアナリシスでは、5-HIAA濃度とうつ病との関連の証拠は見つかりませんでした。

閉経後の女性を対象とした3つの大規模な観察コホート研究の1つのメタアナリシスでは、うつ病の女性の血漿セロトニンのレベルが低いことが明らかになりましたが、統計的には有意ではありませんでした。そして、抗うつ薬はうつ病とは無関係にセロトニンレベルの低下と強く関連していることが明らかになりました。ん?抗うつ薬がセロトニンを低下させているように見えますね?

セロトニン受容体に関する2つの分析の結果の大部分は、うつ病の人と対照の人の間でセロトニン受容体の5-HT1A受容体に差がないか、これらの抑制性受容体のレベルが低いことを示唆しています。これは、うつ病の人のセロトニンの濃度または活性が高いことを意味します。ん?

セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンという物質から合成されます。そのため、トリプトファンをたくさん摂って、セロトニンを増やしましょう、のような推奨をする人もいるでしょう。そうだとすると、トリプトファンが枯渇するとセロトニンが大きく低下し、うつ病の症状を発症するはずです。トリプトファン枯渇研究では、うつ病の家族歴を持つ75人という非常に小さなグループでは非常に弱いエビデンスがありました。しかし、最近の健康なボランティアを対象に実施された8つの研究では、トリプトファンの枯渇が気分に及ぼす影響は示されませんでした。 ある研究では、うつ病の家族歴がある人とない人で、どちらのグループでも違いは見られませんでした。またある研究では、うつ病の人と抗うつ薬の現在または最近の使用している人では、トリプトファン枯渇飲料の効果は示されませんでした。つまり、トリプトファンを欠乏させて、セロトニンを低下させても、うつ病が生じないと考えられます。

何万人もの患者を対象とした非常に大規模な研究では、セロトニントランスポーターの遺伝子を含む遺伝子変異が調べられ、うつ病の人と健康な対照者の間でこれらの遺伝子に違いは見られませんでした。これらの研究はまた、ストレスの多いライフイベントの影響を調べ、これらが人々のうつ病のリスクに強い影響を及ぼしていることを発見しました。経験したストレスの多いライフイベントが多いほど、うつ病になる可能性が高くなりました。ただ最近の2つの大規模で質の高い研究では、セロトニントランスポーター遺伝子とうつ病のストレスとの相互作用は見られませんでした。

全体として、中程度または高い確実性の証拠を提供した研究分野はすべて、セロトニン活性のマーカーとうつ病との間に関連性を示さなかったのです。うつ病はセロトニンの活性または濃度の低下によって引き起こされるという仮説を支持する根拠はなかったのです。

スタチン医者ならぬSSRI/SNRI医者でなければ、セロトニン仮説を振り回す医師は、今では少ないでしょう。しかし、巷ではセロトニンはいまだに幸せホルモンであり、それが少なくなるとうつ病になる、などと言われたままです。現在の主流は神経可塑性仮説(BDNF仮説:BDNF(脳由来神経栄養因子)の低下による神経可塑性の障害がうつ病の原因)や神経炎症仮説でしょうか?

BDNFや炎症だけでなく、インスリン抵抗性とうつ病との関連を考えれば、説明できるのは糖質過剰摂取でしょう。おそらくうつ病が糖質過剰症候群であることは確実です。

また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性ではトリプトファンもセロトニンも増加しているのに、うつ病になる可能性が健康な女性よりも非常に高くなっていることや、うつ患者のIGF-1(インスリン様成長因子)が健康な人よりも有意に高いことも非常に興味深いですね。(ここ参照)

食事を変更せずに病気を根本的に改善させることは難しいでしょう。医療の世界に蔓延るビジネスモデルには注意が必要です。うつ病にはまずは糖質制限です。

 

「The serotonin theory of depression: a systematic umbrella review of the evidence」

「うつ病のセロトニン理論:証拠の体系的な包括的レビュー」(原文はここ

2 thoughts on “うつ病のセロトニン仮説は根拠なし

  1. 7/17(日)に公認心理士資格の国家試験受験(8・26合格発表)。
    受験勉強知識では、うつ病→認知行動療法やセロトニン作用を強めるような服薬が推奨されています。
    日常生活でも「朝日光浴びてセロトニン増やす」「joggingのような単調な運動の継続がセロトニンを増やす」、
    そしてセロトニン効果でうつ病も予防や改善、とか言われているようです。
    (ただ服薬にはなぜか逆にうつ病症状増強の副作用)。
    確かに糖質制限開始後は性格明るくなったような(加齢で拘り減かもしれませんが)。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      セロトニンが本当に増加していることを確かめているのでしょうかね?
      まあ、心理士だけでなく、医師の国家試験の知識も似たようなものだと思います。

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